JR東海が、特急「ひだ」「南紀」の次期車両を想定し開発したHC85系。その試験走行車が完成しました。ハイブリッド方式で国内初の120km/h運転が目指されます。デザインは「和」がコンセプト。コンセントは全席に用意です。

HC85系 次世代の特急「ひだ」「南紀」を見据え登場の「発電機搭載電車」

JR東海の新型特急車両「HC85系」。その試験走行車(1編成4両)が完成し、2019年12月12日(木)、名古屋車両区で報道陣へ公開されました。名古屋飛騨高山方面を結ぶ特急「ひだ」、紀伊半島方面を結ぶ特急「南紀」の次期車両として使うことを見据え、開発されたものです。

特徴はまず、「ハイブリッド方式の鉄道車両」なことが挙げられます。搭載するディーゼルエンジンの回転で発電した電気と、ブレーキ時にバッテリーへためた電気を用い、モーターを使って走るもので、かんたんにいえば「走行用の発電機とバッテリーを搭載した電車」とも表現できます。

特急「ひだ」「南紀」が走る高山本線紀勢本線は、線路上空に車両へ電気を供給する架線がなく、一般的な電車は自走できない「非電化区間」です。そのため「ひだ」「南紀」では現在、ディーゼルエンジンで直接的に車輪を回転させる方式のキハ85系気動車ディーゼルカー)を使用しています。

新たに登場したHC85系は、車両に発電機があるため非電化区間も自走可能。形式名の「HC」は「Hybrid Car」を表し、「85」には、1989(平成元)年の登場以来30年にわたり走り続けてきたキハ85系から技術革新した車両、という意味が込められているそうです。

ちなみにこうしたハイブリッド車両は、ほかの鉄道会社では気動車に準じる扱いなことが一般的ですが、HC85系は各車両の形式名が「クモハ85」「モハ84」「クモロ85」と、電車の方式に従っています(標準的な気動車方式だと「キハ85」などとなる)。その理由についてJR東海の担当者は、できるだけ「電車のメリット」を享受できるよう開発した車両であること、エンジンを除けば電車に近い車両であることを挙げます。

国内初を目指すHC85系&ハイブリッドにはどんなメリットが?

いわば「走行用発電機とバッテリーを搭載した電車」であるJR東海HC85系、従来のキハ85系ディーゼルカーに対し、主に以下のようなメリットがあります。

トルクコンバータ(変速機)といった気動車特有の部品が不要になる。
・ほかに多数存在する電車と同様の機器を使うことで、メンテナンスの負荷やコストを削減できる。
・ギアチェンジがなくなり、乗り心地が向上する(キハ85系は変速1段・直結2段のトルクコンバータを使用)。
・エンジン数の削減(1両あたり2基から1基へ)、駅停車中のアイドリングストップなどで静粛性や乗り心地が向上する。
バッテリーの併用で燃費が15%向上する(環境負荷が減る)。

特急「ひだ」「南紀」でいま使われているキハ85系は、登場した1989(平成元)年当時、営業最高速度120km/hの速さと加速力など、それまでのディーゼルカーの印象をくつがえす優れた動力性能が注目されました。

ただ現在、日本のハイブリッド鉄道車両で、120km/hの営業最高速度を実現しているものはありません。

そうしたなかJR東海は、ハイブリッド方式の旅客用鉄道車両で国内最大容量のバッテリーを採用するなどし、HC85系でも優れた動力性能――国内初となるハイブリッド車両による120km/hでの営業運転を目指すとしています。

キハ85系JR東海発足後に登場した最初の車両で、平成を走りました。それを令和の時代へ引き継ぐ形で、安全性や快適性を高めた車両が誕生しました」(JR東海 東海鉄道事業本部 車両部 平野正敏部長)

なお、このたび登場した試験走行車は、全車両にモーターを搭載(4M)。先頭車両前面下部のスカート部分には、シカとの衝突を想定したクッションも備えられています。

新型車両「HC85系」車内はどうなる? 今後は量産に向け試験

JR東海の新型特急車両「HC85系」、そのデザインは日本」飛騨・南紀地区をイメージした「和」がコンセプトです。

外観は「漆器の持つまろやかさや艶のある質感」をコンセプトとし、特に先頭車の前面、上部、照明を滑らかな曲線形状にすることで「和」を表現。そして、車両の前面から側面に繋がるオレンジ色の帯を曲線にして「躍動感」を表現したとのこと。

車内は「木のぬくもり」のほか、グリーン車が「沿線の新緑と、美しい川や夕暮れの紫の空をグラデーションで表現」したというデザインで「落ち着いた上質感」を、普通車が「沿線の紅葉と、祭り・花火のイメージをグラデーションで表現」したというデザインで「明るいワクワク感」を演出したといいます。

車内設備としては、全席へのコンセント設置、温水洗浄機能付き洋式トイレや客室内荷物スペース、防音床、揺れを軽減させるセミアクティブダンパ(グリーン車のみ)の採用などが特徴。快適性や利便性が高められているほか、客室とデッキには防犯カメラも設置されています。台車(車輪がある部分)への振動検知装置や、車両の状態を車両基地などへリアルタイムに送信しメンテナンスに活用する機能の導入など、安全性も高められました。実際に車内の騒音は、キハ85系と比べてだいぶ下がっているそうです。

HC85系は今後、1年間を目途にハイブリッド技術の確立に向けた基本性能試験、長期耐久試験などを実施。その試験結果を踏まえて、2022年度を目標に量産車を投入することが検討されています。走行試験は、2019年内に始まる予定です。

JR東海が開発した新型特急車両「HC85系」の試験走行車(2019年12月12日、恵 知仁撮影)。