大手企業で、早期退職者や希望退職者を募集するケースが相次いでいることが12月6日、東京商工リサーチのまとめで分かりました。同社によると、今年1月から11月に希望・早期退職者を募集した上場企業は36社(2018年1~12月は12社)、対象者は計1万1351人(2018年1~12月は4126人)に達しており、募集人数が1万人を超えたのは6年ぶりです。

 しかし、中には、2018年度決算が過去最高益となったキリンホールディングス(HD)のように、業績好調の企業が実施するケースもあります。一体どうしてでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

事業改革、組織再編成のため

Q.そもそも、リストラ、早期退職、希望退職とは。

大庭さん「リストラという言葉は『Restructuring(リストラクチャリング)』という英語の略語で、『事業の再構築』という意味合いがあります。事業の再構築というのは、企業が生き残りを図るために事業や人員の構成を見直し、事業構造を変化させることです。

その一環として、今後の事業構造に見合った適正な人員構成にする目的で余剰人員の削減に取り組むことがあります。余剰人員を削減するための方法として、現在雇用されている従業員を対象に、退職金を割り増し支給することを条件に早期退職や希望退職を募る対応が行われることがあります。

早期退職と希望退職ですが、本来は異なる概念です。早期退職は、会社の恒常的な制度として、従業員のライフスタイルの充実化などを図ることを目的として、本人が自主的に定年前の退職を選択できる(定年を早める)ことができるようにしたものであり、所定の退職金に対する上積みもあります。希望退職は、会社が期間を限定して、主に人員整理の目的で従業員に退職を促すものであり、退職金を割り増しで支給します。

従って、今年相次いでいるのは本来、『希望退職』の募集というべきなのですが、世間ではリストラの延長線上にあるものとして同列的に扱っているケースが多いです。今回の私の回答も便宜上、早期退職と希望退職を同列に扱うことにします」

Q.キリンHDが早期退職者を募集しましたが、同社は2018年度決算で過去最高益を達成しています。なぜ業績の良い企業が募集を行うのでしょうか。

大庭さん「たとえ直近の業績が良くても、市場成長の見込める事業分野へ進出するために、あるいは組織を効率化した上で採算性の高い事業分野に集中するために早期退職や希望退職を実施するケースもあります。

企業は既存の事業分野が成熟化、または市場が縮小傾向になった場合、そこから撤退した上で市場成長の見込める事業分野への進出を図ります。このとき、特殊な技能や最新の技術力を持った人材を一定数確保する必要が生じる場合があります。そういった必要な原資を確保する目的で、賃金水準の高い中高年齢者を対象とした早期退職や希望退職を実施することがあります。

また、ネット通販の台頭という事業環境の変化に見舞われているアパレル業界が、店舗販売を縮小し、ネット通販事業に注力するというような事業構造改革を行うにあたり、組織を再編成する目的で特定の層を対象とした早期退職や希望退職を実施することもあります」

予定人数が集まらなかったら?

Q.早期退職者、希望退職者を募集しても想定内の人数が集まらなかった場合、企業はどのように対応するのでしょうか。

大庭さん「事業の構造改革を行うなどの目的で早期退職や希望退職を実施する企業の場合、退職者数が予定人数に達しなかった際は、いったんそのときの従業員数で事業構造改革に着手した上で、時機を見て再度、早期退職や希望退職を募るケースが多いです。

一方、業績不振による人員カットを行う目的で早期退職や希望退職を実施する企業の場合は、従業員の残業の削減、レイオフ(一時休業や一時解雇)、賃金カットなどの対応を行い、それでも事業の継続が厳しい場合に整理解雇を行います。整理解雇というのは、企業側が解雇者を指名することです」

Q.社員の立場で見ると、早期退職、希望退職制度は得なのでしょうか。それとも、デメリットの方が多いのでしょうか。

大庭さん「対象となった人の環境によって、メリットデメリットが発生します。例えば、定年間近だったなどある程度の年齢に達している人の場合、通常よりも多い退職金を手にした上で早めにリタイアし、第二の人生を謳歌(おうか)しているケースもあります。

一方、家族のために働き続けなければならない人の場合、再就職先が見つからない、再就職先が見つかっても給与水準が大幅に低くなり、仕事のやりがいも得られないなどの状況に陥るケースもあります」

Q.退職金などを割り増しで支払う企業もありますが、企業としてはメリットがあるということでしょうか。短期的には経営が苦しくなるのではないですか。

大庭さん「割増退職金の支払いなどで、一時的に財務上のダメージが発生します。大幅な特別損失が発生することで、その年の決算が赤字に陥るケースもあります。しかし、企業にとって人件費は最大の固定費であるため、人員を削減した後に利益を出しやすくなるというメリットが生じます。あるいは、従業員の若返りを図ることで社内が活性化し、成長する事業分野への参入が円滑に進むというようなメリットが生じることもあります」

Q.希望退職、早期退職の募集は来年も増えそうでしょうか。それとも、減少しそうでしょうか。

大庭さん「人口減少による国内市場の縮小化、グローバル経済化の進展による海外企業との競争の激化、インターネット社会の進展による消費構造の変化など、企業を取り巻く経営環境は変化し続けています。その影響で、時代に即した事業構造改革に取り組む企業が増えており、来年以降も募集が増えることが想定されます。

東京商工リサーチの発表では、2020年以降も、既に大手企業7社が計1500人を対象とした希望・早期退職を実施する方針を打ち出しているということです」

オトナンサー編集部

早期・希望退職者の募集が相次ぐ