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交通法規やレギュレーション無視の究極のセナ

translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
一言でいうなら、マクラーレン最速のルーフ付きモデル。これより速いマクラーレンが欲しいなら、F-1チームに相談しなければならない。

一般道での法規制や、レースでのレギュレーションを無視してデザインされた、公道は走れない究極のセナだ。マクラーレンが本来セナをどのようなクルマにしたかったのか、明確に示されているともいえる。

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マクラーレン・セナGTR

ロードカーの通常のセナと共有する部分は多い。カーボン製のタブシャシーにエンジン、トランスミッションなど。しかし実際はかなりの部分で異なっている。

ボディには新設計のフロントスプリッターとリアデュフューザーを備え、フロントバンパー両脇には大きなダイブプレーンを装備。ボルテックス・ジェネレーターも付く。

ボディ後端から遥か後方へと飛び出た巨大なリアウィングは、特に目に付く部分だろう。一般道では違法なアイテムだが、サーキット上ではディフューザーと合わせて優れた空力効果を生み出す。

車高は通常のセナより34mmより低く、タイヤ部分のボディ幅は、フロントで77mm、リアで68mm広げられている。これらの変更によって、セナGTR通常のセナよりも低い速度域で、セナに匹敵するダウンフォースを生み出すという。しかも空気抵抗は少ない。

249km/hで1tのダウンフォースを発生

実際、249km/hで1tのダウンフォースを生み出すとのこと。ロードカーの新境地を拓いたセナより、200kgも強い力で地面に押さえつけられることになる。

マクラーレン・セナGTRはサーキットでしか走れない。通常のセナで採用されていた、知的ながらも車重のかさむ、複雑な車高調整式サスペンションは採用されていない。そのかわり、マクラーレン720S GT3レースカーのものをベースにした、軽量で一般的なサスペンションが搭載される。

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マクラーレン・セナGTR

エンジンには二次触媒は付かず、制御マッピングGTR独自のもの。最高出力は825psで、通常のセナの25ps増し。1.0L当たりの出力は200psを軽く超えることになる。

インテリアは純粋なレーシングカーそのもの。骨格がむき出しとなり、主要なコントロールスイッチは上下が切り取られたステアリングホイールにレイアウトされている。運転中も手を伸ばす必要がなく、レーシンググローブをはめたままでも操作しやすい。

もっとも、6点ハーネスでシートに固定されると、手を伸ばすことすら不可能だけれど。

車重は通常のセナより10kgだけ軽量だという。サスペンションをシンプルなものにし、エアバックや触媒、インテリアのパネル類を取り外して軽くなったぶんは、追加となったボディキットにデーターログ・システム、エアジャッキと消化器で相殺されているためだ。

825psを恐れる必要がない異次元の走り

それでも、セナGTRの乾燥重量は1188kgに収まり、マクラーレンF1を除く、現代のマクラーレンの中では最も軽量なクーペとなる。英国での金額は、税抜で110万ポンド(1億5400万円)なり。

通常のセナはもちろん素晴らしいクルマだが、公道用のタイヤを履く都合上、その性能は限定されている。たとえ特注で柔らかいコンパウンドのピレリ・トロフェオRを持ってしても。

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マクラーレン・セナGTR

一切の縛りから解き放たれたセナには、完全なレース仕様のサスペンションと特製のエアロキットが追加され、真の実力が引き出されている。セナGTRで走り出すと、絶妙に制御されつつ常軌を逸したと思えるほどの、まったくの別次元が待っていた。

試乗日のスネッタートン・サーキットは路面がかなり湿った状態だった。スーパーソフトのレインタイヤを履いていても、160km/hに届く速度でもホイールスピンを誘発する。

しかし、トラクションコントロールは極めて優秀で、825psを恐れる必要はない。利用可能な最大の馬力を、クルマが考えて与えてくれる。加えてGTRは、クルマ1台が乗っかっているほどのダウンフォースで路面へ押さえつけられているから、高速域でハードブレーキングをしても問題ない。

サスペンションはドライコンディション用の設定だったため、今回の路面には少し硬すぎた。ダウンフォースの効かない低速コーナーでのグリップレベルは限定的だったものの、ただ恐怖感を感じるだけではない。コーナー出口めがけてドリフトさせる楽しさも味わえる。

身体の一部がクルマと一体になる

マクラーレンによれば、セナGTRはレースカーの720S GT3より3秒から5秒ほど速いラップタイムでサーキットを周回できるという。プロのドライバー向けのハードタイヤではなく、アマチュアも受け入れてくれるソフトタイヤなら、更にラップタイムは早くなるそうだ。

興味を持っていただいた読者には申し訳ないが、限定75台のセナGTRは、受注開始と同時にすべてが売約済みとなったとのこと。

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マクラーレン・セナGTR

セナGTRで最も注目するべき能力は、圧倒的な直線加速でも、ウェットでも凄まじい高速域でのグリップ力でもない。それらが高次元で組み合わされたバランスの秀逸さにある。濡れた路面では絶妙なスリルを残しつつ、恐怖を感じさせない奥行きがある。

セナGTRを運転していると、自分の身体の一部がクルマと一体になっている感覚がある。相当な値段だったことには違いないが、マクラーレン・セナGTRは、その価値に見合うモデルだと断言したい。

マクラーレン・セナGTRのスペック

価格:110万ポンド(1億5400万円)
全長:4744mm(標準セナ)
全幅:2153mm(標準セナ)
全高:1195mm(標準セナ)
最高速度:329km/h(予想)
0-96km/h加速:2.8秒(予想)
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:1188kg
パワートレインV型8気筒3994ccツインターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:825ps/7250rpm
最大トルク:81.4kg-m/5500rpm
ギアボックス:7速オートマティック


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