──武士道とは死ぬことと見つけたり 修羅道とは倒すことと見つけたり

SAMURAI SPIRITS』(1993)
(画像はアーケードアーカイブス サムライスピリッツより)

 1993年7月にアーケードで稼働を開始。剣の道を進む剣士やアイヌ美少女が登場する純和風な世界設定、武器攻撃を軸とした一撃必殺の死合など、そのオリジナリティで多くの支持を得たのが対戦格闘ゲームサムライスピリッツ(以下、『サムスピ』)だ。

 同作から続く『サムスピシリーズは、餓狼伝説およびTHE KING OF FIGHTERSと並び、1990年代におけるSNKNEOGEOの最盛期を支える中枢タイトルとして地位を確立した。正当後継作品だけに留まらず、ときにRPGなど極めて意味不明な派生作品を生みつつ、その底堅い人気は2019年6月に発売された新生『SAMURAI SPIRITSへと繋がることになる。

SAMURAI SPIRITS』(2019年
(画像はYouTube snkGameチャンネルより)

 初代『サムスピ』の稼働から26年、じつに四半世紀にわたり続いてきたシリーズの年月は、言うなればすでにひとつの確固たる歴史である。幾多のタイトルに幾多のプレイヤーが幾多のプレイスタイルで『サムスピ』という概念に触れてきたであろうことは、想像に難くない。

 しかしそんな長い歴史の中でも、「『サムスピ』で大学の卒業論文を書く」などという発想に行き着いた人はごくわずかだろう。

 しかもそれは現実に起きたことで、モチーフシリーズでも異色の作品サムライスピリッツ天草降臨』(以下、『天草降臨』)である。社会的考察などではなく純粋な攻略研究がテーマとなっており、要求された原稿用紙が100枚のところ200枚オーバーで提出されてしまったという。それがぽんしゃぶO2さんだ。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はアーケードアーカイブス サムライスピリッツ 天草降臨より)

 はたして『天草降臨』の何がその人物を駆り立てたのか。彼は冥府魔道に堕ちた修羅か、あるいは正道を突き進む士魂の持ち主なのか。

 その卒論自体は散逸してしまっている。しかし、文体こそ異なるが内容的に酷似しているという同人誌を肴に、『天草降臨』の立ち位置や彼をそこまで駆り立てた理由をぽんしゃぶO2さんにお聞きしてみた。サムライスピリッツ卒業論文、はたしてそれは一種の悪ふざけなのか青春の必然なのか。

聞き手・執筆/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn


『サムライスピリッツ 天草降臨』という異端

ぽんしゃぶO2さん

──本日は『天草降臨』についてお話をお伺いしたいと思います。ぽんしゃぶO2さんは『天草降臨』を200ページ以上もの卒業論文の題材にするまでやり込んだ……とのことですが、そもそも同作はどんな作品と言えるでしょうか?

ぽんしゃぶO2さん
 『サムスピ』はまず初代『真』【※】、それに続いて『斬』『天』【※】があります。で、けっこう作品ごとにシステムが大きく違ったりするんですよ。もっとも大きく変化したのは『真』から『斬』で、ここでゲームエンジンが変わって、挙動やドットも一新されてるんですね。

※初代と『真』:
 『サムライスピリッツ』(1993年)と『真サムライスピリッツ 覇王丸地獄変』(1994年)のこと。大パンチに当たる大斬りを当てることで体力ゲージの2、3割を奪っていくバランスや、ダメージを受けるごとに攻撃力が高まっていく「怒ゲージ」のシステムなどで、コンボではなく一撃必殺をテーマにした対戦格闘ゲームとして立ち位置を確立した。

※『斬』と『天』:
 『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』(1995年)と『サムライスピリッツ 天草降臨』(1996年)のこと。当時『斬』は『天草降臨』以上に度が過ぎるほどの破茶滅茶度だったが、ここ数年でかなり研究が進み、カオスの中に秩序がある対戦シーンが確立されたという。今回の取材記事はその『斬』から続いた『天』について。

サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』(1995)
(画像はアーケードアーカイブス サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣より)

──なるほど

ぽんしゃぶO2さん
 で、評判は聞いていると思うんですが、『斬』はめちゃくちゃなゲームなんですよ(笑)。永久コンボ、即死コンボ、バグ、なんでもあり。

 そのチューンナップ版として『天』は作られているんですが、いろいろなところをマイルドにしつつ、なぜか謎の新要素を入れてしまった……というのが『天草降臨』の立ち位置です。
 「怒り爆発」とか「一閃」の一部システムは、その後もシリーズの伝統として残って2019年に登場した新作にも実装されているんです。けど、『天草降臨』だと前者は一部のキャラクターの特定フレームだけ無敵じゃなかったり、後者ではやたら威力が高いのに投げから補正無しで入っちゃったりと、粗がすごい(笑)

 まあいま考えると『斬』ふくめすごいゲームで、間違いなく現代の感覚だと商品として失格、速攻でパッチ案件ですよね。ゲームエンジンの一新に手を取られたのか、どう考えてもバランス調整していない。『天』は『斬』よりは頑張ってバランス調整しようとしてる努力の痕は見えるんですが、新しい要素でまた別の粗が出てきてしまっていて、それがまた愛しいというか……。

──ストレートなのか歪んでるのかわからない愛情の形ですね(笑)。そんな作品をやり込むきっかけはどこにあったんでしょうか。

ぽんしゃぶO2さん
 そもそもは1996年高校生のころに『天草降臨』がアーケードで稼働していたんですが、最初はこのゲームすごい拒絶反応があったんです。

──それはどういった理由で?

