敵国を安全に監視できるのは、これまで偵察衛星か上空を高速で飛行する偵察機だけであった。

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 偵察衛星は地球上の高度約400~500キロにあり、地球を約1時間半で周回する。偵察機は高速で飛行しながら地上を撮影する。

 つまり、両者とも、地上にあるものを一瞬だけ撮影できる。しかし、継続して監視することは100%不可能である。

 サダム・フセインオサマ・ビンラディン偵察衛星で追跡していたという情報があるが、それは不可能であり、嘘である。

 だが、ステルス性能を持った無人機航空機(無人機)であれば、撃ち落とされない限り、地上目標を継続的に監視でき、同時にロケットで攻撃できる能力もある。

 撃墜されて墜落するなどの非常事態が生起しても、操縦者の生命を喪失することなく、目的を達成できる。

 これまで、この無人機が最も多く使用されたのは、米国の「MQ-1プレデター」という武装した無人機である。

 主に、アフガニスタンイラクシリアなどの戦場で実戦に投入され、イスラム過激派の兵士などに向けてロケット攻撃を実施してきた。

 無人機が破壊されることがあっても、操縦者は米国本土にいて、操縦する兵士は無血で目的を達成できた。

 そして、現在では戦場だけではなく敵国まで侵入して、紛争に拡大していきそうな特殊な目標に対する攻撃にも投入されてきている。

 この無人機を現在までの歴史や運用法や戦術戦法を概観し、無人機は今後どうなるのか、そして、東アジアではどの場面に使用されるのかを考える。

注:本文では、偵察・監視を目的とするものを「無人偵察機」、攻撃を目的とするものを「無人攻撃機」と記述した。

戦略目標の攻撃に相次ぎ投入

 昨年9月には、イラン関与の疑いがあるイエメンの反政府勢力フーシが、20機以上の自爆型無人攻撃機および巡航ミサイルを使用して、サウジアラビアの石油施設を攻撃、大きな被害を出した。

 今年に入ってすぐの1月3日、米軍の攻撃ヘリないしは無人攻撃機が、イラクのバグダッド空港の近くで、イラン革命防衛隊「コッズ部隊」の車列を空爆し、ソレイマニ司令官を殺害した。

 我々は、無人攻撃機による攻撃の可能性が高いと見ている。

 中国は、2017年に119機のドローンの制御、昨年6月には南シナ海で50機の大量のドローンを使った実験にも成功した。

 中国が公開しているCG映像を見ると、多数の無人機が、攻撃目標の情報を収集し、監視して、攻撃目標を選定して襲撃する。

 敵対国と思われる国家に対して、大量の無人機を使用した攻撃を計画していると考えられる。

第1次大戦から始まった研究

 無人機についての研究は、第1次大戦頃から英国で始まった。そして、第2次大戦時からその研究は本格化した。

 1944年頃、米陸軍が「B-17爆撃機を「BQ-7」無人機に改造したが、技術的な問題で成就しなかった。

 戦中戦後、遠隔操作航空機(RPV)の研究が進み、高性能な無人標的機が誕生し、普及していった。

 その代表的機種は「Q-2ファイアビー」であった。1962年以降、米国ではロッキード「D-21」のような高高度/超高速無人飛行をするジェット推進式の標的機を配備した。

 旧ソ連軍も同様の「La-17」や「Tu-123」などを配備した。攻撃用に開発された米海軍の無線操縦式ヘリコプターQH-50 DASH」は海上から魚雷を投下する目的で1960年代に開発、配備された。

 1970年頃から無線機の小型化や電子誘導装置の発達により、写真偵察などを目的とした無人偵察機が米国やイスラエルで本格的に開発された。

 この無人機が最初に効果を発揮したのはイスラエルで、1973年第4次中東戦争でのエジプトシリアの偵察であった。

 20世紀末には画像電子機器や通信機器、コンピューターの発達により、衛星通信から遠隔地でもリアルタイムで操縦と映像の取得ができるようになり、21世紀からは偵察型から攻撃型への展開も行われた。

 また、高高度飛行で通信中継点となる無人機の研究も進められている。

無人機のシステムと攻撃要領(イメージ)

 欧州は無人機の有効性に懐疑的であるが、中国はイラク戦争での米軍無人機の戦果を目の当たりにし、軍事における革命として重視し、無人機の領域で急速に存在感を示すこととなった。

