「中学生になったら、絶対にギャルになるんだ」
当時小学校6年生だった私は、朝から晩まで勉強机に向かいながら、そう誓っていました。あの伝説のギャル漫画『GALS!』の寿蘭に、出会ってしまったから──。
■超明るく前向き、正義感の強い寿蘭ちゃん
平成元年生まれの私が小学生だった頃に、「りぼん」で連載されていたギャル漫画『GALS!』。私はこの漫画が大好きでした。
金髪に赤いメッシュ。ミニスカートに厚底ブーツ。アレンジしまくった制服を着こなし「前も後ろもどーでもいーから『今』を大事に生きようぜ!! この寿蘭みたいになっ!!」と、超明るく前向きに渋谷の街を闊歩する主人公・寿蘭(ことぶきらん)。
決して、おチャラけた人間ではありません。正義感が強く、悪いことには手を出さない。ダチのピンチには、即座に駆けつける。
その姿が、カッコよくて眩しくて、仕方なかったのです。憧れ以外のなにものでもありませんでした。
■「こんなダサい制服着てられっか!」と一念発起
一方の私は、父は公務員、母は専業主婦のお堅い家庭で育ったこともあり、気づけば進学塾に通い、「中学受験」なるものをすることになっていました。
受験をするのですから、志望校を決めなければなりません。大事な3年間を過ごす場所です。
「どーんな制服、着よっかな〜〜〜」という単純な気持ちで、私は「私立女子校・制服図鑑」のようなものをパラパラとめくっていました。そして、思うのです。
「……可愛い制服、ひとつもなくない……?」と。
ひざ下丈のスカート! 丸襟の白シャツ!! ダサい靴下!! 黒髪のおさげ!!!!(おさげは関係ない)
「こんなダサい制服、着てられっか〜〜〜〜〜〜!!!!」
心の中で、いや、声に出して叫んだ私は、「制服なし・私服登校OK」という、私立では珍しい女子校を探し出し、志望校に決めたのです。
■ルーズソックスがほしくて、母親とバトった日
猛勉強の甲斐あり、なんとか志望校に合格。
合格が決まった翌日には、母を連れて渋谷109に行き、当時スポギャル系で流行っていたブランド「one way」でデニムのミニスカートとフーディを買いました。これを着て、大好きな志望校に通うんだ。そう胸をときめかせたのです。
地元の西友の靴下売り場では、ルーズソックスの購入を巡って、母と大喧嘩。絶対にほしい私(だってone wayのミニスカと合わせたいんだもん)と、「こんなものは必要ありません!」と言う母との攻防を制して、見事ゲットすることができました。
母は、ルーズソックスを洗濯するたびに「これ、一反木綿(『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる妖怪)みたいだし、乾きにくいわ〜」とブツブツ言っていましたが、今では「あれもいい思い出よね」と笑っています。
ほしいものは、「ほしい」と言う。大事なことは、自分で決める。自分の信念は、ぜったいに貫く。
思えばあの頃から、寿蘭ちゃんに「ギャルスピリット」のようなものを、教えてもらっていたのかもしれません。
■30歳になった今も、心には寿蘭がいる
令和元年。私は30歳になり、『GALS!』は電子コミック「マンガMee」で『GALS!!』として連載を再開しました。こんなに嬉しいことはありません。
寿蘭ちゃんは、あの頃の真っ直ぐな「寿蘭」のままです。私はあの頃のまま、真っ直ぐでいられているでしょうか。
「アラサー」と称され、結婚やらキャリアやらという言葉に翻弄され、自分を見失いそうなとき、私には寿蘭ちゃんの声が聞こえてくるような気がします。
「あたしはあたしの生きたい道を生きる」
「なにがイチバンてさ、今ココが自由で楽しくて平和なことじゃん?」
あの頃の寿蘭ちゃんに、小学生の私も、30歳の私も、間違いなく背中を押してもらっていると思うのです。
(文:太田 冴、イラスト:谷口菜津子)
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