1995年スクウェアから登場した名作RPG『ロマンシング サガ3』(以下、『ロマサガ3』)。スーパーファミコン版の発売から24年を経て“HDリマスター版”となった本作について、ここではオリジナル版を24年間親しんだ熱烈ファンが深掘りレビュー! 前回の記事ではゲームの基本的な楽しみかたを中心にお伝えしてきましたが、今回はさらにやり込みを進めた段階でのインプレッションをHDリマスター版ならではの新要素に注目しながらお届けしていきます。



文 / 柳 雄大

スーファミ最高峰グラフィックを現代のハード向けに!
PlayStation(R)4、Nintendo Switch(TM)、Xbox OneWindows 10、Steam(R)、PlayStation(R)Vita、さらにiOS/Androidにも対応という超マルチプラットフォームで発売された『ロマサガ3HDリマスター版。本作はこれまで携帯機への移植・リメイクがされていなかったことから、まずは待望だったPlayStation(R)Vita版をダウンロードすることに。さらにPlayStation(R)Vita版とPlayStation(R)4版でセーブデータを共有できるクロスセーブを試したかったこともあり、今回はこの2機種版をプレイしています。

本作におけるHDリマスターの考えかたは、“キャラクター・モンスターのドット絵はオリジナル版をそのまま活かしつつ、背景を高解像度グラフィック(かつ16:9の画面比率)で新規に描き起こす”という前作『ロマンシング サガ2HDリマスター版のものを踏襲。まず、この方針は大正解だと思います。背景がかなり精細になるぶん、そこをスーパーファミコン時代のドット絵が動き回ったら浮いてしまうのでは? と一見心配になりそうですが、長年見慣れたキャラクターのドット絵が変わらずに使われていることこそが重要であり、むしろ違和感はありません。特にPlayStation(R)4版でテレビの大画面に映したときに、生まれ変わった背景グラフィックをあらためて実感。民家のなかにある小物のひとつひとつに至るまでの新たな描き込みはとても見ごたえがあります。


1周目クリアから始まるやり込み
より美しいグラフィックで楽しませてくれる『ロマサガ3HDリマスター版を、“まずは1周”ということでラストまで攻略。「ロマサガ」シリーズといえばクリア難易度の高さで有名ですが、本作も例外ではなかったことをあらためて実感しました。
8人から選べる主人公、そしてゲームの進行や仲間キャラクターの選択がプレイヤーに委ねられるフリーシナリオシステムを採用した『ロマサガ3』。そのシステム上、脇道のイベントを省略して最速でラストに向かう方法もあるにはありますが、キャラの育成や強力なアイテムなど準備がそれなりに要ることを考えると、サブイベントの多くはクリアしておきたい。そうこうしていたら、自分なりに効率よく攻略したつもりでしたが、プレイ時間はラストダンジョン到着時点でおよそ30時間を費やしていました。スーパーファミコン時代の作品として見ても、なかなかのボリュームだと思います。

そして、道中はある程度ゴリ押しでも進めることができたぶん、パーティーをしっかり育てておかないと勝てないラスボスの強さが引き立ちました。その強さもしかりですが……演出、音楽、すべてが相まって“RPG史に残るカッコよさ”のラストバトルであったことも再確認。ここで詳細を書くことは控えますが、未体験の人にもぜひ一度、あのカッコよさをご自身で見届けていただきたいと思います。
なお、今回プレイしたPlayStation(R)Vita/PlayStation(R)4版にはトロフィーが実装されており、トロフィー一覧を見るのも楽しみになりました。8人の主人公のうち1人のシナリオを選んでプレイする本作では、各主人公のクリア実績がトロフィーになっていますが、プレイヤーにどの主人公が選ばれているのかがここでわかるのが興味深いところです。

オリジナルの『ロマサガ3』は“全主人公でクリア”を始めとして、目に見える形で実績の残らない(残せない)やり込み要素が多い作品だったので、今回のトロフィー実装はうれしかったです。逆に“すべての技を覚えた”とか“レアドロップアイテムのコンプリート”とか、達成難度が高いと思われるトロフィーはありません。このあたりは「サガ」愛好者の間で賛否が分かれそうですが、がんばればトロフィー100%を目指せそう、と思える点で個人的にはアリだと思いました。
また、HDリマスター版ではクリア後のお楽しみも新たに用意。いわゆる“強くてニューゲーム”ができる“NEW GAME+”です。これはゲーム途中のセーブデータを引き継いで最初からプレイできる機能で、クリア間近のデータを引き継げるのはもちろんですが、クリアしていない途中のデータでも適用できるのが特徴。仮に引き返せないダンジョンで“詰み”になってしまった場合でも、そこまでのプレイを無駄にせず最初からやり直すことができます。

NEW GAME+”でゲームを開始すると、HP以外のキャラの成長を継承。WP(技ポイント)・JP(術ポイント)や武器のスキルレベルが上がった状態で、取得済みの技はすぐに覚え直すことができ、アイテムも(ゲーム進行のフラグに関わる一部のものを除き)倉庫に保管され取り出せるようになっています。このため、鍛え上げたセーブデータを使えばボスキャラが一撃で撃破できるようになっていたり、序盤には進めなかったルートを強引に進められたりといった楽しみかたが可能に。

技を“ひらめき”で覚えていく戦闘システムが大変魅力的な本作。“極意を取得”済みの技が多いと、新たな技をひらめく機会がほとんどなくなってしまうので、“NEW GAME+”2周目以降はその点でちょっと物足りない感じにはなってしまいます。ただ、普通にプレイしたときには味わえなかったサクサク感、転生チート勇者感(!?)もオツなもの。これで、1周目ではなかなか難しかったスピード攻略にも挑戦したくなりました。


