戦車のたとえとして「鉄の棺桶」という表現がありますが、乗員にとっては被弾した戦車から、いかに迅速に脱出するかが生死の分かれ目になります。その時、文字通り乗員の脚を引っ張らないよう、戦車用ブーツには工夫が施されています。

戦車乗りは足元から一般隊員とは違う

陸上自衛隊員は、災害派遣や国際貢献など含めて、活動時は緑色主体の迷彩服を着て、足元は黒色の半長靴(コンバットブーツ)を履いているイメージが強いかもしれません。

しかし、同じように見える迷彩服と半長靴の組み合わせも、部隊によっては専用のものが支給されていることがあり、戦車乗員のものもよく見ると異なっています。

戦車乗員が履く半長靴は正式には「戦闘靴 装甲用」といい、通称「戦車靴」と呼ばれます。一般的な半長靴は靴ひもで締め上げていくタイプですが、戦車乗員のものは面ファスナー、いわゆるマジックテープ式である点が特徴です。なぜこのような作りにしたのでしょう。

それは、戦車乗員の半長靴は脱げやすくなければならないからです。理由は、万一戦車が被弾し出火した場合、乗員は一刻も早く脱出しなければなりません。この時、足元が車内装備品で挟まって抜けない場合などを想定して、あえて脱げやすい構造にしているのです。

この脱げやすい構造というのは、前タイプの戦車靴から引き継がれた特徴です。しかし前の戦車靴は、いわゆる長靴のような構造で、すねの部分にバックルで止めるタイプの革ベルトが一本ついているだけでした。

そのため、歩きにくく普段使いしにくいものだったことから、2013年頃より現在の面ファスナー仕様の戦車靴が登場し、戦車部隊の隊員に支給されるようになりました。

九州の精鋭部隊にしか支給されないレアブーツ

「戦車靴」は全国の戦車部隊を中心に支給されていますが、九州に駐屯するごく一部の部隊にしかないものがあります。それが「戦闘靴 水陸装甲用」です。

これは陸上自衛隊で唯一、水陸両用車(AAV7)を実運用する部隊である水陸機動団戦闘上陸大隊にのみ支給されているものです。

基本的な作りは、前述の「戦闘靴 装甲用」と同じく2枚の面ファスナーで止めるかたちですが、色が黒ではなくカーキ(枯草色)である点が特徴です。さらに万一、水陸両用車が海没したり、海上で行動不能になって乗員が海を泳ぐことになっても、靴が浸水で重くならないよう、水抜けの良いポリエステル製で、両足の内側、革部分の最下部には排水用の穴が左右2個ずつ空けられています。

また、実はブーツだけでなく迷彩服も、戦車乗員のものは一般隊員のものとは異なっています。迷彩パターンは一般的な迷彩服と一緒であるため、一見しただけはわかりにくいのですが、戦車乗員のものは「戦闘服 装甲用」と呼ばれ、生地は難燃性であり、作りも大きく3箇所ほど異なっています。

ひとつ目は背中の首元(襟下)の取っ手です。これは負傷や気絶などで戦車から自力で出られなくなった場合に、同僚隊員に引きずり出してもらうためのものです。その一方で、一般隊員用迷彩服の背中にある、木枝や草を差すための偽装用ループはありません。

ふたつ目は胸元から2番目のボタンが面ファスナーになっています。これは背中の取っ手で引っ張り上げた場合、ボタンだと首元が絞まってしまいますが、面ファスナーなら自重で剥がれます。また万一被弾などで上衣に火が付いた場合、面ファスナーさえ外せば簡単に脱げるからという理由もあります。

そして3つ目の違いは、上衣内側の腰部あたりにひもが通っている点です。これにより、狭い車内でもひもを引っ張れば戦闘服を絞ることができるようになっています。

このように戦車乗員向けの半長靴や迷彩服は、その任務に最適になるよう、細かく構造が変えられているのです。

専用の「戦闘服 装甲用」と「戦闘靴 装甲用」を着用した10式戦車の乗員(2014年7月、柘植優介撮影)。