『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、マイナンバーカードの普及策について提言する。

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マイナンバーカードを増やそうと政府が躍起になっている。

交付枚数は今年11月1日現在で1823万枚、普及率は14.3%。2016年1月から交付を開始したことを考えると、普及が進んでいるとはとてもいえない状況だ。

その原因は国民がメリットをほとんど実感できていないからだ。それを政府もよくわかっているらしく、麻生太郎副総理が今年9月の「デジタル・ガバメント閣僚会議」の席で、「運転免許証を返納した高齢者が身分証明書代わりに利用する以外に、ほとんどこれといったメリットがない」と嘆いたほど。

そこで政府がマイナンバーカード普及の目玉として打ち出したのがポイント還元だ。ICカードやQR決済とマイナンバーカードをひもづけ、キャッシュレス決済をするたびに「マイナポイント」を付与するという。来年9月スタートで、上限5000円という制限はあるものの還元率25%というから、かなりの大盤振る舞いといってよい。

とはいえ、そのためには2500億円もの国費投入が必要になる。すでに安倍政権は消費増税対策としてキャッシュレス決済へのポイント還元を行なっており、その予算は追加分も含めて7000億円規模に膨らむ見込みだ。「マイナポイント」と合わせると1兆円近い税金を使うわけで、なんのために消費増税をしたのかと、首をひねる納税者も多いことだろう。

ただ、マイナンバーカードは上手に利用すれば、格差是正の有効なツールとなりうる。

日本の格差は、先進国の中でも深刻な状況だ。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、その国の文化、生活水準と比較して困窮した状態を指す「相対的貧困」の比率は全体の約16%にもなっている。

しかも、少子高齢化で年金財政などが厳しくなることもあって、これから社会保障制度を再構築しないといけない。今後は一律支援でなく、本当に生活に困窮する低所得層に確実に支援が届く新しい社会保障制度が必要とされているのだ。

そんなとき、マイナンバーカードは武器となる。収入や資産の状況を把握できるため、困窮者に手厚く給付し、富裕層には給付を減らすなどのメリハリをつけることができるのだ。「マイナポイント」を使えば国から直接個人に給付でき、行政コストも大幅に削減可能だ。

ただ、マイナンバーカードによって資産状況などの個人情報が丸裸になり、国家に管理されてしまうと心配する人は多い。

その不安感を払拭(ふっしょく)する方法はひとつ。政治家自身が身をもって範を示すのだ。預金、株、不動産、ゴルフ会員権など、すべての資産をマイナンバーカードとひもづけ、日常の政治資金収支もすべてキャッシュレス化して、記録が自動的に残るようにする。

これを四半期ごとにネットで公開して政治と金の問題を完全透明化するのだ。政治家の不正行為が難しくなり、国民の不信は解ける。安倍総理自らが始めれば最も効果的だ。

また、マイナンバーカードを活用して、富裕層に対する資産課税を強化するのもいいだろう。時価数億円の豪邸に住んで年金暮らしという人への社会保障給付を抑制することもできる。

政治の透明化と格差是正や貧困対策のためのマイナンバーカード利用だと国民が理解すれば、普及は一気に進むはずだ。

古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

「政治の透明化と格差是正や貧困対策のためのマイナンバーカード利用だと国民が理解すれば、普及は一気に進むはずだ」と語る古賀茂明氏