ぽんしゃぶO2さん
 そもそも『サムスピ』って、大斬り【※】を当てて体力をごっそり減らすみたいなイメージあるじゃないですか?

※大斬り:
サムスピシリーズにおける「大パンチ」「大P」のこと。通常の対戦格闘ゲームにおける大Pとは異なり、相手の体力ゲージを大幅に奪う特殊技のような攻撃が繰り出される。シリーズを象徴するメカニクスとなっている。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はアーケードアーカイブス サムライスピリッツ 天草降臨より)

 でも『天草降臨』では、連斬【※】というシステムが導入されていて、少し触っただけだと「これ違うんじゃない?」となったんです。だから最初の出会いは淡泊で、むしろ「二度とやらなくていいや」という印象でした。

※連斬:
「連続斬り入り込み攻撃」と呼ばれる始動技からコンボが繋がっていく新機能。大斬りのような一撃必殺をイメージさせる『サムスピシリーズにおいては、異例のコンボシステムとなっている。

──最初の出会いは最悪に近かったんですね。そこから卒論のテーマにするまでに、どのような経緯があったんでしょうか?

ぽんしゃぶO2さん
 高校を卒業して大学生になると漫画研究会に入っていて、同人誌即売会にも行ってたんですよ。コミケコミックマーケット)とか、コミックレボリューションとか。そこで運命の出会いがあったんです。

同人攻略ビデオ「悪・即・斬」。画像はぽんしゃぶO2さんの私物

 いわゆる「同人コンボビデオ」というものなんですが、当時、僕は「あの『天草降臨』でしょ?」と思いながらも、なんとなく買ってみたんですよ。そしたら……衝撃でした。
 
──衝撃だった。

ぽんしゃぶO2さん
 「これは僕の知っているゲームじゃない」と打ちのめされましたね。僕の知っている『天草降臨』のイメージは、「なんかそれっぽいコンボがあるんでしょ」という感じだったのに、まったく予想外の動きがそこにあったんです

 そのころのゲーマーの情報源って、ネットが普及してないのでゲーメスト【※】とかの雑誌媒体だったんですけど、そこで掲載されているようなレベルではない。「なんでこんなことになっているのか、まったくわからない」、「理解の範疇を超えてる」という感じでした。

ゲーメスト
1986年から1999年まで発刊されていた新声社のゲーム雑誌。特にゲームセンターにおけるハイスコア集計や、アーケードゲームの研究攻略を主軸にしていた。

 いままで敬遠していたこのゲームの本質は、こういうものだったのか? それが運命の出会いでしたね。

──『天草降臨』がシリーズでも異質な立ち位置にあると感じたというお話でしたが、そのファーストインパクトを超える衝撃があった。

ぽんしゃぶO2さん
 あまりにも衝撃的で、何回も何回もそのビデオを見直したんですけど、そのうちに「このゲームもう一度やり直してみるべきなんじゃないか?」と思い始めるようになりました。秋葉原ROMを自費で買って、漫研の部室に持ち込んで、じゃあやってみようと。そこからはもう、どっぷりでした。

同人誌でも参考資料のひとつ目に挙げられているビデオ

──『天草降臨』の異常性がわかるような例はありますか?

ぽんしゃぶO2さん
 まず、ダッシュ攻撃が強いんですね。ダッシュ小斬りなのに威力がやたら高くて、なぜかのけぞりが大斬りになる技とかもあったり。これを繰り返しているだけで簡単に永久コンボになったりと、やりたい放題です。酷いものだと、特定の必殺技を普通に当て続けるだけで永久コンボになったりします(笑)

必殺技を当て続けるだけで永久コンボになる一例。

 あと全キャラ投げの発生が「斬」と比べて異様に早くなり(発生3F)、見てから回避するのはまず不可能になりました。その投げからダッシュ攻撃が繋がってしまうため、キャラによっては実質投げられたら即死するという。

──聞いていると、あまり魅力的なゲームには思えないですね……。

生粋のSNK・NEOGEO人生

──そもそも、ぽんしゃぶO2さんはどのような格闘ゲーム人生を歩んでこられたでしょうか? いきなり『天草降臨』をプレイされたというわけではないと思いますが。

ぽんしゃぶO2さん
 格ゲーの遍歴でいうと、だいたい僕らの世代はストリートファイターII【※1】(以下、『スト2』)から入るのが一般的なんですけど、自分は餓狼伝説【※2】でしたね。

