(北村 淳:軍事社会学者)

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 アメリカ連邦議会下院がトランプ大統領の弾劾訴追を決議した2日後の12月20日トランプ大統領2020年度国防権限法に署名した。これによって、「アメリカ宇宙軍」が正式に誕生したことになる。

 宇宙軍といっても、SF映画のように宇宙空間での戦闘を任務とする軍隊ではない。アメリカの国益にとって必要不可欠宇宙空間での諸活動、とりわけ各種衛星の防衛を主たる任務とする軍隊である。

空軍省の管轄下にアメリカ宇宙軍を創設

 創設されたアメリカ宇宙軍(U.S. Space Force)は、その母体となるアメリカ空軍と共に行政的には空軍省の管轄下に置かれることになる。これは、海軍省の管轄下にアメリカ海軍アメリカ海兵隊が置かれているのと同じだ。

 シビリアン(文民)のポストである空軍長官の指揮下に、大将のランクを有する宇宙軍作戦部長(Chief of Space Operations)がアメリカ宇宙軍のトップとなる。トランプ大統領は、初代宇宙軍作戦部長に「アメリカ宇宙集団」(U.S. Space Command)司令官のジョン・W・“ジェイ”・レイモンド空軍大将を指名した。

 ちなみに、アメリカ宇宙集団というのは、空軍や海軍といったような独立軍種ではない。軍事作戦を効率的に遂行するために、地理的にあるいは機能的に独立軍種を横断的に編成した統合戦闘集団(Unified Combatant Command)と呼ばれる集団(Command)の1つである(「Unified Combatant Command」を「統合軍」と翻訳するのは誤りである)。

 アメリカ宇宙軍やアメリカ宇宙集団と混同されがちな組織に「空軍宇宙集団」(Air Force Space Command)がある。これはアメリカ空軍内の組織であり、これまで空軍内における宇宙に関係する任務を担当してきた。したがって、空軍宇宙集団は、このほど誕生したアメリカ宇宙軍に統合されて発展的解消という形になるであろう。

72年ぶりに誕生したアメリカの独立軍種

 アメリカ宇宙軍の発足で、アメリカ軍は6種の独立軍種で構成されることになった。すなわち「陸軍」「海軍」「海兵隊」「沿岸警備隊」「空軍」、そして「宇宙軍」だ。新しい独立軍種が誕生したのは、1947年アメリカ空軍が誕生して以来72年ぶりである。

 そもそもアメリカ軍United States Armed Forces)の前身組織が誕生したのは、アメリカ合衆国イギリスから独立する以前の1775年である。1775年の6月14日には陸軍(当時の名称は「大陸陸軍」)が、10月13日には海軍(同じく「大陸海軍」)が、そして11月13日には海兵隊(同じく「大陸海兵隊」)がそれぞれ誕生した。

 アメリカ独立戦争後、それらの常備軍の必要性は一時的に薄らいだが、1784年6月3日に、アメリカ連邦議会は現在に続くアメリカ陸軍を発足させた。引き続いて1794年3月27日には、アメリカ海軍が、1798年7月11日にはアメリカ海兵隊がそれぞれ発足した(ただし、アメリカ陸軍も、アメリカ海軍も、アメリカ海兵隊も、設立年月日は1775年の大陸陸軍、大陸海軍、そして大陸海兵隊誕生日時としている)。

 第1次世界大戦中の1915年1月28日財務省の税関監視艇局(U.S. Revenue Cutter Service)と人命救助局(U.S. Life-Saving Service)が統合されてアメリカ沿岸警備隊(U.S. Coast Guard)が発足した。1790年8月4日に誕生した税関監視艇局は、発足当時より海軍と並ぶ軍隊組織として活動しており、沿岸警備隊も第4の軍種として発足した。1967年には財務省から新設された運輸省の管轄下に移行し、2003年には2001年9月11日同時多発テロに対応して創設された国土安全保障省の管轄下に移行し、現在に至っている。

長い年月がかかった空軍独立

 アメリカ空軍は1947年アメリカ陸軍から独立して独立軍種として誕生したが、独立を勝ち取るまでには四半世紀もの長い時間がかかった。

 第1次世界大戦において登場した軍用飛行機の将来性を確信していたアメリカ陸軍航空隊副司令官、ウィリアムランドラム・“ビリー”・ミッチェッル准将は、空軍独立論を展開した。しかしながらビリー・ミッチェルの空軍独立論は、自らの組織から空軍部門が独立してしまうことにより既得権益が減退すると考える陸軍首脳から、組織を撹乱する議論とみなされた。

 またミッチェル陸軍准将は「海洋での戦闘においても、巨砲で武装した戦艦などは時代遅れになり、航空戦力の時代がやって来る」といった戦艦不要論的な航空戦力万能論も展開した。そのため、戦艦中心主義(大艦巨砲主義)に凝り固まっていた海軍首脳にとって、ミッチェル准将は“海軍の敵”そのものであった。

