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やや過剰状態のシルバースピリットとシルバースパー

text:Malcom McKay(マルコム・マッケイ)
photo:James Mann (ジェームズ・マン)
translationKENJI Nakajima(中嶋健治)

 
年間1000台ほどが20年間に渡って製造された。ロールス・ロイスシャドーと同様に、シルバースピリットとシルバースパーは、今の中古車市場ではやや過剰状態にある。

多くの手間と時間が掛けられ、新車時には驚くほど高価だったロールス・ロイスが、今なら信じられないほど安価に手に入る。中には状態の良いクルマもまだまだ残っている。

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ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)

ロールス・ロイスモデルチェンジではなく、同じモデを進化させることで、高い評判を維持してきた。シルバースピリットもシルバースパーも、基本的にはシャドーと同じプラットフォームを採用している。

ボディはより幅広く低くなり、空力向上も果たしているが、シルバースピリットの場合、全長は変わらない。エンジンは高圧縮比となり、給排気系に改良を受けている。2ドアのシルバーシャドーと同じリアサスペンションは、改良が施されたセミトレーリングアーム式となる。

全長はスパーの方が100mmほど長いが、伸ばされたぶんはリアシートの空間に充てがわれている。多くのエクステンド仕様も存在。159台のストレッチリムジンに104台のツーリングリムジン、49台のパークウォード・リムジンに1台の走行リムジンが作られた。

加えてコーチビルダーのフーパー社も、17台のリムジンを製造。24台のアップグレードも手掛けている。

すべての部品の製造・組み立て品質は素晴らしい。ダッシュボードに貼られたウォルナット材の木パネルは左右で綺麗に対象パターン。シートに用いられたベロア地は珍しいオプション。多くはレーザーシートだったが、ここでも細部に至るまで品質へのこだわりは見事だ。

優越感と優雅さを味わえる

1980年当時、シート座面の前後や上下の調整が電動化されていたのは珍しかった。ただし、背もたれのリクライニングは、初期のうちは手動式だった。

外気温計と走行時間の表示はデジタルディスプレイで、近代化されている証。購入時はちゃんと動いているか確認しておきたい。

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ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)

クラシックカーを選ぶ際、手に追えるものを購入することが原則だが、ロールス・ロイスの部品は特に高価。手持ちのお金を車両代にすべて投じず、充分な予算を予期せぬ出費のために残しておきたいところ。中古部品を有効に使うのも手だ。

何より調子の良い、ちゃんと整備記録の残っているクルマを手に入れたい。これまで大切に乗られてきたことを示している。ボディやインテリアがくすんでいても、磨いて丁寧に掃除をすれば綺麗になることが多い。もちろん、サビやボディトリムの欠品、整備不良には気をつけたい。

ガレージの大きさも重要。このクルマは青空駐車場には適していないし、多くの車庫は奥行きが5m前後しかない。日常的な駐車のしやすさを考えると、20cmくらいはガレージには余裕が欲しい。

シルバースピリットとシルバースパーの路上での存在感は圧倒的。リラックスした雰囲気の走りは、優越感と優雅さでドライバーを包んでくれる。中にはこの車の価値に気づかない人もいるかも知れない。しかし、このクルマを運転していれば、そんなことも忘れさせてくれるだろう。

ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパーの中古車 購入時の注意点

燃費が悪くパワーで劣る、キャブレター・エンジンの初期型が最も安価。1987年からフューエル・インジェクションになる。ただしインジェクターの目詰まりは不調を招く。

リビルトで一番コストが掛からないのが、GM製のトランスミッション。もちろん購入前にすべてのギアが有効か確認はしておきたい。エンジンやブレーキ、その他の部分は複雑で部品も高価。部品の品質や大きさを考えれば、法外というわけでもない。

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ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)

ロールス・ロイスは長寿命であることを真剣に考えられている。適切なメンテナンスさえしていれば、耐久性は高い。知識があれば自身での修理も不可能ではないが、英国でも専門ショップでのサービスは安くはない。

アルミニウム製のエンジンには鋳鉄製のシリンダーライナーが用いられ、油圧タペットが力強くスムーズな走行を支えているが、定期的なメンテナンスは不可欠。過去の整備記録はしっかり確認し、前回の整備からどれくらいの時間が経過しているかを確かめる。

異音が出ていないか、オーバーヒートの跡がないかも確認する。オイルフィラーキャップに乳化したオイルが付いていたり、クーラントにオイルが滲んでいたら、ガスケットの交換が必要。

キーをオンにして、2つの油圧警告灯が一度点灯するか確認する。ブレーキペダルを数回踏むと点く場合がある。もし点灯しないなら、故障を疑う。

エンジンを始動させ、寒冷時なら30秒、通常なら20秒程度アイドリングさせてエンジンを温める。一度エンジンが温まったら止め、もう一度イグニッションをオンにしてブレーキペダルを40回程度踏み、警告灯が点かないか観察する。それでも駄目なら、お金のかかる油圧システムのオーバーホールが必要ということ。

不具合を起こしやすいポイント

ボディ

ボディパネルは錆びがち。フェンダー内やテール部分は必ず見ておきたい。サイドシルやインナーフェンダー、スペアタイヤのキャリア、リアスプリング・パンなども要注意。シルバースパーの場合はエバーフレックス張りのパネルも腐食しやすい。ボディトリムは珍しく、部品も高価。英国には専門の中古パーツ取り扱い店がある。