24年越しに明かされる謎、幻のモンスターと“新・アスラ道場
HDリマスター版となった本作では、オリジナル版になかった要素として新ダンジョン“暗闇の迷宮”が追加されています。ここに新たなモンスターやアイテムがあることはもちろんですが、『ロマサガ3』が作中で語り切れていなかった一部キャラの設定を回想・バトルを交えた演出でフォローするという試みがなされました。
8人の主人公を含め、パーティーに参加できるキャラクターがとても多い『ロマサガ3』。しかし、その一人ひとりに奥深い設定が存在しながらも作中でそのすべてが語られるわけではなく、プレイヤーの想像に委ねられる部分も少なくありません。HDリマスター版の“暗闇の迷宮”ではキャラクターたちの過去の記憶をたどることで、重要ないくつかの設定について知ることができます。

ここで話はいったん脇道に逸れますが、『ロマサガ3』のオリジナル版には実装されなかったモンスターの存在が何体もウワサされてきました。これらのモンスターは24年まえ当時の攻略本などでデータが公開されていたほか、ゲームのエンドクレジットに姿を見せていたため、存在自体は有名であり「ずっと戦いたかった」と思っていたファンは少なくないはず……(筆者はそのひとりです)。そんな幻のモンスターたちが、HDリマスター版では“暗闇の迷宮”のボスキャラとして出現し、実際に戦えるようになりました。

キャラクターの回想と、それらを追うたびに発生する新たなボスバトルの連続。“ミニイベントの集合体”という見かたをすれば印象はあっさりめな“暗闇の迷宮”ですが、設定にのみ存在していた数々の要素が24年越しに日の目を見たのはやはり、「サガ」ファンとして見逃せないところです。ちなみにダンジョン最深部のボス戦はかなり歯ごたえがあり(つまり強い!)、特別かつ意外な演出も用意されているので攻略の際はぜひここまでたどり着きたいところです。

そのうえで“暗闇の迷宮”初見で気づきにくいポイントとして、このダンジョンひとつのなかに作中の(ボス以外の)あらゆるモンスターが出現するという点があります。迷宮内でエンカウントするモンスターの組み合わせはすべて固定であるらしく、エンカウントする場所によって狙いどおりのモンスターに会うことが可能。これを利用することで、本来はなかなか会えない全種族の最強モンスターとも手軽に戦えるようになりました。
代表例のひとつが、悪魔系モンスター最強種のアスラ。戦うとレア(強力)な技をひらめく機会が多いことから、ファンの間では“アスラ道場”と呼ばれていますが、“暗闇の迷宮”にもこのアスラと必ずエンカウントできる場所が! キャラクターを鍛えるにはもってこいの“新・アスラ道場”がここにオープンしたわけです。

これ以外にもごくまれに貴重なアイテムを落とすモンスターに何度も再挑戦できたり、“暗闇の迷宮”はオリジナル版では難度の高かったやり込みを実現するのにも最適なスポットになりました。


“行間を読ませるRPG”としての魅力
オリジナル版のストーリー、そして未登場モンスターたちを“暗闇の迷宮”で補完したことが大きなポイントとなった『ロマサガ3HDリマスター版。このことをきっかけに、あらためて一連のプレイで感じたのは……本作が、あまり多くを語らないながらも各所に設定を散りばめた“行間を読ませるRPG”であるということでした。
暑い場所、寒い場所、東洋やアフリカなどを連想させる多様な土地柄。地域ごとに経済があり貧富を感じさせたり、地域紛争があったり、それぞれの街にリアリティのある設定が存在しているのは本作の魅力のひとつです。ただし、実際にイベントシーンとして語られることはほんの一部。さらなる奥行きの部分は街の住人たちから聞くちょっとした会話、あるいはゲームの端々に散りばめられた設定から想像・考察することで行間を読むように楽しむものとなっています。

実はここまで触れてきませんでしたが、ミニゲームとして用意されている“トレード(物件の買収をゲーム化)”、“マスコンバット(軍隊をぶつけあう戦術シミュレーション)”は、そうした世界設定の補完にひと役買っている存在。ミニゲームという存在でありつつ、『ロマサガ3』の世界が“生きている”と感じさせてくれる重要な要素です。HDリマスター版でもこれらはバッチリ継承されました。
特に“トレード”は、大金を積んで物件を買収するやりとりをバトルゲーム化し、それをRPGのなかに取り入れたところ、さらに作品の世界設定と絶妙に融合しているところがものすごい。作中のほとんどの街の物件を買収対象としていることからボリュームもあり、明らかに作品内のミニゲームの範疇を超えていて……この仕組みを作ってしまったこと自体「天才では?」としか表現のしようがないぐらいです。

こういったミニゲームも含め、オリジナルであるスーパーファミコン版の楽しさを損なうことなく、マルチプラットフォーム対応によりお手軽かつどんなときでもやり込みが可能に。メニュー画面や全体マップ(ワールドマップ間の移動)のインターフェイスを始め、HDリマスター版で変更された細かい部分を見て「オリジナル版の良さもいまだ捨てがたい」と思う場面はありつつも……ゲームの快感を担う肝心な部分はしっかりと継承されていると断言します。技の“ひらめき”が快感になるバトルと味わい深い世界設定を内包した’90年代クラシックRPGの名作として、これまで『ロマサガ3』を未体験という人にもぜひプレイしていただきたいと思います!

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ILLUSTRATION: TOMOMI KOBAYASHI

スーファミ版譲りの快感とクセの強さ。あのアスラ道場も……『ロマサガ3』沼に再びハマるは、【es】エンタメステーションへ。
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掲載:M-ON! Press