(西尾 太:人事コンサルタント、フォー・ノーツ代表取締役社長)
会社員が、会社を辞める、あるいは辞めたくなる理由として最も大きなものは人間関係だといいます。多くの「退職理由ランキング」でも職場の人間関係が上位になっています。
その中で最も大きな退職要因になるものが「上司」です。私もこれまで多くの上司のもとで仕事をしてきましたが、「辞めたくなる上司」は確かにいました。そして私自身も、部下から「辞めたくなる上司」と見られたこともあったことでしょう。
「なにも、やりたくて上司をやっているわけではない!」という方もいるでしょう。問題のある「部下」に悩んでいる方も多いことでしょう。そのうえでさらに「ダメ上司」とでも言われた日には・・・。でも、仕方がない、あなたは「上司」なのです。上司もつらいですよね。
上司と部下の関係をどう作るかは永遠のテーマです。上司は部下に悩み、部下は上司に悩んでいます。そのため、困った上司への対策本や、困った部下をいかに動かすかといったノウハウ本が巷に溢れています。けれども、絶対的な正解はありません。それらに書かれていることはうまくいくこともあるでしょうし、効かないこともあるでしょう。
「理想の上司」を目指さなくてもいい
そして「理想の上司」というのも困ったものです。ある調査によれば、1位が内村光良さん、2位がムロツヨシさんだそうです。イチローさんや明石家さんまさんなどもランキングに名を連ねています。
ちょっと無理ですね。彼らのようにはなれません。理想の上司の要素に「包容力がある」なんてありますが、複雑です。何をもって包容力なんだか。
じゃあどうしましょう。
現実的な話をします。
目指すべきは、とりあえず、「理想じゃないけどダメでもない」上司です。「ダメ」じゃなければ、部下から多少文句を言われても、なんとかやっていけるんじゃないでしょうか。
私は、多くの会社で「管理職研修」をさせていただいています。そこで管理職、すなわち上司にあたる人たちに、「これまで経験した、あるいは聞いたことがある、ダメな上司」の要素をどんどん出してもらうというセッションをしています。
出るわ出るわ・・・。みなさん、これまで苦労してこられたんですね。
よく出るものを紹介させていただくと、
「自己中」
「気分屋」
「無責任」
「優柔不断」
「行動しない」
「理不尽」
「話を聞かない」
「決めない」
「失敗は部下のせい、手柄は自分のもの」
などから始まり、さらには
「ケチ」
「仕事中にいなくなる」
「肝心な時にいない」
「どこにいるかわからない」
「何を言っているかわからない」
「時間にルーズ」
「臭い」
「服装がだらしない」
「夜になると服着てない」
・・・などなど際限なく出てきます。
以上は、それこそ「上司の罪」と言えるでしょう。これらの項目がいくつも当てはまっていたら、確かに部下はつらいですね。辞めたくもなるでしょう。そもそもなんでこんな人が上司なの? って思われても仕方がありません。
「困った管理職」の共通点とは
そこで管理職に皆さんにお伝えしていることは、「要するに、そうじゃなきゃいいんですよ」ということです。ネガティブがない、ダメなところがない、という状態です。完全じゃなくてもいいんです。
それなら意外とできませんか?