※1『ストリートファイターII』(以下、『スト2』):
1991年に稼働を開始した対戦格闘ゲーム。開発はカプコン1994年の『スーパーストリートファイターII X -Grand Master Challenge-』まで、バージョンアップされた新作が矢継早にリリースされていった。格ゲー黄金期を築き上げ、その後もブームの礎となったタイトル

※2『餓狼伝説 宿命の闘い』:
1991年に展開された対戦格闘ゲーム。開発はSNK。大ブームを巻き起こした『ストリートファイターII』の約半年後にリリースされ、同作に次ぐ注目作となった。乱入されると対CPUの協力モードに移行したり、フィールドが手前と奥のラインに分かれている点などが特徴。

(画像はアーケードアーカイブス 餓狼伝説 宿命の闘いより)

──最初に遊んだのもSNKタイトルだったんですね。

ぽんしゃぶO2さん
 僕は茨城県の田舎の出身なんで、近所に筐体の『スト2』がなかったんですよね。だから格ゲーに触れるといえば、まず駄菓子屋とかにあるMVS【※】が普通でした。

MVS
SNKが当時発売していたアーケード基板「Multi Video System」のこと。基板ごとにゲームを販売することが一般的だった当時、MVSカセット交換式のハードウェア設計で安価に展開されたほか、無料で提供して利益を徴収するという制度も展開していたため、ゲームセンター以外でもよく見られた。

 そこでみた餓狼伝説2』(1992年がものすごくかっこよく見えて、お金を入れてプレイしてみたんです。その時は中学だったので、中学の同級生とかに格ゲー強いやつがいて、教えて貰ったのが最初でした。

──いわゆる「SNK派」と呼べる経歴です。

ぽんしゃぶO2さん
 ただ、僕らの間で本格的な波がきたのは餓狼伝説スペシャル【※】でしたね。あそこで初めて対戦ツールとして認識しましたね。

※『餓狼伝説スペシャル』:
1993年アーケードで展開された『餓狼伝説2』に続くシリーズ3作目。通称『ガロスペ』。連続技をはじめにさまざまなシステムテンポ対戦格闘ゲームとしてチューンナップされており、『餓狼伝説シリーズの人気を決定づけた。

(画像はアーケードアーカイブス 餓狼伝説SPECIALより)

──たしかに、『餓狼伝説』は『1』も『2』も対戦ツールとしてはいまいちな部分がありました。

ぽんしゃぶO2さん
 いま考えると、『餓狼伝説スペシャル』もバランスが厳しいゲームなんですけどね(笑)。でも、キャラクターがすごくかっこいいんですよ。ギースとか、クラウザーとか、テリーとか、子供心に心を撃ち抜かれたというか。

──キャラクターのかっこよさに魅了された。

ぽんしゃぶO2さん
 かっこよさですよね。『スト2』はエポックメイキングみたいな位置づけになりますけど、当時は「テリーに比べてリュウとかイモっぽいな」とか思っていました(笑)

──それはまあ、そうかもしれないですね(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 この辺りで人生の転機が訪れるんです。近所のボンボンが当時高価だったNEOGEO【※】の本体を「飽きたから8000円くらいで誰か買わない?」と言い始めたんです。中学1年生で8000円はなかなかつらいんですけど、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入したんです。

NEOGEO
1990年から業務用(MVS)、1991年から家庭用(AES、Advanced Entertainment System)に展開されたSNKゲームハードウェア。どちらも同様のスペックを持つため、アーケードから家庭用へ移植されるとクオリティが低下するのが当たり前の時代に、家庭でゲームセンターゲームがほぼ同等の品質で遊べた。一方で同様のスペックを持つゆえに価格は高く、本体価格は5万8000円、カートリッジも3万円前後した。

(画像はSNK公式サイトより)

 で、ソフトも何かつけてくれたんですけど、やっぱり『餓狼伝説スペシャル』がやりたい。

──NEOGEOカートリッジも相当高価【※】でしたよね。

※発売当初、『餓狼伝説 スペシャル』の定価は2万8000円だった。

ぽんしゃぶO2さん
 高かったですよ。でも、『餓狼伝説スペシャル』はけっこう市場に出回っていて、本数があったんですね。だから、そこそこ値段が下がっている。僕が当時買おうとしていたころは2万円弱くらいだったかな。

──それでも当時、他のゲーム機カートリッジは高くても1万円もいかないですし、現代と比べてもかなり高いですけどね。

ぽんしゃぶO2さん
 高いですね、高すぎる(笑)スーパーファミコンソフト3本ぶんくらいある。でもやっぱり、「家でテリーとか動かしたいよね」と思っていたし、その時期の懐具合はギリギリ出せない金額じゃなかったんですよね。

