2016年に公開され、センセーションを巻き起こしたアニメーション映画この世界の片隅に』。本作に250カットを超える新たなシーンを加えた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開となる。主人公・すずの声を担当した女優・のんが改めて本作への思いを語るとともに、女優として、演技への“欲求”を口にした。

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■新たなシーンで気づいたすずの“苦しみ”

 昭和19年、広島から呉の北條家に嫁いだ主人公・すずの視点を中心に、戦中から終戦に至るまでの人々の暮らしを独特の温かみのあるアニメーションで紡ぎ出す本作。特に今回、2016年版では描かれることのなかった、すずと遊郭で働く女性・リンが友情を育んでいくさまなどがより深く描かれている。

 リンとの新たなシーンそのものが魅力的であるのはもちろんのこと、のんが何よりも驚いたのは、これらのシーンが加わることで、従来のシーンの理解がより深まり、これまで感じていたのとは全く異なる登場人物の心情、新たな風景が見えてきたことだった。特に、のんが強調するのは、なかなか子を授かることができないすずの苦しみ、“嫁の義務”という心の枷(かせ)である。

 「すずさんがリンさんと“嫁の義務”について話すシーンがあるんですけど、すずさんがあの家で、自分の居場所を見つけるためにこんなにも必死で、焦りを感じていたんだってことに気づいてハッとしました。その後の、周作さんと街で会った子を家に連れて帰るシーンは前作からありますが、監督からは以前の収録で『すずさんが母親になるシーンなので、母親をやってください』と言われたんです。それを聞いて『すてきだなぁ』と監督に賛同するような気持ちでいたんですけど、新たにリンさんとの会話が加わったことで、“嫁の義務”として子を産みたかったけど授からなかったすずさんの苦しみも見えてきて、シーンの意味合いが全く変わるのを感じました。私の中でも腑(ふ)に落ちたし、すごく衝撃を受けました」。

■「ごはんがおいしいって幸せなこと」

 改めてこの作品、そして、すずという役との出会いがのんに与えてくれたものは? そんな問いにのんはしばらく逡巡し、あの時代を生きる人々の生活感、リアリティーを強く描き出すさまざまな“食”にまつわるシーンに触れつつ「ごはんがおいしく感じられるようになりました」と笑みを浮かべる。

 「すずさんと出会ったことで『おいしいごはんを食べたい』と食欲をそそられるようになりましたね。以前は集中し過ぎると、お腹がすいてもどうでもよくなって、スナック菓子とかを食べていたんですけど…。この作品に携わってから『ごはんがおいしいって幸せなことなんだな』という気持ちが増しました」。

■女優への欲求「演技は一番自信のあること」

 今年は渡辺えり脚本・演出の『私の恋人』で念願の初舞台を踏んだ。ほかにも映画監督(『おちをつけなんせ』)初挑戦に、「NON KAIWA FES」の主催など、多彩なジャンルで精力的に活動している。「真っすぐ、ブレずに突き進んでいきたいと思っていますけど、その中で『のんがやるからにはどんな面白いことがあるんだろう?』と思ってもらえるように、常に驚きや刺激を与えられるアプローチを大事に考えています」とそれぞれの活動への思いを語る。

 もちろん、“女優”であることも、彼女を司る要素の一つ、いや、彼女自身の言葉を借りるなら「演技は自分の中で一番自信があること」だ。映画やドラマの映像作品で「女優のんを見たい」というファンの声も多い。そんな声については「そう言っていただけるのは、本当にありがたいことだと思います」と笑顔を見せ、「自分は女優として(キャリアを)始めているし、これからも女優として生きていくことは変わらない」と改めて彼女自身の内にある演じることへの渇望を口にする。

 現在26歳。最近、ふと気づいたのは「意外と時間が足りない」ということ。

 「いままでは、翌日は仕事だったら『ちゃんと寝なきゃ』ってセーブしていたけど、今は『作りたい』って衝動がわき起こったら、ブレーキをかけずに突っ走ってますね。最近、創作欲が止まらなくて、お布団に入っては起きて作り、1つ作品ができる、という勢いで、ハイペースに曲を作っています!」。(取材・文:黒豆直樹 写真:松林満美)

 映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は12月20日より全国公開。

のん  クランクイン!