カジノを止めるために頭を整理する
 横浜市ではカジノを止めるべく、「住民投票条例の制定」「市長の解職請求(リコール)」の受任者集めが同時並行で進んでいる。前者は市民団体「カジノの是非を決める横浜市民の会」を中心に立憲民主党共産党の議員が加わり、後者は政治団体「一人から始めるリコール運動」が中心となっている。この2つの活動はカジノを止めるという目標は同じはずだが、連携しているとは言い難く、活動の整合性はとれていない。それどころか今後深刻な足の引っ張り合いに発展する恐れがあるため、本記事ではその現状を整理した上で解決策を提言したい。

Ryuji / PIXTA(ピクスタ)

◆あまり知られていない署名の制約
 まず、重要な前提知識である「受任者」などの署名の仕組みについて説明する。受任者とは「署名収集を請求代表者から委任された者」を指し、この受任者を通して署名を集める仕組みになっている。署名にあたっては以下のような制約がある。

<署名にあたっての制約>
・署名の収集期間は2ヶ月以内都道府県政令指定都市は2ヶ月以内、その他の市町村は1ヶ月以内と地方自治法施行令 第92条 第1項に規定)

・受任者は自身が居住する区の住民からしか署名を収集できない

・受任者は署名人に実際に会って署名を集めなくてはならない(「回覧板など対面以外で署名を集めている」という指摘等により、平成22年 名古屋市議会リコールでは約46万5千筆のうち、約11万筆もの署名が無効と判断された事例あり)

・署名、押印、署名年月日、住所、生年月日のいずれか1つでも記載が欠けると無効(昭和28年6月22日 福島地裁判決より)

・署名に1文字でも誤字があれば無効になる場合がある(平成22年 名古屋市議会リコールでは、家族で続けて記入した際の住所欄に「同じ」を意味する「〃」と記入した署名が無効と判断された事例あり)

 例えば、必要な署名数49万人(横浜市リコールに必要な署名数)に対して、受任者が1万人の状態で署名収集を開始した場合、受任者1人あたり49人の署名を集めなければならない。しかも、「2ヶ月以内」、「同じ区の居住者のみ」、「対面」、「誤字脱字は1字でもNG」等の厳しい制約が加わる。

 想像してみてほしい。

 あなたには、実際に会って個人情報も書く署名に同意してくれる近隣の知り合いが49人も思い浮かぶだろうか? おそらく難しいと感じる方が大半だろう。つまり、必要な署名数を集めるには十分な数の受任者を18区それぞれに確保できたタイミングで署名収集を開始することが重要になる。ちなみに昨年12月26日時点の東京新聞報道によると受任者数は、住民投票条例の制定は1万5000人以上、市長の解職請求(リコール)は1万3000人超とされている。

◆住民投票と市長リコールは全くの別物
 また、もう一つの重要な前提知識である住民投票条例の制定と市長の解職請求(リコール)の違いについても解説する。この2つはともに直接請求(住民の発意で地方公共団体に一定の行動をとらせるもの)ではあるが、その条件や効力は全くの別物である。

<住民投票条例の制定>

図1:住民投票条例の制定の流れ

 流れは上図「1.住民投票条例の制定の流れ」に整理した。
 以下、ポイントを抜粋する。

●必要署名数:
6万2446筆以上(横浜市2019年7月の有権者数に基づいて算出。有権者総数の50分の1以上)

●必要署名数が集まった場合の効力:
住民投票条例の制定を請求できる

●主な懸念事項:
・条例制定請求を受理した後の議会招集までの「20日以内」という期限はあくまでも努力規定であり、法律上の義務がない。カジノ推進派である林市長が時間稼ぎをする恐れがある。
・林市長が反対意見を「付議」する恐れあり
✳︎原発稼働の是非を問う2011年東京都の住民投票では都知事が反対意見を付議した事例あり
・議決までの期限が定められてないため、市長およびカジノ賛成派である自民・公明の市議によって延々と「議論中」と時間稼ぎされる恐れあり
・議決に進んだとしても、横浜市議会はカジノ賛成派の自民・公明が過半数を占めているため、住民投票条例の制定は議会で否決される見込み。
*現に2019年9月にカジノ補正予算は問題だらけと分かっていながら自公の賛成多数で可決されている
〈参考記事:ハーバービジネスオンライン「問題だらけの横浜カジノ補正予算案。明るみになった12の事実」2019年12月26日)〉
・もし住民投票条例の制定が議会で可決されて、住民投票でカジノ反対が過半数を超えたとしても、住民投票結果には法的拘束力が無いため無視される可能性が高い。
*事実、昨年2月の辺野古埋め立てに反対する沖縄住民投票では9割以上が反対したが、国に無視され、埋め立て工事は続いている。

