歌舞伎の真髄はしっかりと押さえつつ、庶民の娯楽だった往時のように“なんでもあり”なエンタメとして、さまざまな手法で作品のもつ魅力を伝え続けてきた花組芝居。『婦系図』などの泉鏡花作品から『かぶき座の怪人』などのパロディ、漫画原作ものやシェイクスピアものまで多彩に取り組んできた同劇団が、いよいよ歌舞伎の大作『義経千本桜』に挑む。“ネオかぶき”が、古典の大作をどう料理するのか注目されるなか、12月13日(金)に東京・あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)で初日の幕が開く。

時は平安時代末期。源平合戦で手柄を立てた源義経は英雄となるが、それによって兄・頼朝より謀反の疑いをかけられる。天下を狙う藤原朝方はふたりの離反を企て、義経に後白河法皇からの褒美だとして「初音の鼓」を渡す。鼓を「打つ」は、兄を「討つ」との意味が込められていると伝える朝方。法皇の命だけに拒めないものの、鼓を打たなければその意を汲んだことにならないと考える義経だったが、鎌倉方は依然として義経との敵対を深め……。物語は義経と頼朝の対立を主軸に置きつつ、源平合戦で死んだはずの平家の武将、知盛・維盛・教経の驚くようなエピソードが絡み、義経を慕う静御前や孝行狐まで加わって、息もつかせぬ展開が続く。

碇を担いで海に沈んでゆく知盛の雄々しくも鬼気迫る姿が胸に迫る『渡海屋・大物浦』、庶民ながら維盛に忠義を尽くす“いがみの権太”に涙が絞られる『すし屋』。さらには、旅を続ける静御前に付き従う佐藤忠信が、実は「初音の鼓」を巡る孝行狐だったことがわかる『道行初音旅』など、歌舞伎ではひとつひとつの段が独立して上演されるほどクライマックス続きの本作。今回は約2時間半(予定)にギュギュッとまとめての上演だ。

1987年に俳優・演出・脚本を兼ねる加納幸和を座長として設立された、花組芝居。32年の活動を経て、ますます深度と熱量を増すその舞台から目が離せない。公演は12月22日(日)まで。

文:佐藤さくら

花組芝居『義経千本桜』