──中学生だと、かなりお金が貯まったころといった時期でしょうか。

ぽんしゃぶO2さん
 収入と支出の交差点がやってきてしまったわけです。で、「買おう」と。

──(笑)。それはもう、中学生のころに格ゲーの沼にはまってしまっているように聞こえますね。

ぽんしゃぶO2さん
 そうかもしれないですね。子どものころ、周りの人たちはスーパーファミコンとかPCエンジンとか持っているじゃないですか。でもその中で、「俺だけNEOGEO持ってる」っていうのは謎の優越感がありました。「俺は分かっている感」【※】というか(笑)

任天堂の「スーパーファミコン」(1990)が定価2万5000円NECK HEの「PCエンジン」(1987)が定価2万4800円だった時代、5万8000円でありカートリッジも高い「NEOGEO」(1990)は高価なハイスペック機という立ち位置だった。

──たしかに「NEOGEO」を持っている人というのは、ちょっと特別だったと思います。

ぽんしゃぶO2さん
 実際に買ったら、想像はつくかもしれませんけど、毎日家がゲーセン状態になりました(笑)。友人たちは狂喜乱舞ですよ。「タダでアーケードゲームができんの?」みたいな感じで。当然、学校から帰ってきてからひたすらずっとゲームですよ。

──NEOGEOがある家庭はやはりめずらしいですよね。

ぽんしゃぶO2さん
 中学校のころにNEOGEOを購入して、対戦相手に事欠かなかったという状況ですよね。なんというか、自分の世界線が確定したみたいな部分はあります。

──(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 その後、初代『サムライスピリッツ』を近くのお店で購入したんですけど、実はそこまでのめりこみはしなかったんですよね。好きは好きだったんですけどね。

──意外ですね。そこでもまだ『サムライスピリッツ』にははまらなかった。

ぽんしゃぶO2さん
 当時は「カプコン派」と「SNK派」に派閥が別れててですね、他の人はわりと自由にいろいろ手を出してたんですけど、僕はネオジオもう持ってる(SNK派)のでそういうわけにもいかず。

 当時はNEOGEOゲームプレイしながら、ヴァンパイア【※】とかのおしゃれになったカプコンゲームに対抗心を燃やしているみたいな青春時代でした。

※『ヴァンパイア』:
カプコン1990年代に展開した格闘ゲームシリーズ1994年に初代がリリースされ、『ハンター』、『セイヴァー』と続いた。吸血鬼モンスターといったキャラクターたちが戦う作品で、美麗な2Dドットアニメーションキャラクタービジュアルが特徴だった。ゲームシステムとしてはチェーンコンボガードキャンセルを備えている。

画像は『セイヴァー』と『ハンター』が1本にして復刻された『ヴァンパイア リザレクション』(2013)
(画像はカプコン 『ヴァンパイア リザレクション』より)

──なんだか楽しそうですね(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 高校生になると、家のNEOGEOで遊ぶだけでなくてゲーセンにも通うようになりましたが、それでもこじらせたNEOGEOユーザーでした。

 もうNEOGEOが好きすぎて、スティックの持ち方も「いかに痛まないようにするか」と研鑽を重ねて、ソフトタッチ入力を会得しましたね。「このコントローラーは俺のだから!」と大事にして。いまでも、当時ボンボンから買ったNEOGEOは普通に稼働しますよ。

──それはすごいですね。購入してもう20年ぐらいではないでしょうか。

熱狂的なNEOGEOファンが出会った『天草降臨』

──お聞きしていると、中学生のころにNEOGEOに出会って、高校まで延々と格闘ゲームばっかりやっている印象なんですけれど、あっていますか(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 実は中高一貫の学校に通っていたので、周りで遊んでいたメンバーが固定されていた環境も恵まれてたと思いますね。とにかく格闘ゲーム漬けでした。

 それから大学に入ったんですけど、大学で入ったサークルが漫画研究部なのに、なぜか格闘ゲーマーの巣窟だったんですよ。NEOGEOもありました、「僕が持ってなかったソフトこんなにある」みたいな。その上、一緒に入った同回生も、みんなゲーマー揃いだった。

──格闘ゲームに憑りつかれたみたいな人生ですね……。

ぽんしゃぶO2さん
 新入生歓迎会なんてそっちのけで格ゲーやってた記憶があります。けっきょく、大学時代もサークルの部室でゲームに明け暮れる青春でしたね。同期のゲーマーたちも実力が拮抗していて、まさに夢のような時間だったんです。

 ただ、実はまだここでも『天草降臨』には出会っていないんです。そもそも部室にもなかった。やっぱりみんなスルーしていたんですね。ちなみに大学入っても、ヴァンパイアセイヴァーの波と戦う派閥争いはありましたね。

──因縁の戦いですね(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 それで最初に語ったように、同人ビデオに出会って、『天草降臨』をプレイし始めることになるんですね。

ビデオパッケージ

──そのころから大学卒業までずっと『天草降臨』をプレイするわけですか?

