先日の8日(日)、さわや書店青森ラビナ店は無事に開店一周年を迎えることができました。ひとえにお客様ならびに関係各位の皆様のお蔭です。ありがとうございます。

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 私も前日に青森入りし、翌日の一周年記念フェアならびにイベント準備の手伝いをしました。この青森出張の楽しみのひとつは、なんと言っても「朝ラー」。青森では市場を中心に、朝から営業している食堂や蕎麦屋でラーメンを食べる、という文化が浸透してきたとのこと。起床したばかりの身体にラーメンは重いのでは、と危惧する方もいらっしゃるかもしれませんが、これがいけるのです。

 ご当地ラーメンの特長である煮干し風味が食欲を誘い、早朝の凍てつく寒さで凍りついた身体を芯から温めてくれます。一日の活力を得ることができる「朝ラー」、今回もお世話になりました。

レスラー・川田利明にフォールされてしまう!

 ところで電話帳の識別によるとラーメン店は、全国で約3万軒もあると言われています。そのほかにもファミリーレストラン居酒屋などラーメンを提供している店舗を加えるとその数は何倍にも膨れ上がります。

 出店のハードルが他の飲食店に比べるとハードルが低いとは言え、競争が激しいこの業界。そんな荒波にあえて挑んだ様子が綴られているのが『「してはいけない」逆説ビジネス学』川田利明)。

 まずは「開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える」というサブタイトルに目を奪われる本書。

 通常は、失敗を重ねながらも人気店まで登りつめたストーリーが詰まっていて、読者に夢を与える構成にしがちなもの。ところが本書は、冒頭で「この本を読んで「こんなに大変なら、やっぱりラーメン屋になるのはやめよう」と思ってくれる人がいてくれたほうが、俺はいいと実は思っている」と言い切ってしまっているではありませんか。

 しかもページをめくると、各章の小見出しには、
あっという間に消えた1000万円・・・開業資金はいくらあっても足りない!
意地でも店を存続させるために・・・俺は全財産を失ってしまった
といったような過激な失敗談が並んでおり、冒頭の文章が決してミスリードではないことが分かります

 これも美辞麗句を並べるよりも、自分の失敗談の数々を赤裸々に伝えることで、反面教師にしてもらいたい、という著者の願いが込められた結果です。これこそ、天才・三沢光晴、エース・小橋健太いぶし銀・田上明との四天王プロレスにおいて、武骨なスタイルで存在感を発揮していたレスラー・川田利明本領発揮ではありませんか。

 全日本プロレス時代のエピソードもときおり織り込まれていますが、著者の人柄もあり決して嫌味にはなっておらず、プロレスファンにとってもたまりません。読み終えると「麺ジャラスK」に食べに行きたくなること間違いなし。読者はみな川田利明にフォールされてしまうことでしょう。

あえて売上を限定させる奇跡的なビジネスモデル

 そんなラーメン業界に対して、私たち書店業界はお先真っ暗。店舗数も全国で約10000軒、この10年で25%減少しました。しかももともと膨大な資金が必要なうえに、出版不況などが重なり、新規参入もままならぬ業界です。

 すぐに解決策が見えない以上は、しばらくの間は我慢を強いられ、とにかく持続していくことに注力していくしかないでしょう。その際のヒントになりそうな一冊が、『売上を、減らそう。』(中村朱美)。

 飲食店業界は、長時間勤務、休みの裁量が少ない、高くない賃金、といった状況が良く指摘され、決して恵まれた職場環境とは言えません。著者も、ホテルのシェフだった父と、レストランの接客係だった母に「飲食店はアカン」と言われ続けて育ちました。

 それでも食べることが好きだったことに加え、「自分のレストランを開きたい」という夫の夢を叶えるために、京都に国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」(ひゃくしょくや)を開店します。しかもその名の通り一日限定100食、何があっても売り切れ御免、という異色のスタイル。

