- 人類は進化の初期過程で、感情の働きに影響を与える「神経伝達物質」の取り込み能力を低下させていることが判明
- 一方で、その後の進化過程では、不安やうつ感情に対抗する遺伝的変異も増え始めている
東北大学大学院生命科学研究科は、今月2日、「人類が不安やうつ傾向になりやすい方向に進化してきた」と発表しました。
セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質は、感情の働きにおいて大きな役割を持っています。その起源は非常に古く、現在でも多くの動物において、その関連遺伝子の機能が強く保存されています。
しかし一方ヒトを含む霊長類では、進化の過程で関連遺伝子に変化が起き、それが原因で不安感情やうつ症状になりやすくなっている可能性があるといいます。
研究チームは「そうした遺伝的変異が、ヒトの社会性や攻撃性に影響を与えている可能性がある」と示唆しています。
Human-specific mutations in VMAT1 confer functional changes and multi-directional evolution in the regulation of monoamine circuits
https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-019-1543-8
ヒトにだけ見られる遺伝子変化
本研究以前の取り組みにより、神経伝達物質を運ぶ「VMAT1遺伝子(小胞モノアミントランスポーター1)」が、人類進化の過程で変化を被っていることが明らかになっています。
特に、VMAT1遺伝子のアミノ酸配列において、130番目に位置するグルタミン酸(Glu)はグリシン(Gly)へ、そして136番目に位置するアスパラギン(Asn)からスレオニン(Thr)へと、それぞれ変化が見られるのです。
現代人には、136番目のアミノ酸がイソロイシン(Ile)になっている人もいますが、スレオニン型はこのイソロイシン型の人よりも、不安やうつ症状を抱きやすいことが分かっています。
また、スレオニン型は、イソロイシン型に比べて、VMAT1遺伝子の神経伝達物質の取り込みが低いことも判明しているのです。
神経伝達物質の取り込みが落ちている
こうした先行研究を踏まえ、東北大学の研究チームは、人類進化の中でヒトとチンパンジーの共通祖先から誕生した可能性のある5つの「VMAT1タンパク質」を再現。それぞれが持つ神経伝達物質の取り込み能力を測定・比較しました。
その結果、人類進化の初期段階で、神経伝達物質の取り込みは低下していることが明らかになったのです。
VMAT1遺伝子のアミノ酸配列が変化していることと合わせて考えると、人類は、進化の初期段階で、不安やうつ傾向を抱きやすい道に舵を切ったことが伺えます。
他方、その後の過程(約10万年前)で現れたイソロイシン型が、不安やうつ症状への抵抗力を持っていることから、進化初期とは異なる神経伝達経路への外圧がかかっていると予測されます。
最近では「精神疾患は進化上理由があって残された」とする説や、「うつ病の人々は悲観的なのではなく、世界を正しく認識しているのだ」という抑うつリアリズム仮説も浮上しています。人類は他の生き物とは違う複雑な社会を作り上げてきたため、それに応じて心理的・感情的な成長も独特な道をたどっているのかもしれませんね。
コメント