失言に批判が集まると、ヌテラのボトルとセルフィーを撮ってTwitterアップしたサルビニ。
サルビニのTwitterより

 イタリアの次期総選挙で極右のマテオ・サルビニの同盟が政権に就く可能性が非常に高くなっている。五つ星運動(M5S)が3つに分裂する方向に向かっているからだ。

 イタリア世論調査センシスによると、48%のイタリア人は「強い指導者」が政権に就くことを希望しているという。その対象にされているのがサルビニであろう。

◆大衆ウケを狙った動きしかしないサルビニ
 ところがサルビニを皮肉った評価をしている人物がいる。それが的を得ているように筆者には思える。その人物とはM5Sからローマ市長になったヴィルジニア・ラッジである。彼女がスペイン紙『El País』のインタビューの中でサルビニのことを次のように語っている。

「サルビニは日和見主義者だ。彼は何事をするにも常に自分が大衆にどのようなイメージを与えるかということを意識して行動している。その証拠は彼が内務相になって権力を握ってから見ることができる。(内相に就任してから)内相としての執務に就いたのは36日間を満たさなかった。それ以外の14か月はイタリア国内を回ってTシャツを着て(支持者と)写真を撮ったり、(訪問する場所の)ティピカルな料理を食べたりしながらあらゆることに私見を披露していた。しかし、治安や社会秩序といった面について彼は何もしていない
「全国の市長が彼に陳情しても、彼はそれに常に背を向けていた
ローマ市に警官の増強をすると約束しておきながらそれを果たしたこともなかった。サルビニは単に良く喋る人だということだ」
(参照:「El Pais」)

 どこかで聞いたことがあるような話ばかりではあるが、これはあくまでもイタリアのサルビニについての批判である。

◆浅い理解の扇動的発言が逆にイタリアでも批判の的に
 サルビニは私見を色々と披露するのだが、そのどれもが物事への理解が浅く、単に人を煽るためだけに発せられるものだ。
 つい最近も彼はそんな浅い発言をしている。来年1月に予定されているエミリア・ロマーニャ地方選挙のための遊説を行ったサルビニは、彼が食べる食事の中にヌテラ・チョコスプレッドはないと語ったのである。どういうことかというと、ヌテラのチョコスプレッド原材料として使用されるヘーゼルナッツトルコ産だからということなのである。つまり、彼は「イアリアの農業を支援するためにイタリア産のものを食べよう」と勧めた、というわけだ。

 しかし、ヌテラはのチョコスプレッドは、イタリアチョコレートの大手企業フェレロだし、同社がトルコ産のヘーゼルナッツを使用している理由はイタリアではその生産量は非常にわずかで原材料として使用しようにも同社の需要を満たすだけの生産量がないため、地理的にも近いトルコ産を使用しているというわけである。そのような事情を調べもせずに、単にイタリアの農家に気に入られようとした彼の発言は、逆に関係者や一般消費者に心証を悪くさせたのである。その後、それに気づいたサルビニは謝罪したらしい。このような軽率さはポピュリズム政党が良く侵す傾向にある。(参照:「ABC」)

 ちなみに、この失言を批判されたサルビニは、すぐさまTwitterでヌテラのチョコスプレッドセルフィーを撮影した。

◆それでも支持を集める極右ポピュリズム政党
 とはいえ、この極右ポピュリズム政党が現在支持率において11月28日の時点でトップの32.7%をマークしているのである。それに右派2党フォルツァイタリアイタリア同胞の支持率を合わす49.2%となって確実に政権に就くことができる。(参照:「Panorama」)

 それを裏付けるように現在の五つ星運動と民主党の連立政権は不安定でいつ連立を解消しても不思議ではないという地点にまで至っている。
特に、五つ星運動の議員が同盟に議員が移籍する動きを見せている。既に五つ星運動の4人の上院議員が同盟に移籍することが確実となっている。

◆「五つ星運動」を襲う分裂の危機
 イタリアでは議員が政党を変えるというのは上着を着替えるのと同じで日常茶飯事のことだ。最近18か月で80人の議員が別の政党に移籍している。前回の総選挙が実施された2018年3月から今年7月までに政党移動は28件あったそうだ。一度に複数の議員が別の政党に移籍するといった具合である。

 マテオ・レンツィが新党イタリア・ビバを創設した際には民主党から40人余りの議員がこの新党に移籍している。その中には現政権の二人の閣僚も含まれている。五つ星運動からイタリア・ビバに移籍したジェルソミナ・ビノは「五つ星運動は民主政治がどのようなものか理解していない。政治は政党を強固なものにするのではなく、民衆に回答を提供するために政治をするのだ」と述べて、政党が弱体化して民衆が望んでいるものを提供できなくなるとその政党に籍を置き続けることは意味がないということを示唆したのである。

 ベルルスコニー元首相の政党、フォルツァイタリアから民主党に移籍したベアトゥリゼ・ロレンツィンは8回も政党を変えている。彼女は「唯一バカだけが一つの政党にとどまっているだけだ」と語って、政党を変えるのは当たり前のことという考えなのである。(参照:「Publico」)

 このように政党を変えることが容易なイタリア議会だ。10年目の節目を迎える五つ星運動は2年前の選挙で32%の支持票を獲得して同盟との連立政権に就いたのであるが、現在はその支持率は16%まで下降している。容易に政党を変えることのできるイアリア議会では凋落している政党に残る意味はないわけだ。

 だから、同党の議員の動きも活発で、同盟と民主党に議員の移籍がこれから更に増える様相にある。しかし、五つ星運動自体は、反体制派として特権階級に甘んじている政治家どもに反対して誕生した政党だ。そのルーツに戻るべきだという意見の議員もいる。ということで五つ星運動は次期選挙までに3つのグループに分裂して政権に就くのは二度とないであろう。そして国民から支持を集めている同盟を中心に右派政権が遅くとも2年後には誕生する可能性が高まっている。

<文/白石和幸>

【白石和幸】
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント1973年スペインバレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

失言に批判が集まると、ヌテラのボトルとセルフィーを撮ってTwitterにアップしたサルビニ。 サルビニのTwitterより