アニメや漫画の原作と、主に舞台をつなげる「2.5次元」という概念が世の中に登場して以来、両次元のファンがシームレスに楽しめる世界になっていると感じる。

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そんな中、「2次元3次元を行き来する、前代未聞のボーイグループ」というコンセプトのもとデビューしたのが学芸大青春(がくげいだいじゅねす)だ。

一見すると、2次元男性アイドルか、と思うかもしれない。しかし、彼らは“実在する人物”を2次元化して打ち出すという、通常とは全く逆のプロセスを辿っている“斬新な”グループである

オーディション後のいきなりの共同生活、レッスン漬けの毎日、正体を明かさず覆面ライブで修行を積むといった様子が、‎「学芸大青春 バクステアプリ」でストーリー仕立てで描かれている。そして、それもすべて“実話”なのである。



文:西森路代 編集:新見直

実在するアイドルなのに2次元からスタート

9月に始動した学芸大青春のメンバーは、厳正なオーディションの結果選ばれた相沢勇仁(あいざわゆうと)・星野陽介(ほしのようすけ)・南優輝みなみゆうき)・内田将綺(うちだまさき)・仲川蓮(なかがわれん)の5人。

2019年秋には、1stシングルJUNES』でデビューした。メロウメロディーラップも入った洗練された一曲だ。その後もコンスタントシングルを発表。




アニメ・ゲーム中心にシーンを支える作曲家のR・O・N、IZ*ONEや48グループといったアイドル楽曲を手がけてきた早川博隆ヒップホップユニットROMANCREWALI-KICKと、作家陣がバラエティーに富んでいるため、ダンスミュージックポップス、ヒップホップと、楽曲の幅広さがうかがえる。

このMVを見ればわかるが、メンバー2次元キャラクターであり、公式ホームページプロフィール写真も当然2次元なのである。学芸大青春を企画した杉沢プロデューサーは当初、「2次元3次元を行き来する」というコンセプトを社内で打ち出したところ、「顔出ししないのはデメリットでしかない」と大反対されたという。

メンバーの5人は非常に魅力的なルックスをしていて、メンバー自身も人前でパフォーマンスをしたいと当初は戸惑っていました」



それなのに、学芸大青春のメンバーは、生身での姿がいまだ明かされず、2次元キャラクターとしてお披露目された。なぜ、あえて倒錯した手法を採用したのか。

「これまで音楽業界にいた経験から、歌やダンス・人柄が注目されず、容姿ばかりがもてはやされて苦悩するアーティストをたくさん見てきました。だから、彼らの内面から放たれる誰にも真似できない輝きを最大限に届けたいと切望し、まずは2次元デビューすることを選びました」

そんな中、杉沢が出会ったのが、イケメン役者育成ゲームA3!』など、数多くの人気ゲームキャラクターデザインイラストを手がける冨士原良であった。

「冨士原先生は、学芸大青春のコンセプトを深く理解してくださり、彼らのルックスと内面の素晴らしい部分をミックスして凝縮したキャラクターデザインを完成してくださいました」



その出会いが、一見無謀に思えたプロジェクトを実現させる糸口となった。

2次元から3次元3次元から2次元という“行き来”

現在2.5次元コンテンツにおける代表的な事例として、2次元から3次元、あるいは3次元から2次元という、大きな2つの流れがあることは踏まえておきたい。

まず、2.5次元として広く知られるようになったミュージカルテニスの王子様』は、『週刊少年ジャンプ』で連載された許斐剛による少年漫画が原作の舞台だ。俳優は、原作のキャラクターにあわせてオーディションにより抜擢され、その世界観を3次元で再現したものである。2003年に初演が上演され、現在16年目を迎える。




オーディションの際には、容姿が似ていることも大事だが、「役者がそのキャラクターと同じ"種"を持っているか」が重視されるという。また、俳優たちも、原作の細かい部分までを読み込み、時には手に入りにくい付録のエピソードからも、そのキャラクターを知ることもあると聞いたことがある。

そんな風にして、自分の持っている本来の性質を、いかに2次元キャラクターに近づけるかも、2.5次元を演じる上では重要視されてきた。

そして、原作漫画のキャラクターが魅力的だからこそ、比較的経験の浅い、デビューしたばかりの俳優たちの魅力もさらに広げることができ、キャラクターと共に人気者になっていくという性質も『テニミュ』にはあった。

一方、ミュージカルと舞台が共に展開されている『刀剣乱舞』は、ゲームが原作で、漫画原作よりはキャラクターや物語の決まった部分が少ない。そのため、3次元ミュージカルや舞台に出演する俳優たちは、原作を読み込んでそこに近づくというよりは、原作とともに自らもキャラクターをつくっていくという自由度の高い部分もある作品である。




これらのプロジェクトは、2次元から3次元へという順番で展開されてきたが、3次元から2次元へというベクトルプロジェクトとしては、「HiGH&LOWシリーズがあるのではないだろうか。

このシリーズは、EXILE三代目J SOUL BROTHERSを擁するLDHに所属するアーティストたちや、窪田正孝、林遣都、山田裕貴といった注目の若手俳優が出演していて、2015年オリジナルテレビドラマからスタートした。

