2年ぶりのベスト4進出、苦しんだ“谷間の世代”を支えた分析アプリ

 第98回全国高校サッカー選手権は5日に準々決勝が行われ、ベスト4が出揃った。連覇を狙う青森山田(青森)のほか、Jリーグ内定者を擁する帝京長岡(新潟)と静岡学園(静岡)は大会前から有力校と見られていたなか、少々趣が異なるのは矢板中央(栃木)だ。

 矢板中央は今大会で3年連続のベスト8進出を果たした。5日の四日市中央工(三重)戦でも4バックをベースにした堅守速攻を貫き、2-0で勝利。第96回大会に次ぐ2年ぶりの準決勝進出を手繰り寄せるなど、選手権という大舞台できっちりと結果を残せる高校の一つだ。

 ただし高橋監督が「谷間の世代」と評するなど、決して圧倒的な力を誇ったわけではない。昨年度優勝したプリンスリーグ関東では最下位に終わり、6月の横浜F・マリノスユース戦で0-7と悔しい思いをした。それでも選手権予選を勝ち抜くとともに、11月30日プリンスリーグでの横浜FMとの再戦では4-2と勝利。ここで自信をつかんだとの言葉が聞かれた。

 選手の声を聞いていると、四日市中央工への対策も共通認識として持っていたそうだ。その「秘密兵器」になっていたのが、映像での分析アプリだったのだという。キャプテンのDF長江皓亮やDF坂本龍汰は異口同音に、「スマホで見ることができるんです」と明かしてくれた。

 この分析アプリは試合映像を撮影し、まずコーチ陣が共有。その後、各選手が自身のスマートフォンで映像を確認したり、相手チームのスタッツを数値化したものを確認できるとのこと。時には、試合前のミーティングでチーム内の約束事として頭に入れるのだという。

 実際、四日市中央工戦はどんな風に臨もうと考え、実際にプランとして落とし込んだのか。坂本はこんな風に自らのタスクとともに、同サイドのMF柿崎貴翔との連係についてこう説明してくれた。

「相手の10番(四日市中央工キャプテンのMF森夢真)は、カットインが持ち味でした。なので、まずはサイドハーフがファーストディフェンスに入って、中をやられないようにして誘導しつつ、自分がカバーしてアタックする形で戦いました。10番を止められたのは自分の力だけじゃなく、柿崎のおかげなので本当に助かりました」

謙遜する高橋監督 「ある意味、高校サッカーらしい選手たちだと思います」

 選手同士で対戦相手のストロングポイントを確認し、そこを抑える。高橋監督は「周りから見ると(サッカーが)シンプルすぎてつまらないかもしれませんが……」と謙遜していたが、むしろその努力のプロセスを誇ってもいいのでは、とも思うほどだ。

 年末年始のスポーツでテクノロジーの進化として話題になったのは、箱根駅伝の“厚底シューズ”旋風だ。もちろん矢板中央の分析アプリはプレー中に使用するギアというわけではないが、年代別代表の経験が特にあるわけではない選手たちが自発的に分析し、勝利への活路を見出そうとしているのは興味深い。

 高橋監督は「普通の高校生でも頑張ればここ(準決勝)に来れるんだよ、というのを示してくれましたね。ある意味、高校サッカーらしい選手たちだと思います」と嬉しそうに語っていた。

 自分たちなりの工夫がハマれば、選手権でも輝ける――。矢板中央の躍進は、図抜けた個の力を持たない数多くの高校にとっても、一つのヒントになるかもしれない。(Football ZONE web編集部)

2年ぶりにベスト4に進出した矢板中央高校【写真:Football ZONE web】