「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。投資で必ず成功する秘訣を探っても、局面によって異なり、結局は「柔軟に対応する」以外に普遍的な法則を見出すことは難しい。ただ、失敗には必ず理由があり、こうすれば必ず失敗するという秘訣(?)は何となく示せるような気がする。この「失敗の法則」を反面教師とし、運用に活かせるのでは――ブラックロック・ジャパンの取締役 浜田直之氏(写真)が、人生100年時代といわれるこれからの資産運用を考えるポイントを語る。

 ブラックロックはかねてから、運用をとりまく環境が「新しい世界」に入ったと主張してきた。「新しい世界」とは、低迷する利回り、高いボラティリティ、急落局面における高い相関性、常に漂う不確実性を指す。私たちはこの4つの特性と長い付き合いになると考えている。 

 たとえば不確実性について、ブラックロック・グループCEOのラリー・フィンクは、世界の主要な投資先企業のCEOに毎年送っているレターの中で、2019年初には次のように述べている。「市場に不透明感が蔓延し信頼感が後退するなかで、多くの人々が、景気後退リスクが高まっていると感じている。長年にわたる賃金の低迷に対する不満、技術革新により雇用を奪われるのではないかという不安、そして、将来に対する不透明感等が世界のいたるところで人々の怒りを煽り、ナショナリズムや排他主義を招いている」。技術革新は社会や経済に大きな恩恵をもたらした。しかし、その恩恵は都市部の一部の知識層に偏在し、結果として格差拡大を招きポピュリズムの台頭に繋がっている。政治も経営者も努力をしていくものの、問題の解決には多くの時間を要することになろう。

 さて、今年は「2000万円問題」が取り上げられた。長寿化により生命寿命と健康寿命が延びることは本来喜ばしいことだが、そこでは「お金の不安」が大きくクローズアップされた。資産の寿命を延ばすために運用をしていかなければならないとの考えは広がりつつあるが、実際に何をすればよいのかの解を見つけることができない方も多いのではないだろうか。

 実際、資産分散、時間分散、長期投資というリスクと付き合う方法はわかっているものの、低利回りの債券がクッションの役割を果たすことができず、市場が混乱したときにさまざまな資産が一様に下落する風景を目の当たりにすると、分散をしても意味がないと「分散をあきらめる」投資家も多い。

 一方、相場が上昇していくときには、下げ相場の弾力性を忘れて、分散をすると上げ相場についていけないし、過去の損失を一気に取り戻したいとも考え、変動性の大きい資産に集中投資してしまう傾向もみられる。調子が良いときには慢心して、「相場を当てる」ことができると自信を深める方もいるだろう。また、株式は大きく下落してもいつか上昇するので長期で持てば良いとの考えに基づいて投資したものの、ジェットコースターのような動きで耐えきれない苦痛を感じ、投資をやめた方もいるかもしれない。しかしながら、そのような理由でせっかく始めた投資をやめてしまうことは、これからの人生100年時代を送るうえで非常に惜しいことである。

 運用に重要なのはタイトルにある通り、謙虚さであると考える。相場を読み取ろうといくら知識を蓄えても、明日のことを100%読みあてることは誰にもできない。特に、「新しい世界」の中では、これまで私たちが予測しなかった風景に遭遇するのは不可避であり、すべて自分の思い通りになると思わないことだ。ブラックロックの中に一つの標語がある。それは、「常にマーケットのスチューデントであれ」という言葉だ。私たちはマーケットの動きから多くの経験や知識を得ることができるはずだ。マーケットは常に変化し同じところにはとどまらない。したがって、マーケットが悪いから投資をしない、マーケットが良いから分散は必要ない、と考えず、常に反対に動いた場合のことも頭に入れながら、「分散を諦めない」、「分散を忘れない」ことが長期的な運用で成功する(失敗しない)ポイントだと思う。

「失敗の法則」から学ぶ資産運用法(4):謙虚さを忘れる=ブラックロック浜田氏に聞く