 日本では、2011年の東日本大震災で福島第1原発原子炉内部の撮影に投入されたのが、米軍のグローバルホークという無人機であった。

 その活躍ぶりから、日本も無人機を3機導入することとなった。

 日本では、主に偵察分野で無人機を活用しているほか、無人ヘリコプターからのミサイル攻撃などを研究している。

 衛星などとの双方向通信によるリアルタイムな操縦が実施できる無人機は、地上基地に移動式操縦ステーションを置き、1個のシステムを成すものも出てきた。

 そのほか無人ステルス機の研究も進められている。

「RQ-3 ダークスター」や「X-47」のような実験機を経て、「RQ-170 センチネル」が実戦に投入されたと推測される。無人の戦闘機については研究段階である。

RQ-170センチネル

無人機運用上の長所・欠点

 無人機運上の長所は、人的消耗がないことが筆頭に挙げられる(2次損耗、巻き添えの局限)。

 敵地へは、上空から抵抗を受けることなく侵入でき、長時間の飛行が確保でき、継続監視が可能となり、目標が移動するなどの変化に対しても余裕を持った対処が可能である。

 また、安価で量産が容易なため、数的補完が容易である。敵から見れば小型のため見つけにくく、特にステルス性能を有すれば、その侵入を阻止することが困難である。

 電子装置などの搭載スペースが大きいので任務に拡張性がある。精密攻撃能力を保有している。

 また、兵士が立入ることができない核や化学兵器で汚染された地域でも、いくらかの影響を受けることがあっても任務を遂行できる。

 その事例が、東北大震災のとき、福島第1原発の上空を米空軍の「グローバルホーク」が飛行し、米軍が偵察映像を含む様々なデータを日本に提供したことだ。

ともだち作戦」と呼ばれ、日本にとっては感謝すべきことだが、放射線の濃度が高い空域でも、任務を遂行することができたという実験場でもあった。

 米軍にとっては、多くの実戦的な貴重なデータが入手できたことだろう。このように多様な任務をこなせると言える。

 一方、欠点は環境の変化への追随が不得手、融通性に乏しい点に尽きる。しかし、それも次第に技術が解消していくものと考えられる。

朝鮮半島ではどのように使われるか

 今、無人機は任務において大きな発展を見せている。

 ただ単に航法をして偵察や警戒監視、通信リレーシップをこなすだけでなく、長時間の空中哨戒や精密攻撃、索敵掃討、編隊飛行、無人給油など任務が拡大している。

 世界の主要国は無人機を整備するだけでなく、陸海空作戦に充当され、任務の幅を拡大しようとしている。

 無人機は有人機の保有任務を席巻していくのであろう。パイロットは役割が大きく変化しゲームコントロール的な役割に変わっていくように思える。

 韓国の特殊戦司令部と在韓米軍が、群山の空軍基地などで仮想の北朝鮮軍基地を襲撃し、要人を取り押さえる訓練を行ったことを、米国防省が2019年12月に、ホームページに公開した。

 写真には在韓米軍の兵士らが建物の中から白い服を着た北朝鮮要人とみられる人物を連行する様子が収められている。北朝鮮首脳部に対する「斬首作戦」の訓練だったと見ていい。

 だが実際はどうか。

 特殊部隊北朝鮮に潜入して、北朝鮮要人を殺害するあるいは捕獲する行動について、作戦の実行の可能性から検討すると、まず、国内に潜入はできるが、警護軍団(数万人)や首都(平壌)防衛軍団(数万人)に守られている目標とする人物までにたどり着けないだろう。

 そして捕獲や殺傷までに至ることは難しい。

 さらに、捕獲や殺傷したとしてもその後に発見され、軍団から取り囲まれ、撤退することはほぼ不可能に近い。

 特殊部隊による斬首作戦を映像などで見せつければ、金正恩委員長を震え上がらせることは可能だが、成功する可能性はほとんどないといえる。

 では、どうするのか。最も実現の可能性が高いのが、その人物を無人偵察機によって継続的に監視し、この情報をもとに無人攻撃機からロケットを発射して殺害することだ。

 北朝鮮は、2017年の軍事パレードの様子を、リアルタイムで実況中継することがなくなった。数時間後に録画で放送されるのだ。

 つまり、金正恩委員長は、この無人機による監視と攻撃を恐れているのであろう。

 年が明けてすぐ、イラン革命防衛隊の車列が空爆されて、司令官が殺害された。

 目標が移動していたことから、無人偵察機による監視が行われ、無人攻撃機ロケットで攻撃したものと推測される。

 このニュースを聞いた金正恩委員長は、「自分にも同じことが実行されるかもしれない」と震え上がっていることだろう。

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