<市長の解職請求(リコール)>

 次に、市長の解職請求(リコール)について。流れは下図「2.市長の解職請求(リコール)の流れ」に整理した。

図2:市長の解職請求(リコール)の流れ

 以下、ポイントを抜粋する。

●必要署名数:
49万0285筆以上(横浜市2019年7月の有権者数に基づいて算出。有権者総数が80万を超える場合、80万を超える数の8分の1 + 40万の6分の1 + 40万の3分の1の合計以上)

●必要署名数が集まった場合の効力:
・解職請求を行い、60日以内に解職投票が告示される。住民投票のように林市長や市議会が時間稼ぎをする余地はない。
・解職(リコール)投票で賛成が過半数を越えれば即日、市長は解職(リコール)される
・法的拘束力がない住民投票と異なり、解職投票の結果は法的拘束力があるため絶対的。

●主な懸念事項:
・必要署名数は有権者の約6人に1人に相当するほど多い。2ヶ月以内に集まらない恐れがある
✳︎住民投票条例の制定の必要署名数(約6万2千筆)より8倍近くも多い

◆住民投票条例の制定と市長の解職請求(リコール)の比較
 ここまで2つの直接請求を比較した結果を下図「3.住民投票条例の制定と市長の解職請求(リコール)の比較」に改めて整理した。

図3:住民投票条例の制定と市長の解職請求(リコール)の比較

 市長の解職請求(リコール)は必要署名数(有権者数の約6人に1人以上)を集めるハードルが高い反面、署名が集まった後の効力は絶大であり、手続きも迅速に進められることが分かる。一方、住民投票条例の制定は必要署名数(有権者の50分の1以上)は少ないものの、法的拘束力は無いため効力は限定的であり、市長や議会が時間稼ぎできるタイミングが随所にあるため迅速さにも欠ける。

明らかになってきたタイムリミット
 タイムリミットを含む時間的な制約も徐々に明らかになってきた。

<時間的な制約>

・昨年11月報道により、カジノを含む統合型リゾート(IR)の自治体からの申請は2021年1月4日から受付開始と観光庁が発表した。これまでの林市長のカジノ推進に向けた強硬な姿勢を踏まえれば、2021年の年明け後、申請開始日の1月4日に申請する可能性も十分に考えられる。つまり、実質的には前月の2020年12月カジノを止めるタイムリミットだと捉えられる。

・このタイムリミットである2020年12月の時点で、市長の解職請求まで進んでいれば、カジノを止められる可能性が出てくると考えられる。カジノ推進を理由に市長の解職請求がされている状態で、カジノを含むIRの申請を進めることは政治的にも困難と想定されるため。
*この解職請求は、図2「2.市長の解職請求(リコール)の流れ」で署名の収集、審査、縦覧の後に位置するフェーズであり、肝心の解職投票はまだ実施されていない状態。この時点で解職投票および解職まで進んでいればさらに望ましいが、後述の予想スケジュールで検討した結果、日程的に不可能と考えられる。

・署名収集の開始時期は、昨年12月26日時点の東京新聞報道によると、住民投票条例の制定は遅くとも2020年5月の見込み。市長の解職請求(リコール)は2020年7月の見込み。

横浜市会の2020年の詳細な日程は未定だが、昨年までの実績を踏まえると、年4回の定例会が以下の期間に開かれている。議決はこの定例会の期間中に行われる。つまり、横浜市会での議決を必要とする住民投票条例の制定はこの年4回の定例会日程も考慮する必要がある。

・第1回定例会(1月下旬もしくは2月上旬〜3月下旬)
・第2回定例会(5月中旬〜6月上旬)
・第3回定例会(9月上旬〜10月中旬)
・第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬)

◆すでに破綻している住民投票のスケジュール
 この時間的制約を加味して、予想されるスケジュールを詳細化していくと重大な問題点が2つ浮かび上がってきた。

問題点①:住民投票の議決は早くても2020年12月の第4回定例会。第4回定例会で住民投票の否決、IR申請の可決が行われると2021年1月のIR申請受付を防げない

 住民投票条例の制定に絞って、予想されるスケジュールを下図「4.住民投票の予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)」に整理した。

