米ワシントンではいまウクライナ疑惑が最終局面を迎えようとしている。
米連邦下院司法委員会は12月13日、ドナルド・トランプ(以下トランプ)大統領の弾劾決議案を可決し、来週中には下院本会議でも可決する見通しだ。
年明けには上院で裁判が始まる予定である。だが共和党が100人中53人を占める上院では罷免に必要な67人までには届かず、トランプを罷免させることはできない。
本件において、トランプが「罷免されず」という結果はかなり前から見えていた。
ここで改めて浮き彫りになったのは、連邦議会内での政治的対立である。
トランプ弾劾にあたっては「職権乱用」と「議会妨害」が訴追理由に挙げられたが、共和党議員は上下両院でほぼ全員が弾劾に反対し、民主党議員は賛成に回っている。
そこには真実の追求というより政治的立場を論拠とする反目が際立っている。
両党は超党派で法案を成立させることもあるが、トランプの処遇については対立したまま譲ることがない。
共和党議員はトランプの所業を冷徹に洞察する前に、「共和党員である」ことに立脚した議論を展開する。
つまり、何よりも先に「大統領を守る」ことを前提としてトランプの正当性を主張し続ける。
民主党議員は逆の立場である。議員の多くは弁護士資格をもつ法律家であるが、客観的な法的判断を下せていないかのごとくである。
ウクライナ疑惑の核心はトランプが違法行為を行ったかどうかであり、政治的判断ではなく、法的判断が必要になる。
下院司法委員会の公聴会に出席したスタンフォード大学のパメラ・カーラン法学部教授は次のように証言している。
「証拠となっている記録を精査しました。そこで示されていたのはトランプ大統領がきたるべき選挙(2020年大統領選)で、外国の関与を招き入れた、つまり要求したという事実です」
同教授はトランプが「職権乱用」を犯したとの判断を示した。
同席したハーバード大学法学部のノア・フェルドマン教授も「証拠と調査結果を精査した結果、(トランプ)大統領は職権乱用で弾劾されるべき罪を犯しています」と明言した。
ただすべての憲法学者がトンラプ弾劾に賛同しているわけではない。
同じ公聴会に出席したジョージ・ワシントン大学のジョナサン・ターレイ教授はトランプ弾劾には難色を示した。
「この弾劾手続きは、現代では最も早急に進められ、証拠となる記録も少ない。弾劾の条件としては最も脆弱である」
ターレイ教授が弾劾に前向きでない意見を述べたのは、同教授だけが共和党の呼び寄せた憲法学者だったからで、同党の弁護人としての役割を担っていた。
ただ憲法学者でも捉え方は同じでないことを示した。
人間が不完全である以上、法律に完全というものもなく、トランプの行動を違法であると捉える者と違法ではないと捉える者が出てくる。
法律家が議論を尽くしても「絶対」と呼べる真理を獲得できるわけではない。
さらに一人の人間、しかも大統領という最高権力者の有罪か無罪かの判断では、特に政党という色に染まった考え方が優先される傾向が強い。
まして議員たちは選挙や党内での立ち位置を考慮せざるを得ず、純粋に法的な決断を下すよりは政治的な判断に身を委ねることになる。
トランプに反駁した議員は、選挙で苦戦を強いられる可能性がでてくるし、共和党の協力を得られないこともある。
こうした状況は何もいまに始まったわけではない。1998年から99年にかけて行われたビル・クリントン大統領の弾劾訴追でも上下両院でほぼ同様の政治対立が見られた。
たとえばクリントン氏の罪状の一つだった「偽証罪」の連邦下院での票決は228対206。この時の議席数は共和党が228で民主党が206という、あまりにも明確な割れ方でクリントン氏は下院では訴追された。
今回、もう一つ議論しておきたいことがある。それはジョー・バイデン民主党候補(以下バイデン)のウクライナ疑惑についてである。
そもそもトランプが弾劾の対象にされたのは、ウクライナ疑惑がきっかけである。
民主党候補の中ではトップを走るバイデンを叩くため、トランプは公私にわたってバイデンの周辺を調査していた。
すると息子のハンター・バイデン氏(以下ハンター)がウクライナで不正を働いた疑惑が浮上する。
トランプは顧問弁護士ジュリアーニ氏に疑惑を調査させるためウクライナに飛ばしている。
さらにトランプ本人がウクライナのゼレンスキー大統領に電話で、ハンターの調査依頼をしてもいる。
結局、この電話内容が今回の弾劾訴追の核心となり、トランプは墓穴を掘ることになる。
ウクライナ疑惑につきまとう疑念は本来、トランプではなくバイデン親子に向けられてしかるべきである。
2014年4月にハンターはウクライナの最大天然ガス会社「ブリスマ」の理事に就任する。ハンターはそれまで天然ガスやエネルギー分野に精通していた人物ではない。
エネルギー分野での職歴もなく、当時オバマ政権副大統領が父親だったという経緯から、月収5万ドル(約540万円)の地位を得たと言われている。
その他にもバイデン親子のウクライナでの所業が問題視されているが、バイデンは正面から同問題に向き合っておらず、記者や有権者からの質問をかわしつづけている。
今月初旬にバイデンがアイオワ州で選挙活動をしていた時のことだ。78歳の男性がバイデンに質問した。
「トランプがウクライナでやらかしたことは誰もが知っている。でもあなたも天然ガス分野での職歴がない息子をウクライナで仕事に就かせた。コネを使ったという点ではトランプと同じではないのか」
挑発的な質問にバイデンが怒りの顔で反応している様子がユーチューブの動画で観られる。まるで嘘を暴かれた時の子供のように、返答するのだ。
「あんたはひどい嘘つきだ。これまで誰もそんな発言をしたことはない」
そう言うとバイデンは男性の方に近づいていく。
「息子が何か悪いことをしたなどと、これまで誰も口にしたことはない。この件で、あんたと議論するつもりはない」
本当にやましいことがなければ、バイデンは今からでもバイデン周辺に渦巻くウクライナ疑惑の核心を詳述しなくてはいけない。
遊説先では記者からの質問をあまり受けていないことも、疑惑を深めることになっている。
バイデンがウクライナ疑惑をクリアできない限り、民主党代表候補の座は勝ちとれないかもしれないことを知らなくてはいけない。
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