代替テキスト

「75歳以上の高齢者の医療費自己負担額(窓口負担額)は、現行1割。しかし、これを2割に引き上げる法案を、政府が国会に提出する準備を進めていることが11月ごろから報道されました。じつは高齢化が進む日本において、医療費が抱える財政問題は、年金と同じくらい“深刻”。75歳以上の後期高齢者だけでなく、すべての国民にとって自己負担額の引き上げは、避けて通れそうにないのです」

そう指摘するのは、経済評論家の加谷珪一さん。冒頭の法案については、12月4日に、来年1月の通常国会に提出することが“見送りになった”と一部で報じられた。だが、負担額引き上げの見送りは“一時的”なものにすぎないと加谷さんは語る。

「従来の人口予測や、政府が発表している“かなり甘め”な経済予測を前提に、現状の物価ベースで試算しても、医療費はこれから20年で約10兆円上がる計算です。こうなると、いよいよ現行では財政が立ち行かなくなる。解決策の一つとして、政府は現役世代の給料から天引きされる『保険料率』を段階的に引き上げるのではないでしょうか」

※70歳以上が3割負担になるのは、「課税所得」が145万円を超えた場合

現在、健保組合の保険料は全国平均9.2%、自営業者などが加入する協会けんぽの保険料率は10%。だが、これから20年でそれぞれ11.1%、11.8%に引き上げられる見込みだという。これは、年収600万円の会社員の手取り給与が年間約10万円減額される計算だ。

「現役世代にそれほどの負担を強いても、膨らみ続ける医療費を補填することは不可能に近い。そこで、“自己負担額増”です。同じく10年以内に、75歳以上の後期高齢者も含めた全員が3割負担になる可能性が高いと考えています。さらに20年後には、現役世代が4割負担に、そのうち年収800万円以上の高額所得者については5割負担になっていてもおかしくありません。国民の自己負担額は将来にわたって3割まで、というのは’02年の健保法改正で明記された事項なのですが、すでに財政制度等審議会などでは、負担を3割から引き上げることに言及、つまり、再び法改正が示唆されているのです」

報道の「2割負担」を超え、後期高齢者も現役世代並みの負担になるという予測図には、ため息しか出ない。

「いま40〜50代の人が後期高齢者になるころには、国の医療費負担を抑えるために、国民の自己負担額が増えている。すると国民は高度な医療が受けにくくなり、民間の高額な医療保険に頼るなど、負担はさらに増えてしまうでしょう。過度の飲酒・喫煙を控え、生活習慣には配慮するなど、“病院にかからなくてもよい体づくり”が、いちばんの負担増対策のように思えます」

“まだまだ先のことだ”とたかをくくっていると、「全員5割負担時代」は意外と早く来てしまうかもしれない……。