 その根底には、売上増を目標にすることが、社員に無理強いをしている要因であることを見抜いたことがありました。そのため、あえて売上を限定させることで、社員が働きやすい環境を作り上げる狙いがあったのです。

 本書は、会社の利益を追いつつも、残業なし、シフトも選択でき、さらに給料は百貨店並み、という社員の幸せも可能にした、奇跡的なビジネスモデルのノウハウが詰まっています。

 なかでも著者の底力を感じるのが、「佰食屋二分の一」のフランチャイズ展開構想。大阪府北部地震西日本豪雨、さらに台風の上陸といった自然災害を前にして、著者はさらに売上を減らす前提でのビジネスモデルを構築することを決意します。

 しかも一日限定50食でも成り立つこのモデルは、実は災害などのアクシデントだけではなく、これからの少子高齢化による市場の縮小にも見事に対応しており、持続性に満ちたものだったのです。この発想の大転換だけでもかなり勉強になる本書、読み終えると満腹感に包まれること間違いありません。

 また持続可能性を求めるとき、地域に根ざした企業であることは欠かせない要件の一つでしょう。こちらの「佰食屋」も著者の出身地である京都で展開しており、その地域性は大なり小なり社風に影響を与えているはずです。

それが本当の意味での「震災復興」

 その観点から、地元で生きる気概が伝わってくる良書が『走れ!ダンボルギーニ!!』(今野英樹)。

 舞台は宮城県石巻市に本社を置く今野梱包株式会社という、社長である著者いわく「小さな梱包会社」。この地方によくありそうな会社が、なんとランボルギーニダンボールで制作してしまい、東日本大震災からの復興のシンボルとして、一躍脚光を浴びます。

 タイトルにあるこの通称「ダンボルギーニ」、ページを開いてすぐに目に飛び込んでくるその姿は、圧巻のひとこと。

 書店の現場でも、書籍の送品や返品の際に使用するので、ダンボールは身近な存在ですが、どうしたらあのように今すぐにでも走り出しそうなスポーツカーに形を変えることができるのでしょうか。不思議でなりません。

 しかも本書にはこのダンボルギーニのほかにも、レンチやジャッキなどの工具、トンボダイオウグソクムシといった生物といったサイズが小さいものから、両翼が630cmもある野球盤や20分の1のガンダムまで、さまざまな作品が収録されており、それらを見るだけでも楽しめます。

 これらは震災後やリーマンショック後の受注が減ったときに、技術を磨くために制作したものであり、決してアート作品にするのが目的ではない、と著者は言います。そして高い技術力を発信することで、日本はいうまでもなく世界中から仕事を呼び込むことで、結果的には地元も潤うようにしたい、との願いが込められていました。それが本当の意味での震災復興につながるのではないか、と・・・。

 確かな技術のうえに、ちょっぴりの遊び心、何より強い信念、と持続可能な企業の要件が揃っている今野梱包株式会社。業種は違えど、自分たちの足元を見つめ直すためにも本書でその姿を知ってみてはいかがでしょうか。

 といったところで、今回はお開きにさせていただきます。

 来週にはイベント第二弾の手伝いで青森入りするので、また朝ラーを楽しむことにします。さわや書店青森ラビナ店も、激戦区の書店で生き残る術を「麺ジャラスK」、末長く店を続けて行くためのスタイルを「佰食屋」、地域貢献の仕方を「今野梱包」、それぞれの方々を参考に踏ん張っていこうと思います。

 それにしてもいつも不思議に思うのですが、これだけさまざまな業界や企業の成功事例集が店頭に並んでいるのに、それを扱っている出版ならびに書店業界はなぜ自分たちに活かせないのでしょうか。

 おっと、この話を始めると長くなりそうなので、今日はこのへんで・・・。

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プロレスラーとしての川田利明。2008年4月、後楽園ホール(写真:平工幸雄/アフロ)