私は仕事柄、企業の人事評価に携わり評価会議に出席させていただく機会が多いのですが、当然そこでは「管理職=上司の評価」も経営陣によって議論されています。「優れた管理職」についての議論は簡単に終わります。議論が長引くのは、「困った管理職です」。上司のまた上司も困っているのです。
「困った管理職」には、ある種の共通点があります。それは「致命的にダメなところがあること」です。
そう、「ダメなところがない」ということが、とても大切なのです。
「致命的にダメ」な6つの要因
上司の「致命的にダメ」な要因の代表例を挙げてみましょう。評価会議でも管理職研修でも、実際によく出てくる要因です。
(1)臭(くさ)い
「いきなりそこかよ」と思われるかもしれませんが、生理的なものは、ほかにどれだけ優れたところがあったとしても致命的になってしまいます。加齢臭(?)なども含め、においには気をつけましょう。焼肉を食べたらブレスケアを徹底するか、もしくはできれば休日前だけにしましょう。また、においを消すためのコロンは嫌がる人もいるので、とにかく「無臭」を心がけましょう。併せて、服装のだらしなさ、頭髪、爪(きれいならよいです)にも注意をしてください。
(2)話を聞かない
「話を聞いてくれない」は研修で必ず出てくるキーワードです。評価会議でも「あいつ、話聞かないんだよなあ」ということはよく出てきます。
でも上司だって忙しいので、いつでも聞けるわけではありません。「部下から話しかけられたら、今の作業を止めて、パソコンの画面から目を離して、部下に向き合って『なんだい』って聞いてあげましょう」と、本などに書いてありますが、実際には、そんな暇はありませんね。そもそも「ちょっといいですか」が、「ちょっと」だった試しはありません。
ではどうするか。本当に忙しかったら、いつでも「なんだい」と聞いてあげるのではなく、「今、手が離せないから、〇〇時にもう1回声をかけてくれる?」と対応しましょう。話せる時間だけは伝えてあげて、その時間には必ず話を聞くようにしてください。聞くだけでもいいことがたくさんありますから。
それともう1つ。「話が長い」というのもダメです。「話が長い」というのはよくない評価です。手短にお願いします。
(3)気分屋
「言うことや指示がコロコロ変わる」。ある調査では、こんなタイプがダメな上司のナンバー1でした。確かにこれでは部下は困りますね。とはいえ上司だって人間です。忘れることもあります。また、臨機応変も大事です。機嫌がいい時と悪い時では対応が変わってしまうこともあります。
でも、そうであるという自覚を持つことはできるでしょう。「自分は指示が変わってしまうことがある」と自覚しましょう。願わくば、変わった理由を説明できればいいですが、自覚がなければそれもできません。ですので、自分は指示が一貫しないことがある、間違うこともある、と自ら認めておく方が、部下は楽でしょう。ひとこと「ごめん」と添えられれば、なおいいですね。
(4)ケチ
私のこれまでのキャリアの中で、中間管理職時代が経済的に一番苦しかった時期だったかもしれません。住宅ローンもある、子供の教育費もかかる、自分が使えるお金はわずか。ですから、部下にいつもご馳走できるような余裕はありません。好きでケチをやっているわけではないんです。そもそもお金がないんです。
でも部下は、「上司の方がたくさんお金をもらっている」と思っています。確かにそうでしょう(支出はともかく)。
ではどうするか。私は年に1回、繁忙期の終了時に、部下に「佐賀牛をご馳走する」というのを毎年していました(部下にさせられていました)。厳しかったですが、とにかく年1回で済みます。その日のために数かカ月切り詰めました。そういった区切りをつけて、年1回の大盤振る舞いぐらいはしてみてはいかがでしょうか。
(5)無責任
責任を取るのは難しいですね。上司のせいじゃないかもしれません。でも、それが上司の役割です。クビを切られるほどの責任を取る場面は少ないはずです。日常業務のことなら、「部下のミスは自分の責任」と怖くても宣言してしまいましょう。それが上司の仕事だと割り切りましょう。そのちょっとした勇気が、あなたの上司からも部下からも、あなたへの評価に結びつきます。
(6)時間にルーズ
すべての約束を守ることができれば、それに越したことはありません。しかし、いつ何が起きるかわかりませんし、いつも約束を守れるものでもないでしょう。でも1つだけ言いたいのは、時間だけは守りましょうということです。「あの人は時間にうるさい」というのは悪い評価ではありません。「きっちりしている(ところもある)」ということになります。ひょっとするとビジネスで一番大切なことかもしれません。出勤時間から始まり、ミーティング開始時間、アポイントでの訪問時間、そして締め切り、納期など、時間に関してだけはしっかり守ることが(他は多少だらしなくても)、一定の信頼を得る要素です。
※ ※ ※
いかがでしょうか。上司として最低限これだけは気をつけよう、という項目を挙げてみました。
まずは「罪じゃない上司」を目指しましょう。これだけでも、平和に過ごすことができます。ひょっとしたらあなたの「よいところ」がより評価されるようになるかもしれません。
(つづく)
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 外資の首切りを羨む社長が決定的に見落としている事
[関連記事]
コメント