アンドリュー・タガートとアレックス・ポールの2人による……という説明も、もはや不要か。米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高3位を記録した「ドント・レット・ミー・ダウンfeat.デイヤ」や、12週のNo.1を記録した「クローサーfeat.ホールジー」、コールドプレイとのコラボ曲「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」等、日本でも大ヒットしたタイトルは多く、2010年代ブレイクした洋楽アーティストの中では知名度もかなり高い、といえる。

 思えば、彼らが世に認識された「セルフィー」(2014年)の大ヒットから約6年が経つ。あの頃から音楽の流行も大きく移行し、「セルフィー」のようなゴリゴリのEDMや、「クローサー」路線の哀愁系エレクトロが上位にランクインすることもなくなった。上手いことブームに馴染んできた彼等にとっても厳しい時代になり、ここ最近は苦戦を強いられている。

 とはいえ、ヒット=いい作品というのも少し違うハナシで、チャートでは勢い振るわなかったタイトルの中にも、各々にとってはハマる曲があるだろう。丁度1年前の2018年12月にリリースされた前作『シック・ボーイ』も、1stアルバム『メモリーズ...ドゥー・ノット・オープン』(2017年)からセールスは大分落ちたが、曲の質が極端に下がったワケではない。これまでの作品にはなかったテイストを取り入れる等の工夫もされている。

 本作は、その『シック・ボーイ』に続く通算3作目のスタジオ・アルバムで、今年立て続けにリリースした全10曲のシングルにより構成された、いわばベスト盤的な内容に仕上がっている。シングルを網羅した方には若干物足りないかもしれないが、冒頭4曲はアルバムと同じ12月6日に同時リリースされたばかりの新曲なので、完全な寄せ集めではない。

 オープニングは、オーストラリア出身のシンガー・ソングライター=エイミーシャーク参加の「ザ・リーパー」。「ドント・レット・ミー・ダウン」にも通ずるマイナー・コードのエレ・ポップ(トラップに近い)で、華やかではないがチェインスモーカーズらしい幕開けの役割を果たした。ソングライターには、前2作でも大活躍した女性シンガーソングライターのエミリー・ウォーレンも参加している。

 2曲目は、人気DJカイゴを迎えた「ファミリー」。カバー・アートのイメージ通り、夕暮れ時の海岸で聴きたくなるおセンチ系ハウスで、あえて強調したであろうアコースティック・ギターの音色がイイ雰囲気を醸している。カイゴとチェインスモーカーズの個性が見事にミックスされた夏っぽいダンス・トラックで、EDM全盛期なら大ヒット間違いなし……では?

 3曲目の「シー・ザ・ウェイ」は、ビジュアル・ボーカル共に色気たっぷりの女性シンガー、サブリナ・クラウディオが参加した屈折感のある重厚且つヘヴィなエレクトロ・ポップ。サブリナの粘り気あるボーカルこそ同曲の武器で、聴き終わった後も彼女のパートだけはやたら頭に残るインパクトを与えた。

 4曲目の「P.S.アイ・ホープ・ユアー・ハッピー」は、パンク・バンドのブリンク182を招いた意欲作。他のタイトルとは一線を置いていて、お得意のオートチューンは抑え気味に、バンド・スタイルを活かしたポップ・ロックに仕上がっている。個人的にはもっと“ブリンク182寄り”にしても良かったと思ったが、チェインスモーカーズの作品という意味ではこれくらいが妥当か。ファミコン(時代)を彷彿させるリリック・ビデオは、ブリンク182のキャラやノスタルジックな曲のイメージを上手く表現していて、出来高だった。

 2月にリリースした1stシングル「フー・ドゥー・ユー・ラヴ」は、アルバム『ヤングブラッド』を大ヒットさせたオーストラリアのポップ・バンド=ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーとのコラボレーション。セピア色の旋律や、エレクトリックなインタールードなど、チェインスモーカーズ“っぽい”要素を上手い具合に5SOSらしいロック・サウンドに焼き直している。対バンみたいな構成のミュージック・ビデオも“男子寄り”な感じがいい。本作は、この曲と前述の「P.S.アイ・ホープ・ユアー・ハッピー」の2曲が、新しい風をもたらしている。何なら、パニック・アット・ザ・ディスコくらいのヤラかし様でも良かったかも(?)。

 オランダ出身の新人歌手=ビューロウと、ラッパーのタイ・ダラー・サインがゲスト参加した「ドゥー・ユー・ミーン」も、ポスト・マローンの後を追ったような感触にブレを感じつつも、これまでの作品とは少し違った重圧感があるのを魅力と捉えた。アート・タッチなリリック・ビデオもオシャレだったし、ゲストの個性も十分引き出せている。一方、ビービー・レクサをフィーチャーした「コール・ユー・マイン」は、トラック、メロディ共に既存感満載で、少々退屈。期待度が高かっただけに、もうひとヒネり欲しいと欲張ってしまうのは筆者だけではないハズ。

 6月にリリースした5曲目のシングル「テイクアウェイ」には、「ドント・レット・ミー・ダウン」のリミックスにも参加した米シカゴ出身のDJ/プロデューサー=イレニアムと、ジョナス・ブルーの「ポラロイド」にリアム・ペインと参加したレノン・ステラの2人がクレジットされている。ザ・チェインスモーカーズ的フューチャーベースも、正直若干のマンネリ感は否めないが、意表性は求めずこれまでのザ・チェインスモーカーズ“路線”の曲を期待している方には、まちがいなくハマると断言できるだろう。米ニューヨークで撮影した近未来風のビデオと掛け合わせると、尚良い。

 米アトランタ出身のプロデューサー=ロンドン・オン・ダ・トラックが手掛けた「キルズ・ユー・スローリー」は、本作の中で唯一ゲスト不在のナンバー。昨今のR&B~ヒップホップ的流行を意識したトラックは、バージィが大ヒットさせた「マイン」路線のミディアム、とでもいうべきか。アンドリューファルセットが絶妙にマッチしていて、他ゲストの面子を潰す程いい表情をみせている。「パリ」なんかもそうだけど、ゲストに頼らなくてもいい曲作るんだよなぁ……。


Text: 本家 一成

『ワールド・ウォー・ジョイ』ザ・チェインスモーカーズ(Album Review)