「ひとり言かぁ。よぉし、俺も言ってみるかな」
「でも、それだと何か面白いこと言おうとするでしょ、絶対。やっぱり人に気遣っちゃうんだ、ひとり言なのに」
「よぉし、釣るぞぉ! 頑張るぞぉ! みんなの朝メシ釣り上げるぞぉ!」

三浦貴大、夏帆主演のドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」テレビ東京・金曜深夜0時52分~)。ゆるい「ソロキャンプ」をテーマにした趣味ドラマだ。

先週放送された第8話は、獲って食べることが大好きなソロキャンプ女・七子(夏帆)が主役の回。七子が渓流でヤマメ釣りに挑戦するというお話だが、とにかくゲストの川瀬陽太がすさまじく印象に残るエピソードだった。冒頭の会話は、七子と川瀬陽太演じるおっさんのもの。ちょっと滑稽でなんだか物哀しい。

あと、夏帆の黒タイツも印象深いエピソードだった。

夏帆の黒タイツ越しのクレソン
冒頭、スーパーでガサガサと買い物をする女性・由紀(柳英里紗)の姿が映し出される。様子を見ていると、普段あまりスーパーで買い物をしない人なのだということがわかる。山でキャンプをするのに冷凍のシーフードミックスを買うのは一種のガサツさの表れだろう。

七子は渓流でヤマメ釣りに挑戦中。ちょうちんのようなタックルベストが可愛らしいが、これは老舗アフトドアブランド、Foxfireのアルフラックスタックルベスト。夏帆の黒タイツ姿が強調されていたが、渓流釣りタイツ姿は定番らしい。「鮎タイツ」という商品カテゴリもあった。

竿を構えている姿を見ていると、このまま夏帆主演の釣りドラマをスピンオフとして作れそうな気がするが、なかなかヤマメは釣れず、彼女の視線は渓流に自生するクレソンに注がれる。夏帆の黒タイツ越しのクレソンという寺沢武一ばりのショットもあった。

肉料理の付け合わせなどで知られるクレソンオランダガラシ)は明治初めに輸入された外来種。上野精養軒で外国人向けの料理に使われていたが、切れ端が汚水と一緒に不忍池に流れて野生化しはじめたのだという。清流だけでなく汚水でも爆発的に繁殖するのだとか(以上、ウィキペディアより)。

あのおっさん、無視でいいんで
「あのおっさん、無視していいんで」
「えっ?」
「ウチの上司なんだけど、さっきから赤い帽子の姉ちゃん、可愛いって言ってて」
「それ、私?」
「ほら、こっち気にしてるでしょ? もし話しかけてきても完無視でいいんで」
「……勘弁してよ」

キャンプ場の洗い場で知り合った七子と由紀。由紀は上司のおっさん(川瀬陽太)を露骨に嫌がっているが、軽薄な感じの上司に話しかけられると調子を合わせる。これが男社会か……と暗い気分にさせられるが、この後、おっさんの印象は二転三転する。

おっさんは七子のことが気になる様子だが、七子はキッパリと背を向ける。ズンズン歩く七子の背中におっさんと由紀の会話が重なる。「社内No.1の女子力ちゃんなんだから」「そうですねー、No.1女子力キープしないと(棒)」。こういう会話(と会話せざるを得ない人間関係、シチュエーション)に背を向けているのが七子である。そもそも「女子力」という言葉が昨今NGワード認定されていることにこのおっさんはまったく気づいていないのだろう。

七子は一人でクレソン天ぷらを楽しむ。七子の友人・宏美(朝倉あき)は今週もメッセージアプリだけの出演。「グランメゾン東京」の玉森裕太の婚約者が実は友人とこんな雑なやりとりをしているのだと想像するとちょっとおかしい。

夜、再び七子のもとを訪れる由紀は「ひとりキャンプ、うらやましいなー」「上司のつまんない話聞かなくていいわけでしょ?」などと愚痴を続ける。結婚したら夫も連れてこいと言われていることに「マジキモい」と言う由紀に、「あー、それキモいやつだわ」と同調する七子。上司が部下の私生活の面倒を見たり、社内の人間が家族ぐるみの付き合いをしたりするのは「キモい」と断じられるようになったわけだ。平成のひとつ向こうとなった昭和の遺物である。

そしてまたしゃしゃり出てきて七子に「一緒に飲まない?」と誘うおっさん。「寂しい夜はつまんない、寂しい夜はCry Cry Cry」というシャ乱Qの歌が絶妙にキモい。もちろん七子はキッパリと無視。

このドラマはおっさんに少し優しい
夜、七子は一人、洗い場で後片付けをしているおっさんを目撃する。ここで、これまでウザくてキモかっただけのおっさんの存在が反転する。つまり、こんなことがわかっていく。

酔っ払って若い女性に絡んでいたわけではなく、ほとんどシラフだったということ。面倒なことを部下にやらせるのではなく、面倒なことも黙々と行う世話焼きな男だったということ。七子を誘っていたのも下心ではなく、ひとりでは寂しいだろうというおっさんの気遣いだったこと。

とはいえ、実は真面目で周囲に気を遣っていて面倒なことも自分でやるおっさんでも、コミュニケーションの方法を間違えば、やっぱりウザくてキモい存在でしかない。若い女性たちに疎まれ、蔑まれ、断罪されて、死に絶えていく。男の上司は女の部下に仕事の用件以外で声をかけてはいけない。日本の社会では間違いなく今後そうなっていく。だが、このドラマはもう少しおっさんに優しい。

翌朝、再び渓流でヤマメを釣ろうとする七子に同じく渓流釣りをしているおっさんが声をかける。おっさんはアドバイスを送り、それに従う七子。洗い場での姿を見ていなかったら、ここでも無視していだろう。

さらにおっさんにおんぶまでしてもらって、見事にヤマメを釣り上げる。おんぶって、相当な信頼だ。その上、冒頭の会話のような言葉をかけて、おっさんがいつもまわりに気を遣っていることを指摘する。部下とのキャンプも、おっさんにしてみれば社内を円滑にするための仕事のようなものなのだろう。七子に対しても社交辞令と愛想笑いが多い。それを七子は「無駄」と断じるが、おっさんは愛想笑いでごまかすことしかできない。

それでも、おっさんは七子の信頼を得たし、最後は部下の由紀と仲良くクレソンを採って頬張っていた。本当に嫌な上司なら、わざわざ動画なんて撮ったりしないだろう。辛くて苦い生のクレソンを食べて、また愛想笑いをするおっさん。おっさんに救いを残していたのは、脚本と監督を担当したのが男性の冨永昌敬だったからなのかもしれないが。

本日放送の9話では、缶詰男子の三浦貴大がソロキャンプ中に上司の田口トモロヲと出会う。だんだんドラマが濃密になってきた。今夜0時52分から。
(大山くまお

ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
監督:横浜聡子(奇数話)、冨永昌敬(偶数話)
脚本:冨永昌敬、保坂大輔、飯塚花笑
音楽:荘子it(Dos Monos)
出演:三浦貴大、夏帆
主題歌:Yogee New Waves「to the moon
プロデューサー:大和健太郎、滝山直史、横山蘭平
制作:テレビ東京、東京テアトル
動画配信サービスひかりTV、Paraviで放送1週間前から先行配信
※放送後にTVerで配信中

イラスト/まつもとりえこ