ぽんしゃぶO2さん
 まず同人ビデオに付いていた解説を見ながら練習するわけですが、ここに収録されているコンボが全部できるようになるまで、半年はかかりましたね。そこからさらに1年くらい対戦とかして、コンボ自体はある程度できるようになったんですが、「なんでこんなに繋がるんだろう?」と思うようになったんです。

 繋がるんだけど、理屈が分からない。「なぜそんな現象が発生するんだろう」と疑問を持つようになったんですよ。たしかに、この通りやればできる。「じゃあなんでこんなことできるのか」という根源的な部分への探求心が湧き上がってきたんですよね。

──いままでとは別のベクトル好奇心ですね。対戦ツールとして楽しんでいたのに対し、『天草降臨』では分解に興味を持つようになった。

ぽんしゃぶO2さん
 そうですね。そこからは一本のゲームの、データとしての分解が始まったわけです。「この現象は、こういう原理があり、こういう法則があって、これに従って動いて、こうなるんじゃないか」と、ゲーム人生で初めて思いました。

 ゲームって、けっきょくは誰かが作ったプログラムの塊じゃないですか。その人間、つまりゲーム画面の先にいる人間の姿を意識したんです。これは開発者の意図なんだろうとか、これは開発者のポカなのではないだろうかとか。初めてそれを意識したんですね。

──研究という領域に入り込んだわけですね。

ぽんしゃぶO2さん
 こんどは模倣ではなく、本格的にゲームを解体し始めたんです。たとえば『天草降臨』では、大斬りから技が繋がるキャラがいる。

──大斬りから技が繋がるんですか(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 普通は繋がらないのが常識なんですけど、でも繋がるんですよ。だったらなんで繋がるんだろう、そうかつまり大斬りを当てたあとに自分が早く動けるんだ。硬直がないんだ、と。

──大斬り当てて有利が取れるというのは、あまりにもおかしいですけどね(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 多分このゲームを作った人って、そこまで理解してないんですよ(笑)

 めちゃくちゃなバランスなんで、永久とか即死とかひたすらたくさんある。そうなると、なんで永パ(永久パターン)とか即死になるのか考え始めるわけです。「これ死ぬけどさ、何で死ぬの?」って、子供が「なんで」と思うみたいに、全部疑問に思い始めたわけです。

 そっからはもう、寝食を忘れるレベルで没頭しました。ひたすらこれをやり続けましたね。

──それはもちろん、『天草降臨』の分解が面白いからやり込んでいたんですよね。

ぽんしゃぶO2さん
 もう面白すぎて。推論を立てて、実践してみて、それが合っていた時の脳内麻薬たるや。「これは正しいんだ、この理屈でいいんだ」と、ひとつひとつの現象を紐解いていく。

──完全に研究ですよね。それは『天草降臨』の動きが、それほど異様だったということでしょうか?

ぽんしゃぶO2さん
 異様ですね。異常です。

 異常でなければ、ここまで突き刺さらなかった。『サムライスピリッツ』のコンボの印象って、すごく淡泊なイメージだと思うんですけど、『天草降臨』のコンボは終わらないです。その上、複雑な条件が絡み合ってはじめてコンボとして成立するものが多い。キャラ限定&状況限定だけではなく、バグや怪現象を使用して繋ぐコンボなんかも多数あります。

『天草降臨』に塗りつぶされていく学生時代

ぽんしゃぶO2さん
 という感じで、ひたすら『天草降臨』をやりこみ続ける大学時代が始まったわけです。そこでけっこう重要だったのが、このゲームの面白さに友人も興味を持ってくれたことですね。

 僕は動きの研究が主だったんですけど、友人はゲームとしての魅力に注目したんですよ。実際触ってみると分かるんですけど、このゲームすごくレスポンスが良くて、ゲーム速度もテンポもいい。入力に対してキャラがきびきびと動いてくれるんです。

 そのうち、このビデオで紹介されてない領域まで踏み込んで、「これってこう繋がるんじゃない?」とか、「これとこれ組み合わせられるんじゃない?」とか。

──基礎理論を立てて、そこから応用と発展が始まるわけですね。

ぽんしゃぶO2さん
 そして大学二年も三年も、講義をぶっとばして朝から晩までひたすらこればっかりやってましたね。どんどん深みにはまっていきました。で、そこで時代的にインターネットが普及し始めたんです。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

──何年くらいですかね?

ぽんしゃぶO2さん
 僕が研究していたころは2000年初頭ですね。先ほどの同人ビデオを作った「天帝with十本刀さん」という方のホームページがあって、最初はあこがれの存在として掲示板ROM【※】していたんですけど、ある日、勇気を出して書き込んでみたんです。

ROM
Read Only Memberの略称。インターネット上の掲示板コミュニティで、メッセージを投稿せずやり取りの様子を見るだけの行為をそう呼ぶ。特に日本のインターネット黎明期に使用されたインターネットスラング

 それから情報交換が始まりましたね。で、自分の掘り下げとインターネットでの情報交換が同時にやってきて、そこでこのゲームに関する情報が爆発的に広がっていったんです。その辺が僕にとって、“灼熱の青春時代でしたね。

──つまりビデオに出会ってからは、途切れることなくずっと『天草降臨』をやり込まれていたんですか?

