クローゼットや机の引き出しと同様、なんだか覗いてみたくなる他人の本棚。各界の大の本好きに、普段は見せない「奥の院」を見せていただきます。(取材・文/大平一枝  撮影/本城直季

美容家・佐伯チズさんの本棚を拝見!「開いたページに書かれていた仕事が来るの」

「本は、私を育ててくれた宝物です」

幼い頃からの癖で、何かあるとすぐ辞書を開いて調べる。百科事典、植物図鑑も好きで、弟宅に「床が抜けそうな量」を預けている

「大学を出ていないので、社会大学であり、講師であり、自分を育ててくれた大切なもの。死ぬまでこの学校に通い続けます」

75歳とは思えぬ透明感のある白い肌が印象的な美容家、佐伯チズさんは、微笑みながら語る。

廊下の壁面に特注で造作した扉付き書棚には、美容関係の書籍以外にオードリー・ヘプバーンや中原淳一、ビジネス書や自己啓発書、偉人伝、禅や宗教、精神世界など多様なジャンルの本がぎっしり並ぶ。その多くに付箋が貼られ、傍線が引かれている。

熱烈なマイケル・ジャクソン福山雅治ファン。限定本もくまなく購入。保存用と観賞用と2冊買うことも。右はCDとDVD

小学生の頃、画家・中原淳一が創刊した少女雑誌『それいゆ』を見て、女性の美しさに興味を持つようになった。中原の親族が営む直営店にもよく行く

「書店での直感で買います。自分の軸があれば、ピンときたものすべてに意味があり、必要なことが書かれている。だから洋服のように、またあとで買おう、がないの」。

いかにも、本好きならではの買い方だ。いただきものの愛読書もある。20歳のとき、今は亡き夫から贈られた『星の王子さま』だ。

「夫がプラネタリウムをつくる仕事をしていたので、星の物語は好き。『星の王子さま』は、付き合っている頃に“読んだほうがいいよ”と彼からすすめられました」と少女のようにうれしそうに語る。今も迷ったときは蔵書と、心中の夫に頼っているのかもしれない。

立身伝や成功者の自叙伝を読むのが好き。ジャンルや時代が違っても何かしらヒントがある。本書は繰り返し読む一冊

ほぼ日』で取材を受けて以来、糸井重里氏の本はよく読んでいる。「糸井さんのあの超人的なひらめき、発想がどこからくるか知りたいの」

「人を動かすには自分を変えよということを学んだ」(佐伯さん)。右は3 年前に出た漫画版。漫画だと分かりやすく、理解が深まる

好きなところから読む読書の不思議な効果

自宅リビング。白浜三千代さんから70 歳のバースデーに贈られたイラストがアクセントに

ティーカップは、有田焼の舘林喜助工房のもので統一

廊下の壁面を利用して特注した本棚。普段は扉を閉めている

佐伯さんは満洲引き揚げを経て、滋賀の祖父母宅で育った。貧しくて本がなく、祖父から大人向けの『親鸞』をすすめられた。

「親鸞さんは難しいと言うと、“ひらがなだけでもいいんだよ。そのうち漢字も読めるようになったら、きっと意味が分かるよ”と。ああ、それでもいいんだなと目から鱗でした。分からないことがあったらいつもおじいちゃんに聞いていたので、その延長で、辞書を引く癖もつきました」

白洲正子は、佐伯さんの実家がある滋賀界隈の紀行文や、工芸の解説書が多く、興味がある。「暮らしや生き方も芯があり素敵です」

20 歳のとき美容学校時代に購入。牛山喜久子、竹腰美代子、東畑朝子による共著。メイク・体・食、3 つの視点から美容を解説し、今も紐解く

放送大学のテキストを数年前から古書店などで買い集めている。「香りの歴史をたどると仏教に行きつく」ことから宗教関係の書籍多数

後進育成からテレビ・ラジオの出演まで、現在も多忙な佐伯さん。疲れたり忙しいときは、本を最初から読まず、パッと開いたページだけ読むという。

「おかしなことに、その後、きまって、開いたページに書かれていた仕事が来るの」

それは、分かるところだけ読めばいいと、気軽な読書への糸口を教えてくれた祖父の導きではあるまいか──?

著書や資料はリビングにある平置きの棚へ

来客から贈られたつるし雛。「縁起物でかわいいので」飾っている。

佐伯さんへのQ&A

Q 本はどこで買いますか?
A 本は書店で買うものだと思っています。ネットは苦手。まずベストセラーと新刊売り場に行って、今何が読まれているか確認してから、偉人の自叙伝やノンフィクションの棚に行きます。

Q 新刊が出ると必ず買う作家はいますか?
A 五木寛之さんです。

Q どんなきっかけで本を買いますか?
A 電車の中吊りを見て買うことが多いです。あとは店での直感。よく行くのは浜松町の文教堂文房具売場を見るついでに立ち寄り、一度に2〜3冊買います。

Q 読むタイミングは?
A 隙間時間があればいつでも。複数同時進行です。当てずっぽうにパッと開いたページだけを読んで寝ることも。

佐伯チズさん
美容家。1943 年、滋賀県生まれ。外資系化粧品会社を定年退職後、エステティックサロンサロン ドール マ・ボーテ」を開業。独自の美容理論をもとに、佐伯式美肌塾チャモロジースクールを設立。後進育成に力を注ぐ。テレビ・ラジオ、著作、講演等多方面で活躍。成安造形大学特別顧問

※情報は「リライフプラスvol.31」取材時のものです

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