 結局、大佐に降格させられてしまったビリー・ミッチェルは、軍上層部を批判したとの理由で軍法会議で有罪となり、軍から追放されてしまった。

 ビリー・ミッチェルの主張の中には、航空戦力を強化した日本軍が真珠湾を空襲するかもしれないといったものも含まれており、米軍首脳からは戯言と無視されていた。ところが、ビリー・ミッチェルの過激な航空戦力万能論を真剣に受け止めていた者たちがいた。アメリカに駐在していた日本海軍武官たちであり、その中には山本五十六も含まれていた。

 やがて、ビリー・ミッチェルが予見していたとおり、日本海軍航空部隊の空襲により真珠湾基地は壊滅し、引き続き太平洋での日米海軍の決戦を通して戦艦中心主義は空母中心主義へと大転換した。また、ヨーロッパ戦線でもアメリカ陸軍航空軍(1941年にアメリカ陸軍航空隊からアメリカ陸軍航空軍へと格上げになった)がめざましい戦果を挙げた。

 これらの現実を直視したアメリカ政府は、1946年、すでに1936年に死去していたビリー・ミッチェルの名誉を回復して陸軍少将に任命すると共に、アメリカ連邦議会も議会黄金勲章(連邦議会上下両院の議決により授与されるアメリカ合衆国最高の勲章)を授与した。そして1947年9月18日に、アメリカ空軍が独立軍種としてスタートしたのである。

わずか2年で独立したアメリカ宇宙軍

 アメリカ空軍が陸軍から独立するには、軍内外からの強い抵抗のために、25年もの年月と第2次世界大戦での死闘が必要であった。

 ところが、独立軍種としてのアメリカ宇宙軍創設の動きはきわめて迅速だった。トランプ大統領が「空軍から独立した宇宙軍を誕生させねばならない」と公式に表明したのは2018年3月である。それからわずか1年9カ月でアメリカ宇宙軍は正式に誕生したのだ。

 安全保障分野における宇宙空間での各種能力への依存度は急激に増大している。たとえば、GPSは軍事と民間双方の航空機や船舶の運行だけでなく、一般の人々の日常生活においても必要不可欠だ。「中国とロシアは、そのような宇宙空間に存在する各種システムを破壊し、アメリカアメリカの同盟諸国の安全保障や経済活動はじめ人々の日常生活を危機に陥れることができる軍事システムを手にし始めた」とペンタゴンは繰り返し警告している。

 アメリカはそのような新たな脅威と対決し「宇宙空間の自由利用」を断固として確保しなければならない。そのために、トランプ政権は第6の独立軍種としての宇宙軍の創設を打ち出したのである。

歴史に学んだアメリカ軍

 実は、いくら大統領が直接「宇宙軍新設」を口にしたからといっても、米軍当局とりわけ各軍の指導部はそれほど乗り気ではなかった。そのような慎重意見が多かったにもかかわらず、極めて短時日で宇宙軍が誕生したのは、強引なトランプ大統領の存在に加え、「過去の誤りを繰り返してはならない」という軍関係者たちの意識があったことも見逃せない。

 1920年代から真珠湾攻撃に至るまでの期間、アメリカ軍の根底には「日本軍などに何ができる」という感情が存在していた。そのため、ビリー・ミッチェルやジェームズリチャードソン(本コラム「ルーズベルトが無視した真珠湾攻撃の正確な予測」を参照)など先見の明のある有能な戦略家たちの意見を異論として排斥してしまった。そうした先人たちの誤りを繰り返してはならないという、「歴史に学ぶ」姿勢が、アメリカ軍関係者には存在していたと考えることができる。

 ペンタゴン(国防総省)は中国軍の宇宙軍戦力に警鐘を鳴らし、対中警戒派の海軍戦略家たちは中国軍の海洋戦力(海中戦力、海上戦力、航空戦力、長射程ミサイル戦力、宇宙戦力そしてサイバー戦力)などに危機感を抱いている。だが、アメリカ軍には、それらは「張り子の虎にすぎず、アメリカにとって深刻な脅威ではない」として過小評価する論調も存在する。というよりも、「中国軍は米軍や同盟軍にとって極めて深刻な脅威である」と公に主張する先見の明のある冷静な軍関係者のほうが少ないくらいだ。

 しかし、最後にアメリカ軍を動かしたのは、「日本軍の戦闘能力を過小評価した過去の失敗を繰り返さないためには、中国軍の戦闘能力を過小評価してはならない」という意見だった。こうして歴史の現実を直視した姿勢が、宇宙軍創設に乗り気でなかった多くの軍首脳たちの慎重論に打ち勝って、2019年12月20日アメリカ宇宙軍は誕生したのである。

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左からジョン・W・レイモンド空軍大将、トランプ大統領、ペンス副大統領。署名しているのはマーク・エスパー国防長官(写真:ホワイトハウス)