ぽんしゃぶO2さん
 そうですね。楽しくてもう。

──そのころの時間の使い方って、ざっくりとどういう感じだったんですか?たとえば月曜日に学校へ行くじゃないですか?

ぽんしゃぶO2さん
 学校行きます。そのまま部室に行きます。気づいたら夜。

──授業出てないじゃないですか(笑)。じゃあ朝から晩まで学校にいるけど、朝から晩まで『天草降臨』しかやってない?

ぽんしゃぶO2さん
 やってないです。それは間違いない。『天草降臨』やってるか、バイトしてるか、学食で飯食ってるか。

──そこまで『天草降臨』をずっとやっていた大学生なんて、間違いなくいないですよね(笑)

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

ぽんしゃぶO2さん
 このビデオとの出会いが運命でしたね。足を向けて寝れないですよ(笑)。それから研究の中で、サークルの方や、掲示板に書き込みしていた方と情報交換したり、お会いして対戦したりしてました。当時はネットの動画とかで同じもの見ることも無かったんで、場所によって戦い方が全然違ったりして、その辺も楽しかったですね。

──対戦ツールとしての深みもあったということでしょうか。。

ぽんしゃぶO2さん
 連斬のようなシステムがあることで、他の『サムスピ』と比べて出来ることが爆発的に増えたんですよね。新作の『SAMURAI SPIRITS』で搭載されたシステムの源流は、すべてここから始まったと思います。「怒り爆発」とか「一閃」とかもそうですし、垂直ジャンプでの投げの攻防もそう。当時は全然洗練されてなかったんですけどね。

──粗削りながら、新作の基礎は1996年の『天草降臨』にあった。

ぽんしゃぶO2さん
 そんな感じで、BBSで情報収集して、たまに対戦会して、帰ってきたら自分で研究する生活を2年くらい続けました。「『天草降臨』に狂っていた生活」でしたね。当時はこのゲームのことしか考えてないくらいでした。今考えると幸せな時間でした。

 そうこうしているうちに、大学生活も3年目を迎えてしまい、卒論の時期になるわけですよ。いちおう大学にも行っていたつもりなんですけど、なにせずっと『天草降臨』しかやっていない。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

 で、ゼミで「卒業するには卒論を書かなきゃいけない」という話になったんです。真面目なゼミで先生も厳格な方だったんですけど、テーマは自由に選ばせてくれるという方針でした。そこで当然、僕は迷うわけですよ。テーマといっても、僕は大学生活でこのゲームしかやってないしな……」と。

──(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 だから当然、真面目なテーマなんて思いつかない。それで先生に相談に行ったんですよ。「大学生活、ゲームしかやってないんですよ」って。

 で、冗談半分でゲームで卒論を書けばいいんですかね」と言ってみたんです。こっちは当然怒られるか断られるかだと思っていたんですけど、先生はそこで「君、そんなのテーマにしても書けないでしょ?」と言われたんですよ。

 そこで初めて「いや、書けるんじゃない?」と思ったんですね。「最低100ページ?楽勝じゃない?」って。じゃあやろうと。他のテーマを選んでも落第は確定だし、それならこのテーマで書いてみようと思ったんですね。

──「書けないでしょ?」と言われて火がついたような?

ぽんしゃぶO2さん
 火がついたというより、気が付いたという感じですかね。「いやいや、何をおっしゃるんですか、書けますよ」と。

 2年から3年間くらいずっとやっていたことを形にしてもいいんじゃないかなと。当時、先駆者だった天帝with十本刀さんは引退されていて、僕は後継者として扱ってもらっていて、ホームページに研究をまとめていましたからね。まとめてみてもいいかなと。そこで、がけっぷちの卒論作成が始まったという感じですね。

──なるほど

卒業論文ベースに制作された同人誌。こちらもぽんしゃぶO2さんの家に1冊しかないという

ぽんしゃぶO2さん
 ちなみに結論から言うと、卒論は通ってるんですけど、単位は足りませんでしたね……。

──単位が足りないというと……。

ぽんしゃぶO2さん
 留年です。

──(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 このゲームに時間を費やしすぎて、卒論は満点を貰ったんですけど、そもそも他の単位がまったく足りてなかった。

──おもしろいですね。

ぽんしゃぶO2さん
 きれいなオチがついたんですね。そりゃこのゲームのことしか考えてないんですから、講義もでないですよ。

 でも、格闘ゲーム含めですが、簡単にいえばそのお陰でいまでもご飯を食べています。大学を卒業して「なにをしようか」と思っていたら声が掛かって、今でも仕事をさせて貰っているので(笑)

