2020年プラスチック製造業1万社40万人に迫る危機

 17歳の環境活動家・グレタさんの言動が世界を揺るがすなか、日本でもプラスチックの使用中止が急速に進みつつある。その影響は国内製造業に及んでいた! 業界から聞こえてきた悲鳴とは――

◆国内プラスチック業界ですでに廃業や倒産の兆候が

「世界の指導者は今、私たちを裏切り続けている。私たちはそのことをこれ以上、許しておけない」

 スウェーデン出身の17歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんは、昨年12月に開催された「COP25」でそう啖呵を切った。

 昨年9月、国連気候行動サミットで「よくもそんなことを」と各国指導者を睨みつけ、鮮烈に世界デビュー。米タイム誌は彼女を’19年の「今年の人」に選んだ。

 そんな彼女の影響力もあり、世の中は急速に温暖化対策が盛り上がり始めている。なかでも顕著なのは脱プラスチックの動きだ。

 世界企業のスターバックスマクドナルドが先陣を切ったプラスチックストロー廃止の動きに、すかいらーく大戸屋デニーズリンガーハットなど国内外食チェーンも続いた。ANAグループの機材や空港ラウンジ使い捨てプラスチック製品の総重量を’20年度末までに7割削減すると公表している。

 こうした流れは、地球環境からすれば喜ばしいことなのだろう。しかし、急速な脱プラスチックが、一部の企業やそこに従事する人々にとって死活問題となっていることにはあまり光が当てられていない。
 もちろん、グレタさんには何の罪もないのだが、ブームのように彼女を引き合いに出す大人が多いようなのだ。

ストロー等の削減で「廃業することに…」

「グレタさんの国連での演説聞いただろ。我が社も地球環境に配慮していくことにしたよ」

 四国地方プラスチック成型の零細工場を営むMさんにとって、重要顧客だった地元食品量販チェーンの社長が言い放ったその言葉は死刑宣告そのものだった。Mさんがこれまで納品してきた総菜売り場の食品トレーをプラスチックから紙製にし、ストローや樹脂製カトラリーの「積極的な無料配布」をやめると言い出したのだ。

「年間の売り上げとしては600万円ほど減ることになり、家族経営で細々とやってきたウチみたいなところには大打撃。これを機に廃業することにしました」

 一方、中国地方にある、大手プラスチックメーカーの孫請け工場の経営者Sさんも、青息吐息でこう話す。

「昨年8月に元請けが取引していた地元の食品メーカーが脱プラスチックに舵を切ったことで、ウチも売り上げの3割を失うことになりました。しかし、ここまでは想定内だった。そんなこともあろうかと、事業のスリム化を進めるまでのつなぎ資金として、地元の信用金庫から融資の内定を取りつけておいたんです。

 ところが、融資直前にドタキャンされた。市場の見通しの厳しさを理由として説明する信金の担当者の口からは、グレタさんの名前が何度も出た。年度内に資金繰りのめどが立たなければ、破産するしかないですよ」

 プラスチック業界の不況はデータにも表れている。経産省の統計によると、プラスチック製品の国内生産量は’19年3月以降、直近まで4か月連続で前年比割れしている。3月はくしくもグレタさんの活動がSNSを通じて世界的な支持を集めるようになった時期である。

 さらに今年7月からコンビニを含む全小売店で義務化されるレジ袋の有料化も業界に大打撃を与えるそうだ。レジ袋メーカーなどの業界団体、日本ポリオレフィンフィルム工業組合の担当者は語る。

富山県では全国に先んじて、’08年からレジ袋を完全有料化しているのですが、県内のレジ袋消費量は9割減になった。ちなみに当組合に属する企業の約半数に当たる60社強は、レジ袋製造を専業にしている。全国のレジ袋消費量が9割減れば、専業メーカーはかなり厳しい状況に置かれるでしょう」

◆環境に良くない企業には融資が止まる?

