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皆様は岡野教を御存知だろうか?
僕が高校2年の時にやってた宗教だ。
教祖は僕で、信者は後ろの席の根門君と、隣の席の原野さんの三人の宗教だ。
我々岡野教の活動はただひとつ。
休み時間に、三人で声を揃えて教典を読むだけだ。
教典のほとんどは忘れてしまったが、偉いもので未だに暗唱出来るところがある。

「人間、人の気持ちになるとゆう事は本質的に不可能であって、それを侵してはならない」

若さ故に文面は破綻しているが、教祖が言いたかった事はこうだ。
人の気持ちになって考える事は大事だが、結局いくら考えても人間みんな微妙に違うもので、結局のところわからない。
自分がされても嫌じゃない事も、されて嫌な人もいる。
そんなわからない事を気にしたり、考える暇があったらあなたの好きなよう楽しく生きなさい。

素晴らしい教典である。
これは恐らく昔教祖が極度の気遣いだった事から出来た一節なのだろう。

小学生の頃、教祖は親友の川岸君とよくテレビゲームをして遊んでいた。
しかし、いつも二人の遊ぶ時間は一瞬だ。
別に家が厳しくてゲームの時間が決まってる訳でもない。
学校が終わってから、どっちの家でゲームをやるか決める時間に大半を費やすからだ。

「どうする?」
「どっちでもいーよ」
「えー、でも家来て貰うの悪いしなぁ」
「いやいや、全然いーよ」
「川ちゃんの家にする?」
「いや、でもそれだと岡ちゃんに悪いし」
「いや、俺はいいけど、川ちゃんの家の電気代かかるしなぁ」
「どうする~?」

酷い日はこのまま日が沈んだ。
可愛くない小学生である。
小学生なんて、帰る手間の省ける自分の家がいいに決まっている。
どっちかが、小学生らしい小学生ならこうはならなかったはずだが、奇跡のバランスで我々は小学生活の大半を気を遣って過ごしたのだ。
中学生活も比較的気を遣って過ごした教祖が、疲れ果てた末にたどり着いた境地なのである。

結果、岡野教は我々の将来を心配した先生による弾圧により、たった数ヶ月で解散させられる事となるが、今でもたまに思い出す。
信者達は元気してるだろうか?
教祖は今も地下に潜り力を蓄えているとか、ただただ寝てるだけだとか……。
皆様も自分の人生、人に支配されないように。

オジスタグラム史上最速
ではでは、知らないおじさんの人生「オジスタグラム」と行きましょう。

本日のおじさんは、亀さん!
ドラクエウォークを引退した僕が、おじさんのこころを集める為に公園を歩いていたところ遭遇したおじさんだ。

亀吉なのか亀田なのかわからないが、御本人が亀さんでいーよと言ってるので、恐らくどこかに亀がつくのだろう。
深緑色のジャンパーを着て、植え込みと一体化してワンカップを飲んでる亀さんを見て、僕は逆にこころを奪われた。

「出来上がってますか?」
「まだ飲み始めたばっかだよ!ガハハハ!」
「一緒に飲ませて貰っていいですか?」
「いーよー!」

オジスタグラム史上最速である。
亀さんがワンカップを飲み干すのを待ち、居酒屋に直行する。
うまく行きすぎだ……。

もしかして美人局か?

美人局を模した、おじもたせか?
どこだ?もたせてる側のおじさんはどこだ?

「かんぱーい!」
「かぁ~!兄ちゃん!ワンカップもいいけど、ビールもうめぇわ!」

目の前で満面の笑みで無精髭に泡をつける亀さんを見て、おじもたせの事はどうでもよくなった。
ワンカップとビールで御機嫌の亀さんは喋り続ける。

「兄ちゃんはどこ出身だ?」
「福井です」
「福井かぁ! いいとこだなぁ。何にもなくて!」
「こらっ! 亀さん!」
「ガハハ!いやいや、何にもないのがいいんじゃないか。兄弟とかいるのかい?」
弟と妹が」
「長男か! 親孝行しねぇとなあ。両親は御健在かい?」
「ええ」
「福井に? 兄ちゃん結婚は?いい人はいるのかい?仕事は?好きな食べ物は?逆に嫌いな……」