──好きで仕事が見つかったと。しかしお話を聞いていると、ぽんしゃぶO2さんが『天草降臨』をテーマに卒論を書くのは、ある意味必然だった気がします。

ぽんしゃぶO2さん
 そうかもしれないですね。先生にも理解があったんだとも思います。おそらく、先生は自分の卒論を全部は読んでいないと思うんです。

 でも先生は、「しっかりと他の人がやってない自分のテーマで書くことが大切」と、「既存のだれかがやっていることをやっても意味ない」と、よくおっしゃられてたんですよね。卒論って、けっこう他の人の文献やwikiの情報を引用したりしがちじゃないですか。そういうことは嫌われる先生でしたね。ちゃんと自分で調べて考えろ、と。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

──そういった意味では、『天草降臨』で卒論を書くってのは絶対に誰もやってないですよね。

ぽんしゃぶO2さん
 自分で言うのもなんですけど、当時の自分は頭がおかしかったなと思いますね。だって、楽しくてしょうがない。少しも嫌になったりしないし、なんなら今でもやってますからね(笑)

 そんな感じで、『天草降臨』の200ページ以上にわたる卒論は生まれたんです。以前、ほかの方が運営されてる「ダメな卒論まとめWiki」みたいなものに殿堂入りとして紹介されていたこともありました。ホームページアクセスを解析すると、卒論シーズンの2月とか3月のアクセスがすごく多い。みんな同じようなこと考えるんですよね(笑)

『北斗の拳』勢と共振する「渇望」

ぽんしゃぶO2さん
 北斗の拳【※】のバグ研究記事も読ませていただいたんですけど、面白かったですよね。

※『北斗の拳』:
2005年からアーケードで稼働した同名漫画を題材とする対戦格闘ゲーム。「死兆星システム」や「バニッシングストライク」といった世紀末な世界設定を象徴するゲームシステムが特徴。一方で発売後はプレイヤーによる研究が進み、全キャラクターが壊れており永久コンボが存在することが明らかとなった。発売から10年以上が経過したいまでも、研究が続けられている。

格闘ゲーム『北斗の拳』バグ研究者に聞く。バスケから都市伝説の解明まで、13年を経てここまで進化

 でも、あの方々の気持ち、僕すごくよくわかるんですよ。たぶん僕が『天草降臨』が面白くて仕方がなかったときと感覚は近いと思います。

──あの記事は自分が担当をさせていただきましたが、“同じ匂い”を感じますよね。

ぽんしゃぶO2さん
 『北斗の拳』勢の方々も、楽しくて楽しくてしょうがないんじゃないかと。きっと理論構築とかも同じフローを踏んでいると思うんですよ。推論を立てて実践を繰り返す、という感じだと思います。

──お話を伺ってるときの感覚は実に似ています。話の組み立て方も似てて、なんというか、性格的にも近いものをお持ちなのかなと。

ぽんしゃぶO2さん
 それが『北斗の拳』だったり『天草降臨』だったり。やっぱり格ゲーマーが辿り着く場所って、そういうところなのかもしれません。

──流れ着く場所のひとつかもしれませんね。

ぽんしゃぶO2さん
 格ゲーマーって、とにかく強さを追及する人もいるんですけど、僕はその方向には進まなかったんです。僕このゲーム強い方だと思いますけど、中の上くらい。僕より強い人なんてごまんと……ごまんはいないですけど。

──人口的には多くないでしょうね(笑)

ぽんしゃぶO2さん
 はい(笑)。人口がそもそもいない。ともかく、僕はこれで強くなるよりも、「知りたい」という気持ちの方が大きかった。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

 一緒にやっていた友人は強さを求める方向に進んでいったんですが、僕は違った。

──勝ちたいという気持ちとはまったく違いますが、その「知りたい」という域にたどり着いた人の熱意も、尋常ならざるものがあると思います。

ぽんしゃぶO2さん
 熱意というか「欲望」だと思います。もっと欲しい、もっと欲しいという、強烈な気持ちの強さというか。

──なるほど、そういう言い方の方がしっくりくるかもしれないですね。

ぽんしゃぶO2さん
 「欲望」であり「渇望」乾いているんですよ。だから、「水が欲しい」という気持ち。もっともっと欲しい。まだまだここには可能性が眠っているんじゃないかと。

──『北斗の拳』の研究者の方も、まったく同じことをおっしゃってましたね。

ぽんしゃぶO2さん
 このあいだ、池袋のゲームセンターで、『天草降臨』の筐体がフリーズしたんですよ。

 それを見て感動したんですね。初めて見たんで。どうしてそうなったかわからなかった。

 このゲームって、僕の認識ではフリーズはないと思っていたんですよ。それが2019年の野試合の台で起こる。なんでそんなことが起こったか、まったく分からなくて。すごい感動したんです。その後、家に帰ってきてひたすら再現を試みるわけです。で、再現できない。もしかしたら基板じゃないと再現できないかもしれない。だから、自宅の基板を立ち上げて。

ぽんしゃぶO2さん宅の筐体

──再現できました?

