海のプラスチック汚染、とくに5ミリ以下の小片に細分化された「マイクロプラスチック」が大きな問題になっている。「どこから」「何が」流出しているのか。2019年5月まで川崎市議会議員を務めていた小田理恵子さんが取り組んだ、海面/河川のマイクロプラスチック浮遊状況調査の結果を3回にわたってお伝えする。(JBpress)

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※本記事はPublicLab(パブラボ)に掲載された「マイクロプラスチック調査からわかった不都合な真実」「下水道からマイクロプラスチックが流出?」を再構成したものです。

(文:PublicLab編集部 小田理恵子)

 2018年8~9月にかけて川崎市内の河川や港湾、計14カ所で実施したマイクロプラスチックの浮遊状況を調査しました。これまでの2回で調査の経緯と手法、その結果について説明しました。

東京湾を漂うプラごみはどこからくるのか?
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浮遊するプラごみで最も多いのは人工芝だった!
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 調査から導き出された結果は、川崎市特有のものでしょうか。環境系ベンチャー企業のピリカ(https://corp.pirika.org/)は、同時期に川崎市以外にも国内外24カ所で調査を実施しています。

 その調査結果を見ると、全体の23%がこの人工芝と思われる緑色の棒状のプラスチック片でした(川崎市の調査では12.4%)。ピリカによると川崎よりも東京の方が人工芝の割合が多いそうです。

地方では「想像だにしなかった製品」が検出

 そして、川崎市をはじめ都市部ではほとんど検出されず、地方で多く検出されたのが「農業用の肥料カプセル」でした(写真1)。同社も想像だにしなかった製品だそうで、まさに調査をしてみなければ分からなかったことです。

 今回の川崎市での調査で分かったことは、陸からプラスチックが流出していることと、人工芝が多く含まれていたという点にとどまります。しかし、今後同様の手法で調査を重ねていき、データが蓄積され、そこから新たな発見があるかもしれません。そうした意味においても、今回の調査に関しては一定の意義があったと自己評価しています。

 さて、マイクロプラスチックの由来として明らかになった「人工芝」と「農業用肥料カプセル」。これらについてどのように対応すればいいでしょうか。屋外の人工芝を全面的に禁止すべきでしょうか、肥料にプラスチック製品を使用するのを禁止すべきでしょうか。

 ピリカはこの調査結果を基に、いくつかの自治体や団体に課題解決の協力を依頼すべくアプローチしたところ、ことごとく無反応であったとのことです。当該自治体の首長がSDGs持続可能な開発目標)のバッジを着けていても、です。

 不都合な真実に直面したときに、私たちの社会がどのような反応を示すのか。それは、社会の成熟度を端的に示していると感じます。

人工芝の施設をなくせと主張するだけでは

 今回の調査結果はマイクロプラスチックの流出経路の一部を明らかにしたにすぎません。その結果だけを見て「人工芝の施設をなくせ」と主張するだけでは、問題解決には至りません。まずすべきは、科学的根拠に基づく調査を行い、その結果を社会で共有することではないでしょうか。社会問題は、行政だけでも企業だけでも解決することは難しいでしょう。

 生活者たる市民も含めた社会全体が課題を認識すること、その上で対話を通じて問題解決の道筋を探ることが必要ではないでしょうか。

 今回取り上げたマイクロプラスチックの問題に関しても、まずは流出しているプラスチックは何なのか、それは私たちの生活や産業の中でどういう位置付けなのかを理解し、共有することが必要です。そのために行政に求めたいのは、情報発信と対話の場づくりです。持続可能な社会、より良い環境を次世代に残すために、こうした結果を受け止めることから始めてほしいと願っています。

 本調査にご協力いただいたほか、マイクロプラスチックに関する知見と情報を提供してくださったピリカと、小嶌不二夫社長(写真2)へ謝辞を述べさせていただきます。

流出経路の可能性の一つが下水道

 マイクロプラスチックがどこからどのように海洋に流れているのか詳しいことは分かっていませんが、9割が陸上由来だという説があります。今回の調査はその流出経路と製品などを洗い出すことにありましたが、その際に流出経路の可能性の一つとしたのが「下水道」です。下水管を通ったプラスチックが、さらに下水処理施設を通り抜けているのではないか?と考えられるからです。

 特に汚水と雨水を同じ管で流す「合流式下水道」は、降雨時に汚水を含んだ未処理水が河川や海に放流されることがあります。筆者は2016年の決算審査特別委員会で川崎市における未処理水の放流日数について確認したことがあります。そのようなデータは取っておらず、ポンプ場一カ所での未処理水放流日数を日誌から推測して答弁していただいたのですが、それによりますと雨水滞水池への流入日数が73日で、そのうち未処理水が放流された日数が40日、平成23年から5年間の合計では降雨日数が494日で、うち未処理下水放流が181日あったということでした。年平均では36日と、決して少なくない日数であるといえます。

 未処理水にはプラスチックごみが含まれる可能性は高いと考えますが、では下水処理場で処理した後の水についてはどうでしょうか。今回の調査では下水道処理場の放出口近くの河川での調査は実施しましたが、下水道処理場での調査は行っておりません。処理場を管理する市に委ねるか、全面的な協力を得るしかないからです。

全国で初めて下水道調査を実施した横浜市

 下水道処理場における水質調査は、シアンやカドミウムなどの有害物質をはじめ、BOD(生物化学的酸素要求量)や水素イオン濃度など、下水道法で定められた45項目について実施していますが、その中にマイクロプラスチックは含まれていません。法令に基づく調査の対象となっておらず、検査方法も確立していないため、自治体が積極的に下水道におけるマイクロプラスチック検査を行う状況にはないといえるでしょう。

 さて、そのような中で、試験的にではありますが、下水道処理場でのマイクロプラスチックの調査を行った自治体があります。横浜市です。

 横浜市では2018年の夏から秋にかけて、3カ所の水処理センターで流入水と放流水の両方で調査を実施しています。横浜市の公表している「下水道におけるマイクロプラスチックの基礎的調査」資料によると、処理センターのうち2カ所は流入水からマイクロプラスチックが検出され、1カ所は流入水と放流水の両方から検出されました。

 ただしこれは、試験的な調査であり、資料中では採取する水量や固形物を濾しとるメッシュの大きさなどによって結果が変わる可能性も指摘されています。横浜市では今後も継続的に調査を重ねていくとしており、その動向には引き続き注目していきたいと考えています。

 さて、下水道処理場でのマイクロプラスチックの検査手法が確立され、下水道からの流出が確認されれば「ポイ捨てごみを減らしてもマイクロプラスチックの流出はなくならない」ということになります。今回調査で明らかになった「人工芝など屋外にあるプラスチック製品の破片が流出する」問題とあわせて、下水道からの流出をどうやって抑えるのか、を考えていかなければなりません。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  東京湾を漂うプラごみはどこからくるのか?

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マイクロプラスチック浮遊状況調査で採取されたプラスチック片(ピリカ提供)