図4:住民投票の予想スケジュール

2020年5月1日:住民投票の署名収集を開始
同年5月〜6月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間)
同年7月〜8月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定*)
同年9月1日〜7日ごろ:署名の縦覧期間(7日間)
同年12月:議会で住民投票条例の制定は否決し、IR申請は可決
2021年1月:IR申請
(厳密には、この他にも細かい手続きは存在するが省略)
〈*約46万5千筆の署名を集めた平成22年名古屋市議会リコールの審査期間が約2ヶ月であったことを踏まえ、50万筆の署名を目指すとする今回の住民投票も同程度の2ヶ月を要すると仮定した 。下記の参考記事で住民投票について「50万人の署名を集め、市選挙管理委員会に提出するスケジュール案を掲げた」との記載あり〉

 8月に住民投票条例の制定の署名審査完了と仮定する。請求受理から議会招集までの猶予期間(努力規定で20日以内。市長による時間稼ぎの恐れもあり)などを考慮すると、 第3回定例会(9月上旬〜10月中旬)には間に合わないだろう。従って、住民投票条例の制定は第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬) で議決されることが想定される。カジノ推進派の林市長や自公の市議はこの第4回定例会で住民投票の条例制定を否決する一方、IR申請は可決することが可能となってしまう。つまり、現在の予定通りに2020年5月1日に住民投票条例の制定の署名収集を開始した場合、それはカジノを止める上で何の役にも立たない可能性が高い

 さらに言えば、立憲民主党神奈川県連合は「リコールも視野に、横浜でのカジノ誘致撤回へ!」と題したPoliPoliプロジェクト説明において、住民投票が議会で否決された後に市長リコールへ進む線表を描いているが、この立憲民主党神奈川県連合が描くスケジュールは完全に破綻していると言わざるを得ない。スライド4枚目で説明した通り、2020年の第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬)で住民投票条例の制定の議決結果(否決の見込み)が明らかになった後、約1ヶ月後の2021年1月4日には林市長はIR申請が可能なため、住民投票の後に市長リコールを新たに始める時間的余裕は無い。(参考記事:神奈川新聞「「市民の怒りは広くて深い」 カジノ反対、リコールも視野」2019年12月11日

問題点②:住民投票とリコールの動きが完全に矛盾

 さらに、同時並行で別団体が進めている市長リコールの動きも絡めると、2つの活動の整合性について致命的な問題が見えてきた。住民投票条例の制定と市長の解職請求(リコール)の2020年5月〜10月までに予想されるスケジュールを下図「5.住民投票とリコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)」に整理した。

図5:住民投票とリコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)

<住民投票>
2020年5月1日:署名収集を開始
同年5月〜6月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間)
同年7月〜8月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定)
同年9月1日〜7日ごろ:署名の縦覧期間(7日間)

リコール
2020年7月1日:署名収集を開始
同年7月〜8月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間)
同年9月〜10月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定)
(厳密には、この他にも細かい手続きは存在するが省略)

 2020年7月〜8月に着目してほしい。
 住民投票と市長リコールの動きが完全に矛盾していることにお気づきだろうか?

 住民投票条例の制定は、市長に対して「住民投票条例を制定すべき」という提案であり、市長にいったん判断のボールを渡すことを意味している。一方、市長の解職請求(リコール)は市長を問答無用でクビにすることを目指している。

 つまり、市長に判断のボールを渡そうという住民投票の署名を審査している真っ最中、その市長を問答無用でクビにする署名集めを開始するという矛盾が2020年7月に起きると予想される。こうした矛盾をカジノ反対派の内部で抱えたまま、必要署名数を達成できるのか心配される。
 しかも、この時期は東京オリンピック7月24日8月9日)の喧騒も重なり、国内メディアオリンピック一色の報道になることが予想され、テレビや新聞による署名集めの盛り上がりはあまり期待できない。ただでさえ市長の解職請求(リコール)の必要署名数は約49万筆(有権者の約6人に1人)と膨大なため、市民が一丸となって取り組まなければ達成は難しいだろう。

