全国各地で総合スーパーを「ドン・キホーテ」化する動きが進んでいる。一方で、深夜営業になることから、治安の悪化や騒音を心配する住民の反対運動も起きている。

2020年春に岐阜市加納神明町に開業する「MEGAドン・キホーテUNY」もその1つだ。改装前のスーパーは午後9時までの営業だったのに対し、ドンキになれば深夜0時までの予定となる。

「加納西まちづくり協議会」の会長を務める土川さん(75)は、「この辺りは22時にはシーンと静まり返り、真っ暗になる住宅街。会社側には2663人の署名を集めて提出したが、次の打つ手が考えられない」と嘆いている。

●「不良少年が色々騒ぐのではないか」

土川さんによると、加納神明町の「アピタ岐阜店」の周囲300メートルは幼稚園や小中高校があり、住民の3割が高齢者という地域だ。

住民からは「夜の交通量が増加してうるさくなるのではないか」、「子どもの溜まり場になるのではないか」、「不良少年が色々騒ぐのではないか」といった声が寄せられているという。

11月に署名提出が報道されたことを受け、協議会には「ドンキ化」によって騒音やゴミに悩まされている地域から、激励の声が届いているという。

「事業転換した他の地域からは、『うちは地域として反対できず、今大変な目にあっている』という連絡もありました。店舗は幹線道路沿いでもなく、住宅に隣接している場所です。地元に愛されてきたスーパーなので、正直改装は残念でした。住民は弱い立場で、力を合わせることしかできません」(副会長の内田さん)

●会社側「必要に応じて対策を検討」

ドン・キホーテ」や「MEGAドン・キホーテ」、総合スーパーの「アピタ」、「ピアゴ」を展開する「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」(PPIH、東京都目黒区)は、2022 年中を目途に「アピタ」、「ピアゴ」の約100 店舗を「MEGAドン・キホーテUNY」に業態転換する計画を進めている。

アピタ」と「ピアゴ」を運営する「ユニー株式会社」は今年1月、PPIHの100%子会社となった。業態転換することで売り上げ高が1.5倍に伸びた実績もあり、売り上げが伸び悩む店が対象となっている。今回深夜営業に反対の声が上がっている「アピタ岐阜店」改装も、その一つだ。

営業時間は基本「MEGAドン・キホーテUNY」は午前8時〜深夜0時、「ドン・キホーテ」は午前9時〜深夜2時までで、多くの店で営業時間が延長しているという。

PPIHグループの広報担当者は「アピタ岐阜店」改装について、「深夜0時閉店で変わっていない。周辺への影響が軽微になるように計画し、必要に応じて対策を検討しています」とコメントした。

●「受忍限度」を超えているか?

では、もし営業が始まった場合、住民は深夜営業の差し止めを求めることはできるのだろうか。水野博文弁護士に聞きました。

ーー営業後、実際に住民の損害が受忍限度を超えていると判断されるケースは、どのようなレベルでしょうか

騒音に関する事件では、その音が「受忍限度」を超えているかどうかがポイントとなります。受任限度を超えるかどうかは、形式的に決まるわけではありません。

・侵害行為の態様と侵害の程度 ・侵害される利益の性質と内容 ・侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度

などを比較検討するほか、

・被害の防止に関して採りえる措置の有無やその内容、効果

などの事情を総合的に考察して判断されます(平成10年7月16日最高裁判所判決)。

実務上、受忍限度を超えるかどうかの判断においては、公的な基準が重視されます。例えば各都道府県の公害防止条例などです。

騒音・振動などが、地域に応じて設定されている公的基準を超える場合には、受任限度も超えていると判断される傾向にあります。

●過去には営業差し止めされた事例も

ーー店の騒音に関する過去の裁判例はありますか

深夜営業のカラオケ店の騒音に対して、深夜営業(午前0時以降の営業)の差し止めが認められた事案があります(札幌地方裁判所平成3年5月10日判決)。

判決は、市の公害防止条例や同規則などの公的な基準等に照らし騒音(この事案では45~80ホン)が受任限度を超えると判断し、深夜営業の差し止めを認めました。

この裁判例においては、騒音が受任限度を超えていることやカラオケ店側が防音対策のために有効な手段を講じなかったことなどを考慮し、損害賠償請求だけでなく、営業の差し止めまで認めています。

ーーもし今回の事件で、住民が深夜営業の差し止めを求めた場合、法的にはどのように判断されるのでしょうか

利用客の会話、自動車のエンジン音、店内部からの騒音など、午後9時以降の騒音や振動等が、公的な規制基準を大きく超え、午後9時までの営業時間帯に比べ、騒音等による影響が顕著であり、かつ店側が被害を防止するために有効な措置を講じなかったという事情などがある場合には、営業の差し止めまで認められる可能性があります。

【取材協力弁護士】
水野 博文(みずの・ひろふみ)弁護士
岐阜県多治見市出身、名古屋大学法科大学院卒業。
弁護士法人浅野総合法律事務所にて、企業法務、人事労務のほか、個人の方の法律問題を幅広く担当。
趣味はスポーツ観戦、旅行

事務所名:弁護士法人浅野総合法律事務所
事務所URL:https://aglaw.jp

「不良少年が騒ぐかも」 地元に愛されたスーパーが「ドンキ」に…住民に懸念広がる