油圧システム

ブレーキとセルフレベリング機能の付いたサスペンションは複雑で、オーバーホール費用も高い。こまめなメンテナンスが大切。ブレーキキャリパーには2つの油圧経路があり、整備には倍の手間がかかる。

エンジン

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ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)

アルミニウム製のV8エンジンはパワフルだが、エンジンオイルの交換を怠っていると不調を招く。腐食にも注意。適切に整備されていれば、80万kmは使える。整備記録と同時に、エンジンルームが綺麗かどうかも確認する。整備が悪いと油圧タペットとカムから異音が出る。

タイヤとエグゾースト

製造年と状態を確認する。

サスペンション

ステアリングやダンパー、セルフレベリング機構周りからのフルード漏れに注意。日常的に乗られているクルマより、走行歴の浅いクルマの方が故障しがち。電子制御ダンパーは非常に高価。走行中の異音に注意。

インテリア

木パネルのクリア層の剥がれやひび割れ、レザーシートの退色や亀裂、湿ったカーペットなどは手入れが悪かった証拠。高品質なレザーは、時々手入れをすれば充分。ベロアは珍しいが、痛みやすい。状態のいい個体を探したい。

エアコンが機能するかも重要で、修理は安くない。定期的なガス補充はポンプの潤滑にもつながるから、サービス履歴は見ておきたい。

使用歴

長期間放置されていたクルマは、良くない兆候。

掘り出し物を発見

ロールス・ロイス・シルバースピリット 登録1982年 走行9万9135km 価格1万ポンド(140万円)

初期のシルバースピリットなら、このくらいの価格は一般的。この個体は履歴も良い。整備記録も残っており、走行距離も間違いない。先代のオーナーは2000年から所有しており、2013年から今まで480kmほどしか走っていない。最近の整備は2017年11月に受けている。

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ロールス・ロイス・シルバースピリット1982年

ボディ周りの状態は良好。リアのホイールアーチ周りの状態も良い。フェンダーのリップ部分には気泡が出てきている。補修塗装もいくつか受けている。サイドシルにサビが若干見られるが深刻な部分はない。リアウインドウ周辺のモールにも亀裂はない。

タイヤはリアが古いミシュラン製で、フロントは新しいグラバー製。マフラーの状態も良い。エンジンは整備を受けており、クーラントは透明を保っている。トランスミッション・フルードも新しい。

車内はレザーに若干のヒビが見られるが、木パネルの状態は良いようだ。イグニッションスイッチ周りに若干の痛みがあるほか、ドアパネルにも一部亀裂がある。

シフトチェンジも安定しており、始動性も良好で走りも上質。ブレーキの効きも良い。油圧計と水温計は正しく動いており、車内の電装品も全て動く。エアコンのガス補充もしてくれるそうだ。

オーナーの意見を聞いてみる

「ノッティンガムに中古車がかなりあります。彼らはクルマの価値をわかっていません」 と話すのは、珍しいシルバースパー・ミュリナー・パークウォード(MPW)を所有するロビン・シャーウッド

「父がシルバー・シャドー所有していて、自分も乗りたいと思っていました。シルバースピリットとシルバースパーは新車時より、今の方が印象は良いと思います。素晴らしい価値を持っていますし、とても丁寧に作られたクルマです」

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ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)

ロンドンの宝石商が妻へのプレゼントとして買ったクルマで、完璧な整備歴も残っていました。ベントレーディーラージャックバークレーで購入後は、スペインと英国のロールス・ロイス専門店でメンテナンスを受けていたようです」

「走行距離は3万7000km足らずで、わたしが2オーナー目。MPWにはシャンパン・クラーにアメリカンフレーム・ウォルナット、ステンレス製のボディトリムに葉巻ケースが付いています」

「最も大切なアドバイスは、ちゃんとメンテナンスできるかどうか。この良好な個体ですら、(費用のかかる)油圧システムのオーバーホールが必要となりましたから」

まとめ

シルバースピリットとシルバースパーは、シルバーシャドー系の究極の進化版。所有と運転へのこの上ない満足感を与えてくれる。

英国には素晴らしい個体がまだ沢山残っている。状態の良くないものには安易に手を出さない方が良い。後で自分の首を絞めることになる。本当に状態の良いシルバースピリットとシルバースパーを手に入れたのなら、後悔することはないだろう。

良いトコロ

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ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)

今の相場ではとてもコストバリューに優れている。適切に手入れさえしていれば、最高の品質と上質さ、耐久性を備えたクルマだ。

良くないトコロ

燃費の悪さは、日常的な利用を躊躇させる。ボディの大きさからガレージに入らず、屋外に停められて傷んでしまうクルマも少なくない。

ロールス・ロイス・シルバースピリット/シルバースパー(1980〜2000年)のスペック

価格:1990年時 シルバースピリット 8万5609ポンド(1198万円)/シルバースパー 9万9757ポンド(1396万円)
生産台数:1万9577台
全長:5270−5370mm
全幅:1890mm
全高:1492mm
最高速度:191−214km/h
0-96km/h加速:9.7−10.4秒
燃費:3.8−6.3km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:2245−2470kg
パワートレインV型8気筒6750cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:201ps/3800rpm−229ps/4300rpm
最大トルク:46.9kg-m/1500rpm
ギアボックス:3速/4速オートマティック


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