オーストリア連邦鉄道が運行するヨーロッパの国際夜行列車「ナイトジェット」。その1等個室寝台に、イタリアのボローニャからドイツミュンヘンまで乗車。日本の寝台列車ブルートレイン」とはいろいろ違いました。

発車時からいろいろあった「ナイトジェット」「ブルートレイン」の違い

ヨーロッパ31カ国で使える鉄道の乗り放題パス「Eurail Pass(ユーレイルパス)」。これを用いたヨーロッパの鉄道&世界遺産を満喫する旅へ、2019年8月から9月に出かけました(2か月のうち任意の10日を選んで使える1等車用「ユーレイル グローバルパス」を使用。大人用〈28歳以上〉605米ドル〈約6万6000円〉、シニア用〈60歳以上〉546米ドル〈約5万9600円〉)。

この旅で、日本では貴重になった寝台列車、しかも複数の国を駆け抜ける寝台列車に乗車しました。オーストリア連邦鉄道(OBB〈正しくは「O」の上に点2つ〉)が運行する国際夜行列車「Nightjet(ナイトジェット)」のうち、ローマイタリア)とミュンヘンドイツ)を結ぶ列車です。

夜も深まり、人の気配がすっかり少なくなった23時前、イタリア北部のボローニャ中央駅。青い客車が乗客を待っていました。日本の寝台列車ブルートレイン」の車両に比べ、やや紫がかった青でしょうか。ともあれ、夜行列車には「青」がよく似合います。

工事のため、この日はボローニャ始発だったミュンヘン行き「ナイトジェット」NJ294(EN294)列車は22時57分、時間通りに動き出しました。「ブルートレイン」と同じく機関車が客車をけん引するタイプの列車ですが、連結部分の構造が「ブルートレイン」の客車と違い、車両と車両のあいだに緩衝器があるためか、しばしば「ブルートレイン」で起きた発車時の「ガクン」という衝撃は、終着駅まで一度もなかったです。

発車時刻前にドアが閉まった「ナイトジェット」 1等個室の車内設備は?

もうひとつ発車時、日本とは違うことがありました。ボローニャ発車時刻の約8分前だったでしょうか、ホーム上に笛が響き、「乗って」と係員にうながされ、発車時刻前なのにドアが閉まったのです。

こうした発車時刻前のドアクローズは、定時出発を図るため、ヨーロッパではしばしば見られるものです。閉まったあとでも発車時刻前なら乗れますが、ダメなこともあるので、ギリギリにホームへ行くのはおすすめしません。

乗車したのは1等の個室寝台。2段ベッドにして2名で利用しました。私(恵 知仁:鉄道ライター)は上段を使ったのですが、このとき驚いたのは、転落防止の柵などが上段に見当たらないこと。国によってはそうした場合もあると聞いていたため、そうした場合かと思い、ちょっとハラハラしながら夜を明かしました。

ただ朝、ベッド周りを片付けていると、マットの下に収納されていた転落防止の網を発見。ハラハラはムダだったことが判明。いやはや、思い込みは禁物です。

1等個室を備えるこの車両には、その乗客専用のシャワー室も用意されていました。利用料金や予約は不要。ただ、シャワーとトイレの部屋が一体になっているため、どちらかの利用者がいたら使えないことに注意です。なお洗面台は、各個室に設置されています。

嬉しかった「ナイトジェット」のきっぷ拝見 朝食も部屋へお届け

ボローニャを発車してしばらくすると、この車両を担当する車掌が検札にやってきたのですが、これまで私が受けたあまたの検札のなかでも、嬉しいものでした。ウエルカムドリンクのワインを片手にやってきたのです(すみません、呑兵衛です。ちなみに日本でも、ウエルカムドリンク付きの「ブルートレイン」はありました)。

フレンドリーな車掌で、にこやかに車内の設備などについて説明。あわせて朝食の注文もとってくれます。

あらかじめベッドに朝食のメニュー兼注文票が用意されており、それを渡す形。「コーヒー」「紅茶」「ロールパン」「ハム」「サラミ」などから6種類を選ぶスタイルで、価格は5.4ユーロ(約657円)です。

なおベッドには、別に軽食やドリンクのメニューも置かれていました。ビールやワインは3ユーロ程度、「チーズバーガー」4.9ユーロ、「トマトソースのベジタブルラビオリ」6.9ユーロなどです。

各ベッドに用意されていたアメニティも嬉しいものでした。お菓子やスリッパ、耳栓、ミネラルウォーター、タオル、ボールペンといったもので、持ち帰り可能。「Nightjet」のロゴ入りもあり、いい旅の記念になります。

朝を迎えた「ナイトジェット」車内に警察官 ミュンヘン駅に日本の鉄道模型

日付が変わり、車掌にもらったワインを寝酒に就寝。そして目が覚めると、赤紫の空と濃い緑の山、艶やかな青色をした川が、車窓に流れていました。

6時25分、約10分の遅れで列車はオーストリアザルツブルク中央駅に到着。ホームへ降りると、空気が気持ちいいです。こう言ったらなんですが、一晩を過ごした車内と、早朝の駅ホーム、空気の味は全然違います。

ここでは2名の警察官が、パスポートの確認で車内へ乗り込んできました。各部屋をノックし、そのチェックをしたのち、列車から降りていきます。

パスポートの確認は、列車がこののちドイツ国内に入ったあとも別の係官によって行われたのですが、窓にパスポートをかざして「すかし」を確認するなど、より厳密なもの。実際の理由はさておき、「ドイツ人は几帳面」というイメージがより強くなったのでした。

国際夜行列車「ナイトジェット」NJ294(EN294)列車は8時17分、2分ほど早く終点のミュンヘン中央駅に到着。ちなみにこのミュンヘン中央駅、ホームに面して鉄道模型店があり、日本の鉄道模型ブランド「KATO」のポスター(「ICE4」のNゲージ)が貼られていました。

ミュンヘンからは、ローカル列車を乗り継いで「ロマンティック街道」終点の街フュッセンへ。バイエルン王のルートヴィヒ2世が「城への憧れ」から19世紀に建築した、こう見えて実は鉄骨組みの「ノイシュヴァンシュタイン城」見学に向かいます。

協力:ユーレイル・グループGIE

夜が明けて、オーストリアのザルツブルク中央駅に到着したミュンヘン行き「ナイトジェット」(2019年8月、恵 知仁撮影)。