これじゃ、どっちがオジスタグラムをやってるのかわからない。
このままじゃ、僕は知らないおじさんに声をかけて話を聞いて貰うだけのメンヘラおじさんだ。

あれを食べてりゃ病気になんてならないよ
強引にオジスタグラマーとしての矜持を見せる。

「そう言えば、C.C.Lemonって今もあるのかい?」
「あるんすかねぇ。あの…」
「あれはうまいよなぁ。どこのメーカーだったか?キリンか?」
「あの亀さんは…」
サントリーだ! そうだ、サントリーだ!」
「どんだけ喋るんですか!」
「ガハハハ!よく言われるよ。あんたは口から生まれたって!ガハハ!」
「ヘケケケ!ほんとですよー。亀さん、めちゃくちゃ元気ですねぇ。おいくつなんですか?」
「57よ!見えないだろ!?」

見える。ジャスト57歳に見える。
しかし、僕も日本人の端くれだ。

「えー!まじすか! 見えないです!」

「だろ~! わしはな、病気なんてした事ないよ!」
「こんな飲まれるのにですか?」
「そう。好きなだけ飲むし、煙草も一日二箱吸う。でも健康なんだ。何でかわかるか?」
「何でですか?」

「魚を骨まで食べるんだよ」

「え?」
「みんな魚の骨残すだろ?」
「は、はい」
「あれを食べてりゃ病気になんてならないよ」
「そーなんすか?」
「そーなんすか?ってわしを見りゃわかるだろ。病気になってないだろ?」
「確かに」
「毎日最低一本食べてりゃ、後は酒も煙草も好きなだけ吸えばいいんだ」

近年稀に見る結果論だ。

よく御老人が健康の秘訣を聞かれて、謙遜しながら毎日梅干し一個食べるようにしてます。とか、散歩してるからですかねぇ? と言うのはよく聞くが、ここまで言い切られると気持ちがいい。
亀さんは真剣だ。

「骨まで食える魚じゃダメだぞ。骨がうまくもなんともないでっかい魚一本だからな」

魚を本で数えるあたり、魚の事をもはや泳ぐ背骨としか見ていない。
確かに魚の骨は体には良さそうだが、食べるだけで病気にならない訳がない。

この科学の発達した時代、頭のいい人達の努力により色々解明されてきて、わからない事の方が少なくなってきている。

来年あたりにテレビで、

ニュースキャスター「緊急ニュースです!世紀の大発見です! この度アメリカの研究チームが、でっかい魚の骨を食べたら病気にならない事を発見しました!」
人類「うおーー!!!」

なんて事が起こるはずがない。

もうここまで来ると宗教だ。
でっかい魚の骨食う教だ。

みそ汁とかに入れるのもいいけど、揚げるのが一番いい。塩でよ…。」

教祖は真っ直ぐな目で、まだ背骨のいろんな食べ方を教えて下さってる。
最初は話半分で聞いていた僕も、徐々に真剣にでっかい魚の骨の食べ方を教えて下さる教祖に引き込まれていく。

科学にお勝ちになられたのだ
僕はこんなに何かを信じる事が出来るだろうか。
人間いくら信じると言っても、100%信じる事はなかなか出来ない。
非科学的な事なら尚更だ。

教祖は科学にお勝ちになられたのだ。

成分とかなんてどうでもいい。
なんならでっかい魚の骨である必要もないのだ。
豆でも、肉でも、鉄パイプでもいい。
それを100%信じれたら、本当に病気にならないのかもしれない。
教祖は、数字や目で見えるものが全てのこの時代に警鐘を鳴らして下さってるのだ。

僕も亀さんみたいに科学に勝つおじさんになりたい。
亀さんと別れ、50メートルくらい離れたとこで、御機嫌な亀さんが両手を広げながら、ドラマのワンシーンみたいに僕に叫ぶ。

「でっかい魚だぞー! でっかいのー!」

僕は深々礼をして、家の方に歩き出す。
山口智子と、キムタクだったらそれなりに絵になってただろう。

帰り道、心の中で謝る。
亀さん、ごめん。
僕、そもそも魚食べれないんだ。

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

どうも!岡野陽一改め、締桐守です!皆様、今日も一日ヘラヘラして生活しましょう