 業界にもたらす影響は、収益の低迷だけではない。関西に本社を置く中堅成形メーカーの人事担当はこう話す。

「昨年の8月ごろまでは、例年と同じくらいの学生がOB訪問していましたが、10月になると例年の半分以下になった。原因として考えられるのはグレタさんの存在。9月の彼女の演説はマスコミでも盛んに取り上げられたので、気候変動の元凶としてやり玉に挙げられているプラスチック業界に見切りをつけた人が多かったのでは。
 ウチは実際はプラスチックといっても耐久財の割合が大きいのですが、業界のイメージが悪いですからね。このままでは深刻な人手不足になることは必至です」

 そんなプラスチック業界のイメージの悪化は、政府の失策によるところもあるという。日本プラスチック工業連盟専務理事の岸村小太郎氏は話す。

「’18年6月に行われたG7サミットで、海洋プラスチック憲章に日本とアメリカだけ署名しなかった。安倍首相は『国内業界との調整が取れていない』ことを理由にしたんですが、これによりプラスチック業界への風当りが非常に強くなった。我々業界は日ごろからプラスチックの海洋ごみ問題や使用済みプラスチックの有効利用に積極的に取り組んでおり、憲章にも署名するものと思っていた」

 国内各所で影響が出ているが、今後は倒産などが増えるのか。経済評論家の加谷珪一氏は言う。

「グレタさんの主張する温暖化対策には、背後に世界の金融業界の意向が大きく働いている。近年、ITやシェアリングエコノミーの普及により、大型の新規設備投資が少なくなってきていて、金融業界としては大きな利益を生む融資先が減ってきている。そんななか、新規の大型案件が期待できる分野はもう環境分野しかないのです。

 世界49か国130の金融機関は、グレタさんの国連演説の前日に、『国連責任銀行原則』に調印しています。これはSDGs(持続可能な開発目標)とパリ協定を順守しない企業には融資を行わないとする内容です。こうしたなか、今後は環境分野にどんどんマネーが流れていきます。

 プラスチック業界のなかでも、生分解性プラスチックリサイクル分野で今以上に成長していく企業も出てくるでしょう。ただし、責任銀行原則に対応できない零細企業などは資金調達もできず、淘汰されるしかない。社会の格差という面では広がっていく懸念もあります」

 前出のSさんは証言する。

「業界内では3、4月に倒産が相次ぐという観測がある。7月にレジ袋が廃止になるため、納品先から契約終了の通達が3~4か月前にされることが多いためと、年度末の節目を切られてしまうから」

 経産省によると、’18年時点で、国内には約1万2000社のプラスチック製品製造企業が存在し、従業員は約40万人以上いる。温暖化対策も大切だが、環境保護に向け、業界も変化しようと試行錯誤している。業態変換のための猶予期間も必要ではないだろうか。

◆「脱飛行機」でLCCが倒産!?

 グレタさんムーブメントが世界にもたらしているもう一つの影響が「脱航空機」だ。欧州では温室効果ガスを大量に排出する航空機の利用を「恥」だとし、代わりに鉄道を利用する動きも広がり始めている。

 英人気バンドコールドプレイは、二酸化炭素の排出を懸念して新作アルバムツアーを行わないと表明。米トップモデルのベラ・ハディッドも航空機を利用することへの罪悪感を表明するなど欧米セレブの間で脱飛行機が進む。

 一方でこうした動きはLCCにとって死活問題だ。低料金で勝負するLCCは資金繰りが厳しい会社が多く、直近1年以内でも数多くのLCCが燃料費の高騰などで経営破綻している。銀行からの融資がストップされれば、多くのLCCが倒産するだろう。

 日本でも多くのLCCが就航しているが、この波がアジアに普及すれば、鉄道で国外に出ることができない島国ニッポンにとっては死活問題となる。気軽に海外旅行に行けなくなってしまうかも!?

取材・文/奥窪優木 写真/AFP=時事
※週刊SPA!1月7日発売号より

昨年12月にスペインのマドリードで開催された「COP25」で演説するグレタさん