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バッテリー容量倍増で航続距離260km

text:Matt Joy(マット・ジョイ)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
フォルクスワーゲンで最も小さな都市部向けのスモールカーが、2011年に登場したUp!。そのUp!をベースに、フォルクスワーゲンとして初めての量産純EVとなったのが、2013年に登場したe-Up!だ。

Up!のクルマとしての実力は高かったとはいえ、EVのe-Up!の場合はバッテリー容量が鍵を握っていたといって良い。初期モデルの航続距離は限られていた。

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フォルクスワーゲンe-Up!

2019年にまったく新しいID.3を発表したフォルクスワーゲン。時の流れとともにEVの位置づけは大きく変化し、e-Up!にも最新のEV技術が投入されることとなった。

最も大きな変更点が、36.8kWhにまで容量が増やされたリチウムイオンバッテリー。マイナーチェンジ前の容量は18.7kWhだったから、ほぼ倍になったことになり、航続距離も大きく伸延している。フル充電で最大260kmまで走行が可能となった。

角型だったバッテリーセルはパウチ状へと変更され、エネルギー密度を高めていながら体積は20Lも小型化している。一方で電気モーターの出力には変わりなく、83psの瞬間最高出力と21.5kg-mの最大トルクを得ている。

オプションで対応となる欧米規格のCCS急速充電器を用いれば、1時間で空の状態から80%まで充電することが可能。一般的な7.2kWの交流充電器を用いる場合、同じ条件なら4時間でまかなえるという。

瞬間最高出力83psのモーターは従来どおり

マイナーチェンジした新しいe-Up!は、エアバックが6カ所に増え、レーンキープ・アシストも標準装備となる。2019年のフランクフルト・モーターショーで発表された新しいブランドロゴが用いられる、初めての量産車ともなる。

e-Up!の基本的な構成は従来どおりで、見慣れた印象だ。ボディやインテリアのデザインに小さな変更が加えられているが、ややプレミアム感のある価格にふさわしい、上品さを備えたコンパクトモデルに変わりはない。

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フォルクスワーゲンe-Up!

モーターの瞬間的な最高出力は83psとなっているが、継続して発生できる最高出力は54psとなるのも従来どおり。21.5kg-mの最大トルクは、スタート時から得られる。

マイナーチェンジに合わせて、e-Up!には3種類のドライブモードが追加された。エコ、エコ+では、省エネの目的でパフォーマンスが抑えられ、エアコンの出力も弱くなる。トランスミッションはシングルスピードで、回生ブレーキの効きの強さには4段階のモードが用意される。

リチウムイオン電池は体積が小さくなりつつ、重量は15kg増えている。そのため、ガソリンエンジンのUp!と比較すると車重は200kg重いことになる。

バッテリーは主に床下に搭載されるため、重心は低い。モーターは低回転域から最大トルクを湧出してくれるから、走り出しでは重量差を感じることはさほどないだろう。

効果的なワンペダル運転も可能

e-Up!のような都市部での利用を前提としたコンパクトカーは、EVとしてのメリットを得やすい。変速のことも気にせずに済むから、ガソリンモデルより運転しやすく感じる。走行音も静かで、混雑した路地を走る際も周囲に気を払いやすい。

発進加速はテスラ並みに鋭く、アクセルペダルの操作とモーターのパワー感は違和感がなく丁度いい。踏んだぶんだけ直線的に力が増すから、限られた電力を完全にコントロールすることができるように思える。

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フォルクスワーゲンe-Up!

ブレーキペダルを踏むと、機械的なブレーキとエネルギーの回生とをシームレスに制御してくれる。シフトノブをスライドさせれば、慣れれば効果的なワンペダル運転も可能で、航続距離をさらに伸ばせる。

今回の試乗の前半では、ワンペダル運転で45kmほどを走行したが、実際に消費した電力は26kmぶんだった。エネルギーを節約しようという労力も、ほとんど必要ない。

残りのクルマの仕上りは好印象のまま。市街地を低速で走らせるのに充分なしなやかさを備えつつ、コーナリングで気を使うほど柔らかいわけでもない。全般的に乗り心地はとても良い。

今回の試乗はスペインバレンシア地方となったが、滑らかな路面では運転も楽しめた。ただし、車重が増えたことで、ESPが介入する前の横方向へ掛かる荷重は増えている。

フォルクスワーゲンらしい上質さ

高速道路の速度域では、コンパクトカーなりの防音処理と小さくない風切り音の存在で、スピードを実感させられるが、他に音の立つ場所がないから仕方ないところ。Up!はフォルクスワーゲンのエントリーモデルではあるものの、質感やデザインの仕上りなどは、格上のモデルに準じて優れている。

英国での価格はまだ明らかにはなっていないが、フォルクスワーゲンによればマイナーチェンジ前のe-Up!と大きく違わないとのこと。英国への導入は2020年1月の予定となっている。

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フォルクスワーゲンe-Up!

200kmを超える実際的な航続距離を備えたe-Up!は、実用性やパフォーマンスはそのままに、現実的に郊外にまで足を伸ばせるクルマとなった。都市部から一歩世界が広がった。

いまのところ、EVが日常的な自動車利用の条件に適合するかどうか、購入時に検討する必要は残っている。しかし条件さえ合えば、フォルクスワーゲンe-Up!ほどに確かな品質を備えたコンパクトEVは、現在のところそう多くはない。

フォルクスワーゲンe-Up!のスペック

価格:未定
全長:3600mm
全幅:1645mm
全高:1504mm
最高速度:128km/h
0-100km/h加速:11.4秒
航続距離:260km
CO2排出量:0g/km
乾燥重量:1160kg
パワートレイン:交流同期モーター1基
バッテリー:36.8kWhリチウムイオン
最高出力:83ps
最大トルク:21.5kg-m
ギアボックス:シングルスピード


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