ぽんしゃぶO2さん
 ……できなかったです。これがわからない。ただ現象はなんとなく予測はつくんですけど、再現には至ってない。でも、そういうプロセスを何年間もずっとやり続けているわけなんです。

──そのプロセスの繰り返しの源が渇望である……。「まだ底じゃないんだ、まだあるんだ」という。『天草降臨』には、“まだある”と思ってますか?

稼働から数年後に見つかった特殊キャンセルを使用した連続技。『天草降臨』にはまだこのような技が埋もれている可能性がある。

ぽんしゃぶO2さん
 “ある”と思ってます。

『天草降臨』とは「青春」であり「故郷」

──いまのぽんしゃぶO2さんにとって『天草降臨』とはなんでしょうか?

ぽんしゃぶO2さん
 「宝の山」っていうのが最近の心境ですね。掘れば掘るほどなんらかの宝がある。

 最初は高い場所に宝があるから、そこに行き着くために試行錯誤しながら頂上を目指したんですけど、頂上にもう宝なんてないかなと思って足元を掘ってみたら、また新しい宝が出てきたみたいな。いつでもふらっと帰ってきて、宝探しができる場所って感じですね。

──いまでもふらっと帰ってくる。

ぽんしゃぶO2さん
 当然、忙しくて『天草降臨』から離れた時期もありますけど、また探したくなったら探せる。変わらない姿でオレを待ってくれてる。たまに寄る、なじみの食堂で食べる懐かしい定食みたいな部分もあります。頭文字Dとかに出てくる、走り屋が最終的に帰る峠みたいなものでもあります。

──ぽんしゃぶO2さんにとっての原風景だと。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

ぽんしゃぶO2さん
 新しいものを覚えるのと、自分の知ってる古いものから新しいものを発見するのは、まったく別のことなんですよ。後者の方がリソースを使わないんですね。気軽にできるし、やっていて楽しい。だから仕事で行き詰まったり疲れたりすると「『天草降臨』やってリフレッシュしよ」みたいな。

──『天草降臨』で卒論を書くと聞くと異常な行動だと思いますけど、ここまで話を聞いてしまうと、すべての話がしっくりと聞こえてしまいました。

ぽんしゃぶO2さん
 だから、個人的には特別なことをしたという感覚はないんですよ。

──いままでの話を振り返ると、「あ、そうなるよね」と思ってしまいます。心の底から打ち込んできた、逆に言えば「それしかやってこなかったんだ」って。

ぽんしゃぶO2さん
 それしかやってこなかったんですよね。実際、青い言い方をすると、“青春”でしたね。他を全て忘れて、全てのリソースをここに注ぎ込んだ2年間だったんですよね。

──そりゃ卒論書きますよね。

サムライスピリッツ 天草降臨』(1996)
(画像はPlayStation.com 『ACA NEOGEO SAMURAI SHODOWN IV』より)

ぽんしゃぶO2さん
 まさにずっと水を求めて砂漠をさまよっていたんですね。考えれば考えるほど面白くて面白くて。

 あの2年間は狂っていました。狂気の産物です。湧き上がる何かをぶつけたって感じです。今では絶対できないですね。

──その環境に今いてもいいよって言われたらやりますか?

ぽんしゃぶO2さん
 どうだろう……(笑)。あの熱意は自分でもよくわからないものでしたから。(了)


 それが本当に正解なのかどうかは別にして、大学生活はよく人生のモラトリアムと表現される。

 自由があり、時間があり、強制イベントは極少。思うことを思うままにできる期間。しかし、本当にその時間を有効に過ごした人というのは、いったいどれくらいいるのだろうか。試みに自分の大学生活を振り返れば、恥ずかしながら怠惰と安穏と無為の数年だったし、多くの人が同じようにそうであったと信じる。

 ぽんしゃぶO2さんとのお話を通じて素直に感じたのは、一種の眩しさと羨望だった。明らかに「格闘ゲーム」に愛された氏の青春の軌跡はノーマルとは言えず、一の太刀に全てを賭ける薩摩示現流の打ち込みのように、地平にそれしか存在しないがごとく『天草降臨』に打ち込み、見事「卒業論文」の首級を挙げる。

 その結果の留年という立ち回りに関してどう評するかは難しいところではあるが、少なくとも氏はその熱情に浮かされたかのような大学生活での活動によりその次の明確な道筋を拓いた。

 コンプライアンス上の問題で卒業以降の氏の人生に関しては伏せるが、卒業後からいまに至るまでゲーム業界の正道、その真ん中で活躍している。おしなべて人生はままならないものではあるが、対象がなにかにかかわらず何かを「好きであり続けること」、そこには明らかに人生の足取りを確実に前に進める「力」がある。惜しみない愛情は限りないパワーの源泉なのだ。

大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイトAUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter@ishigenn