忘年会シーズン真っ盛りですが、宴席で上司のビールグラスが半分程度空いたときにどうすべきか、ネット上で議論になっています。「上司のグラスが空いたままではいけない」「気が利かないと思われる」という声の一方、「ぬるくなっているビールにつぎ足すとよくないのでは」という声もあります。実は「ビールのつぎ足し」については、美食家として知られる作家の池波正太郎さん(1923~90年)が「愚の骨頂で、一番ビールをまずくする飲み方」と酷評しています。

 果たして真偽の程は――。ビールの造り手の見解を、キリンビール企画部の中水和弘さんに聞きました。

空気で風味が損なわれる?

Q.グラスに注いだビールが半分から3分の1程度残った状態でつぎ足すと、ビールの味はどうなるのでしょうか。

中水さん「日本で多く飲まれているビール(ピルスナー)は空気に触れたり、温度が上がったりすると風味が損なわれてしまいます。つぎ足して飲むと、残っているビールと新しいビールが混じってしまったり、泡の立ち方が悪かったりする可能性が出てきます」

Q.池波正太郎さんが「男の作法」(新潮文庫など)の中で、「まだ残っているうちに注(つ)ぎ足してしまう。これは愚の骨頂で、一番ビールをまずくする飲み方」と言っておられます。これは真実でしょうか。

中水さん「真実かどうかはお答えしかねますが、先述の通り、残っているビールと新しいビールが混じってしまったり、泡の立ち方が悪かったりする可能性はあるかと思います」

Q.なぜ、ビールが残っているのにつぎ足す習慣が広がっているのでしょうか。

中水さん「目上の人(上司など)がすすめてくる場合、嫌がらずにいただくことが作法のように考えられていた時期があったからだと思います」

Q.忘年会などの宴会で、ビールをおいしく飲む方法を教えてください。

中水さん「それぞれ飲める量やペースがありますので、幹事さんは参加者の状況に合わせて、瓶やジョッキを提供するなど、皆さんが負担にならないように努めてください。

また、キリングループでは、お酒の時間をゆっくり楽しみ、誰かと語り合いながら、食事のおいしさに喜び、程よく飲んでスマートに心地よく過ごすことを『スロードリンク』と呼んで、新しい飲み方として提案しています。飲む量ではなく、流れる時に心が満たされる、これからの時代のお酒の楽しみ方としてご提案しています」

Q.宴会に限らず、ビールをおいしく飲むコツを教えてください。

中水さん「ビールを泡立てながら3回に分けてグラスに注ぐ『三度注ぎ』があります。ドイツチェコ伝来の注ぎ方で、ビールがおいしくなるといわれています。

また、昨今はクラフトビールが飲めるお店も増えてきて、ワインのようにゆっくり、じっくり飲むことができるビールがあったり、泡なしで飲むビール、温度が高い方がおいしいビール、フルーツなどを使用した色鮮やかで見た目でも楽しめるビールがあったりして楽しみ方も多彩ですので、自分の好みに合ったビールを探していただければと思います」

 ちなみに、「男の作法」で池波さんは「コップになみなみ注がないで、三分の一くらい注いで、それを飲み干しては入れ、飲み干しては入れして飲むのがビールの本当のうまい飲み方」としています。

オトナンサー編集部

ビールのつぎ足しで、味がまずくなる?