日韓の事情に精通する代理人のキム・ドンヒョン氏、2国間での移籍の現状に言及

 現在のJリーグでは多くの韓国人選手がプレーし、一方のKリーグでも同様とまではいかずとも、慶南FCのMF邦本宜裕など活躍する日本人選手が増えつつある。ただ、日本と韓国のサッカー界を股にかけて活躍するのは選手だけではない。

 エージェント会社「スクエアスポーツ・コリア」で代理人を務めるキム・ドンヒョン氏も、その1人だ。過去には韓国紙「スポーツソウル」オンライン版やスポーツ・芸能総合サイト「ジョイニュース24」、総合ニュースサイト「NEWSIS」などのメディアで活躍してきたキム・ドンヒョン氏だが、2019年から代理人に転身。日本と縁が深く日本語も堪能な同氏に、両国間での選手の行き来の現状、そして韓国内での日本人選手への見方などについて聞いた。

 日韓のサッカーを語る際、Jリーグプレーする韓国人選手の多さは避けて通れない。J1で主力として活躍する代表クラスから、J2やJ3でチャレンジを始める若手まで、数え切れない人数の選手が在籍する。

 ただ、キム・ドンヒョン氏は「みんな大雑把に日本に行っている感じがします。(代理人が)選手を送って、それで終わりというケースもあると聞きます」と、準備のないまま来日してしまうケースの多さを指摘する。「そのなかで、自分は(Jリーグ移籍に)意味を持たせたい」と熱く語ったうえで「逆に、日本人選手が韓国に来る時も一緒です」として、Kリーグプレーする日本人選手に言及し、彼らへのサポートの必要性を訴えた。

「日本人選手が韓国に来ると、通訳がない状況になってしまうことが多いんです。邦本選手(慶南FC)も、石田(雅俊)選手(安山グリナーズFC)もそうですね。今、大邸FCでやっている西翼選手も、通訳がいないんですよ。西選手の場合は英語ができますけど、通訳がいないと普段の生活に困る場合もあります。サッカーといっても、日常生活と両立しないといけない。だから、自分は責任を持ってサポートをして、選手たちを助けたいという思いがあります」

邦本と西が覆した日本人への“ステレオタイプ” 「まさしく真逆のタイプを見せてくれた」

 それでも、邦本を始めとする選手たちは腐ることなく力強いプレーを披露。過去と比べても、現在のKリーグ内での日本人選手の評価は「確立されてきている」という。

「邦本選手と西選手の2人がKリーグ1部で実績を残したことによって、日本人に対するステレオタイプ――フィジカルが弱いとか、線が細いというイメージが覆されたと捉えています。ある意味、歴史に名を刻んだといっても過言じゃないと思っています。『日本人は線が細くて走れない』というイメージがあったところで、まさしく真逆のタイプを見せてくれた」

 彼らが既存のイメージを破壊したことで、今後は似たタイプの選手に対する需要がKリーグで高まる可能性もある。特に邦本はKリーグ挑戦前、2017年5月にアビスパ福岡を契約解除になった経緯もあり、慶南FC加入当初は韓国でも「謎のある存在ではあった」(キム・ドンヒョン氏)という。

 ただ、「クオリティーは凄い。慶南FCは2部に落ちてしまいましたけど、まだ1部で見たいという人もいます」とされるように、何よりも重要なピッチ上のプレーで評価を勝ち取った。慶南FCが2部に降格した今、1部クラブへの移籍が有力視されており、韓国メディアではリーグ3連覇中の全北現代移籍の可能性が報じられている。

 また、先日に現役引退を発表したばかりの元日本代表MF増田誓志も、かつてKリーグの蔚山現代で主力として活躍した選手だ。前職時代にインタビューも経験しているキム・ドンヒョン氏は、中盤でファイトするプレーの他にも、その“適応力”に成功の鍵があったと明かす。

「任せられた役割に対しての順応力もあって、蔚山でインタビューをした時には食堂のおばさんたちにも韓国語で話しかけたりしていました。そういうのを見たら、やっぱり『すごいな』と。蔚山は都市部じゃないですし、ソウルからも離れている。そういうところで韓国語を学ぶという姿勢は、すごく尊敬に値すると思います。まずは姿勢、スタンスですね」

 Jリーグでの韓国人の成功例ほど多くはなくとも、歴史を重ねるなかで評価を高めた選手たちの功績により、選択肢は少しずつ広がっている。キム・ドンヒョン氏のような代理人によるサポートは、両国間で適切な人材交流が進む支えになっていくかもしれない。(Football ZONE web編集部・片村光博 / Mitsuhiro Katamura

慶南FCで活躍し評価を高めたMF邦本宜裕【写真:Getty Images】