そのキャラクターは、主に演じる本人たちと面談し、その本人の魅力をベースに構築されている。また、撮影時に俳優本人が考えたアドリブセリフが採用されることもあり、より本人の魅力がキャラクターに活かされた作品として知られている。




HiGH&LOWシリーズは、3次元で映像化された後に、『HiGH&LOW THE STORY OF S.W.O.R.D.』(Team HI-AX/細川雅巳)と、『HiGH&LOW g-sword』(CLAMP/HI-AX)という二つのコミカライズが展開されている。順番としては、3次元から2次元へと、通常の2.5次元とは逆になる。

このように、2次元3次元を行き来することで、ファンはさまざまな次元で、その世界観を楽しむことができるというのが、ここ十数年で当たり前のようになってきた。

では、学芸大青春はというと、これらとはまた違った試みとして、2次元3次元を行き来していると言っていいだろう。

学芸大青春は「原作がない。すべてが現実」

学芸大青春は、2次元3次元どちらにおいても同一人物として実在しているという。いわく「『原作』や『オリジナル』といった概念はなく、すべてが『現実』」だと。

彼らの日常生活は、2次元の物語としてアプリの中でも展開されている。アプリで観られる物語のストーリーは、彼らへのインタビューを元に制作されているという。

アプリストーリーエピソードはほぼ実話です。陽介は歌・ダンスのレッスンを、スカウト後に初めて経験しています。大切なオーディションで忘れ物をしたのも事実です。勇仁と優輝は本当にちょっと不穏な雰囲気の中、共同生活をスタートさせています。勇仁がお米の炊き方を知らず何度も炊飯に失敗していることも、覆面ライブが決定し将綺がはしゃぎまわっていたことも、杉沢が突然デビュー曲を持ってきたのも、全て事実です」



その脚本を担当するのは、CYBIRDの恋愛ゲームイケメンシリーズ」などを手掛けてきた三本恭子だ。「登場人物が今この瞬間を生きているという点が、これまでの2次元3次元を行き来してきたコンテンツとの一番大きな違いです」と語る。

インタビューでは「このシーンは絶対書きたい!」と思わせてくれるエピソードが幾度も飛び出したという。しかし、その全てをシナリオに入れることはできないため、三本は断腸の思いで取捨選択している。

「ただ、読んでくださる方々に登場人物の感情が伝わるように書くという点は、フィクションと変わりません。メンバーが実際に味わった感情や空気感をインタビューで吸い上げ、アプリシナリオを通してファンの皆様に共有したいと考えています」

彼らの選択とファンとの関わり方がこの先を決める

今後の学芸大青春だが、3Dドラマ「漂流兄弟」がYouTubeTwitterで配信されることも決定している。

これは、本人たちの声と演技がそのまま3D映像として撮影・収録された、アニメでも実写でもない、新しい映像作品だ。ここでは、本人が本人として登場するのではなく、例えばメンバーの将綺は、将綺ではなくドラマの役柄である「樹根洲マサ」として出演する。

「5人が俳優として役柄を演じています。本人に共通する要素を持つ役柄もありますが、まったくかけ離れた役柄もあります。特に蓮は『兄弟の末っ子で腹話術師』という斬新な役で、キャラクターをつかむためパペットを手にはめて生活してみたりと、四苦八苦していました」



少しややこしいが、つまり本人ベース2次元化したキャラクターが、2次元のままで3Dドラマの中で別の役を演じる。複雑な構造であるが、今の2次元3次元を行き来する様子を楽しむファンであれば、すぐにその構造に入り込めるし、面白がれるのではないか。




気になるのが、今後の3次元での展開だ。5人はすでに覆面ライブを行っているが、ベールに包まれた3次元の彼らが、今後は、どのようにファンの前にお目見えする予定があるのだろうか。

「覆面ライブは、当初観客の方々の反応はほぼないに等しかったです。でも回数を重ねるうちに、少しずつフロアの前方に集まってくださる方が増えました。初めて曲中に手拍子をもらえたときは、退場後メンバーは袖で抱き合って喜んでいました。ようやくライブらしいライブができるようになってきた段階です」

彼らは現時点では、「2次元3次元を行き来する」というコンセプトはまだ達成していない。

遠くない将来、彼らの持つ唯一無二の内面的魅力が、2次元の姿を通して存分にお伝えできたと確信したそのときは、胸を張って3次元に飛び出していってもらう予定です

2.5次元舞台や「HiGH&LOWシリーズでは、そのキャラクターを演じる生身の人間の魅力を知ることで、彼らの役に対するアプローチに興味を持ったり、実際の性質と役柄がどんなふうに関係しているのかなどを読み解き、ファンが多層的に楽しむことができる構造になっている。

学芸大青春も、3次元の「本人」の姿が見えるようになったとき、その魅力は今以上のものになるのではないか。

「さきほど言ったように、学芸大青春はすべてが『現実』です。そのため5人のストーリーは、彼らの選択とファンの皆様との関わり方次第でいかようにも変わっていきます2次元3次元の両方を軸に、現実世界でファンと一緒に未来を形づくっていく、それが学芸大青春プロジェクトの醍醐味だと考えています」


学芸大青春