綾子「もう満はダメだね」
房枝「うん?
綾子「あいつは本当のクズだよ。ちょっとでも期待した私がバカだった」
房枝「でも、家族が見捨てちゃ終わりでしょう?」

12月7日(土)放送の土曜ドラマ 『俺の話は長い』日本テレビ系)第9話。再就職を目前に、満(生田斗真)はまだ就職活動ができないでいた。光司(安田顕)のほうは、趣味の繋がりで就職口を紹介してもらえそうだ。

大人たちに見守られる春海(清原果耶
前半の「其の十七『トンカツと占い』」では、中学生の春海が高校に行かずラジオパーソナリティになりたいと言い出す。自分の部屋で、主人公がラジオパーソナリティになる漫画『波よ聞いてくれ』(沙村広明/アフタヌーンKC)を読む春海。綾子(小池栄子)は、満に春海の話を聞いてくれるように頼む。

高校なんか行かずに自分の好きなことをしろ、とは満は言わない。満は、そういう理由で無職をやっているわけではないことが、春海との会話に表れる。

満「俺はな、ラジオパーソナリティはすばらしい仕事だって思ってる。パソコン、スマホ、ユーチューバー全盛のこの時代に、ラジオの仕事を目指すその心意気がまず素直に嬉しいよ。ありがとう」
春海「別にお礼言われても」
満「春海の複雑だった家庭環境が全く無駄にならない仕事だし、本当に応援してやりたいって思ってる。でも、もっといろんな経験積んでから目指してほしいんだよ」

それでも今すぐにラジオパーソナリティになるための専門的な勉強をしたいという春海に、満は続ける。

満「もちろんわかるけど、俺は大学中退してすぐには始めなかった。開業資金貯めるために必死に働いたからだよ。俺が開業資金貯めたように、春海にはもっと経験を溜めてほしいんだよ。高校に行かなきゃ溜められない経験が確実にあるから。友達作って、恋をして、勉強して楽しんだり傷ついたりしないと溜まらない経験が高校にはあるから。それを経験しないでラジオパーソナリティになりたいっていうのは嘘だよ。春海だってそう思わないか?」

満はただ常識的な意味で「高校に行け」と言っているわけではなかった。上手くはいかなかったけれど、自分がコーヒー屋を始めたときにはたくさん働いて開業資金を集める苦労をした。それほど満に情熱があったからだ。同じだけ情熱があるならば、自分と同じように準備をしっかりとするべきだと、満は春海を諭す。

食卓では、揚げたてのトンカツが待っていた。最初は満もトンカツを早く食べたくて春海の話を適当に聞いていた。でも、だんだんとトンカツのことなど忘れてしまうくらい言葉に気持ちが入っていく。満は働きたくないのだと綾子たちは思っているが、そうではなく、逆に働くことにこだわり過ぎてしまっているのだということが、春海への話から感じられる。

タイトルには「トンカツ」が入っているが、結局みんなで食べたのは来々軒のラーメンだった。あっさり味の、こういうのでいいんだよ系のラーメンのようだ。おいしそう。

来々軒で流れていたラジオで、介護職の女性が90歳のおじいさんに告白された悩みの相談メッセージが読まれた。ラジオパーソナリティの女性は、自分も高校3年生の頃に75歳の男性に告白され、断ったら杖で殴られ鼻の骨を折ったのだと過去を明かす。だいぶ壮絶なその話に、春海はやっぱり自分には経験が足りないと実感する。

ラジオパーソナリティになりたい春海に、綾子は放送部やアナウンス部がある高校を探し、光司は自分のバンド時代のつながりを使ってラジオ関係の仕事をしている人を紹介できるかもと言っていた。春海をみんなで見守り、みんなで育てているというあたたかさと心強さも感じる回だった。

明日香(倉科カナ)からのメッセージ「やれ」
「其の十八『ラーメンとフリーマーケット』」では、光司が落ちた議員秘書の仕事を満にやらせたらどうかという話が持ち上がる。そして、もう出ないかと思っていた明日香(倉科カナ)も登場した。

満は、バー「クラッチ」で海星(杉野遥亮)たちに、6年間も悩んでいたのに周りにお膳立てしてもらって就職するのは嫌だと話す。これも、満の「こだわり」なのだろう。

春海が満たち家族みんなに見守られ、助けられて育っているように、本当は満も色んな人に支えられている。綾子もいじわるで就職させようとしているわけではなく、満に合う仕事をとは考えている。喫茶「ポラリス」の常連客たちも、時には就職口を紹介してくれていた。海星は相談に乗ってくれる。

クラッチにクリスマスツリーを搬入するために来ていた明日香は、海星たちに満への伝言を残した。「やれ」のたった2文字。恋愛としては上手くいかなかったが、明日香もまた満を見守っている。自分がやりたいこと、情熱を捧げられることをしなければいけないと思い込んでがんじがらめになっている満を、みんなが解きほぐそうとしていた。

房枝「結局、綾子でも無理だったわね」
綾子「なにが?」
房枝「引っ越すまでに、満を就職させることよ」
綾子「あの頑固さは想像を超えてたね」
房枝「絶対に就職させてうちから追い出してやるなんて豪語してたくせに」
綾子「すみませんでした」
房枝「もともとそんなに期待してなかったけどね」
綾子「私たちが出て言ったらどうするの」
房枝「どうするのって……あなたたちが来る前の生活に戻るだけよ」

最終回、綾子、光司、春海は新居に引っ越していく。房枝が言うように元の生活に戻ってほしいような、やりたいことに気づいて就職してほしいような。どちらに転ぶとしても安心してしまいそうなほど、満に納得できるように生きてほしいと思っているから不思議だ。いつの間にか自分も、満を見守る人たちの一員になっている。
(むらたえりか

=配信サイト=
huluhttps://www.hulu.jp/orebana
日テレ無料!(TADA):https://cu.ntv.co.jp/orebana_01-01/

=番組情報=
土曜ドラマ 『俺の話は長い』日本テレビ系
毎週土曜日よる10時〜
出演:生田斗真安田顕小池栄子清原果耶杉野遥亮、水沢林太郎、浜谷健司(ハマカーン)、本多力、きなり、西村まさ彦、原田美枝子、ほか
脚本:金子茂樹
音楽:得田真裕
主題歌:関ジャニ∞「友よ」(インフィニティ・レコーズ)
コーヒー指導・監修:篠崎好治
動物指導:ZOO動物プロ
国語指導:藤本裕子
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
演出:中島悟 ほか
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
番組公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/

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イラスト/たけだあや