殿の初の長編時代小説「首」が、このほど、出版されます(12月18日発売予定)。ちょっと勘のいいビートたけしファンの方々なら、かなり昔から殿がテレビ番組などで「いつかやりたい映画の題材」として何度か話していた、あの「首」だとすぐにわかるはずです。

 とにかく「首」は、映画でなく、時を経て小説になりました。で、殿が思い出したように「首」の小説を書き始めたのが約1年程前で、殿はたびたび、

「しかし、時代物は大変だな。言葉遣い一つとっても、その時代の使ってた言い回しや言葉をちゃんと調べなきゃなんねーし。やりだしたらきりがねーな」

 と、今までに経験したことのない執筆の苦労を嘆いていました。

 構想約四半世紀、殿が時間と手間をじっくりとかけて書き下ろした小説「首」、ぜひ、お手元にとって読みふけてください。

 で、やや強引ではありますが、殿と時代物といえば、北野映画第11作「座頭市」です。制作当時、わたくしは殿の付き人を務めていました。

 で、殿はこの頃、プライベートでは仕事終わりにタップダンスの稽古を週6日のペースで、大変熱心に励んでいた時期でもあり、わたくしはその稽古にもほぼ皆勤賞で参加していたため、昼は付き人、夕方からは殿とタップの稽古と、ほぼ毎日、一日中殿と一緒にいられた蜜月の日々でした。

 当時、ロケハンなど諸々の準備が終わり、いよいよ「座頭市」の撮影に入る2週間程前、殿はタップの稽古を1時間ほどやると、撮影で使用する赤い仕込み杖を取り出しては、目をつぶったまま、抜いた刀を仕込み杖に収める反復練習をしたり、

「おい、ちょっとよ、お前がこっちに向かって、こいつに、こう斬りかかってみろよ」

 といった具合に指示を出して、弟子を使って映画でやろうとしていた殺陣のシミュレーションをしたりしていました。

 ちなみに「座頭市」での殺陣は、殺陣師の方が付けたものでなく、ほぼ全部、殿が事細かく指示を出して付けたものです。そのことについて殿は、

「浅草で修業してた頃、さんざんチャンバラコントなんか見てきたから、結構できちまうんだよ」

 と、さらっと答えていました。監督、脚本、主演、そして殺陣と、改めて殿の才能が爆発した、ベネチア国際映画祭銀獅子賞獲得の映画「座頭市」。その映画が完成するまでを至近距離で体感できたわたくしは、本当に幸せ者です。そんな撮影の中、殿はたびたび、

「だけどあれだな。まじめな座頭市のほかによ、もうコテコテの『お笑い版・座頭市』も1本撮って、それをまじめな座頭市のあとに続けて上映して、2本立てでやらせてくれねーかな。ヤクザ者に絡まれた娘を助けた座頭市が、目が見えねーから、ヤクザ者と一緒に、まとめて娘も叩き斬っちゃうやつとか、やらせてくれねーかな

 と、夢の2本立て構想を本当によく言っていました。

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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスターブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!

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