◆提言「住民投票の署名収集開始を2020年2月に前倒し」
 2つの問題点の解決策として現時点で考えられるのは、住民投票条例の制定の署名収集開始の早期化ではないだろうか。住民投票条例の制定は必要署名数が約6万筆と少ない上、昨年末の時点で既に1万5000人以上の受任者が集まっている。受任者1人当たり4人の署名を集めれば良い計算であり、今すぐ署名集めを開始しても2ヶ月以内に必要な署名数を集めることは十分に可能と思われる。逆に、従来の予定通りに署名開始を5月1日まで引き延ばしても、ここまで説明してきた通りデメリットしか見つけられない。

 例えば、住民投票条例の制定を予定より3ヶ月早めて2020年2月にした場合の予想スケジュールを下図「6.住民投票と市長リコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始を2月に早めた場合)」に整理した。

図6:住民投票と市長リコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始を2月に早めた場合)

<住民投票>
2020年2月1日:署名収集を開始
同年2月〜3月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間)
同年4月1日4月20日:署名の審査期間(署名数が減るため、従来の「2ヵ月間」から規定通りの「20日間」に短縮
同年4月21日〜28日ごろ:署名の縦覧期間(7日間)
同年4月29日5月18日ごろ:請求受理から議会招集までの猶予期間(努力規程で20日以内)
5月中旬〜6月上旬第2回定例会の議決に間に合う可能性あり

<市長リコール
2020年7月1日:署名を開始
同年7月〜8月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間)
同年9月〜10月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定)
同年11月1日〜7日ごろ:署名の縦覧期間(7日間)
同年11月中旬〜下旬ごろ解職請求
2021年1月ごろ:解職請求から60日以内に解職投票の告示
(厳密には、この他にも細かい手続きは存在するが省略)

 住民投票の署名収集を2月に開始すると、受任者数は昨年末に発表された約1万5千人から大きな変化は無いと思われる。必要署名数(約6万筆)は余裕で達成できるだろうが、目標に掲げていた50万筆にはさすがに届かないだろう。

 図4で説明した5月開始のパターンでは、約46万5千筆の署名を集めた平成22年名古屋市議会リコールの審査期間が約2ヶ月であったことを踏まえ、50万筆の署名を目指すとする今回の住民投票も同程度の2ヶ月を要すると仮定した。だが、図6の5月開始のパターンにおいては、署名数が少なくなるため審査期間は通常の規定通りの20日間に短縮できる(改善点①)と考えられる。つまり、署名の審査完了のタイミングはトータルで4ヶ月と10日ほど(署名収集開始の3ヶ月前倒し + 審査期間が1ヶ月と10日ほど短縮)早まる。

 この短縮は非常に大きな意味を持つ。図6を見れば分かる通り、住民投票条例の制定が第2回定例会(5月中旬〜6月上旬)の議題に間に合う可能性が出てくるのだ。
 そうなれば、住民投票署名に対して時間稼ぎをするのか、もしくは反対意見を付議するのかといった林市長の対応を第2回定例会のタイミングで見極めることができる(改善点②)。さらに、もし第2回定例会の議題にあがった場合は、住民投票署名に対する議会の対応(時間稼ぎをするのか、否決するのか等)も見極めることができる(改善点③)

 そして、最も重要な点として、第2回定例会(5月中旬〜6月上旬)のタイミングで住民投票に対する林市長や議会の対応を確認できるため、約1ヶ月後の7月から始まる市長リコールの署名収集に集中しやすくなる(改善点④)。市長や議会が住民投票署名に対して不誠実な時間稼ぎを行った場合や住民投票条例の制定が否決された場合は市長リコールの機運がさらに高まるだろうし、住民投票条例の制定は7月時点でひと段落している可能性があるため問題点②(住民投票とリコールの動きの矛盾)も解消されるかもしれない。

 このように綱渡りでギリギリのスケジュールではあるが、住民投票条例の制定が第2回定例会の議題に滑り込んだ場合、バラバラに動いていた住民投票とリコールが初めて相乗効果を生み出す可能性を秘めている。一気に3点(改善点②〜④)の恩恵を受けることができ、市長リコールの必要署名数を無事に集められるかどうかの大きな分岐点にもなるだろう。

 市長リコールの必要署名数を達成できる見込みが高まったところで、改めてタイムリミットを振り返ると、カジノを含む統合型リゾート(IR)の自治体からの申請は2021年1月4日から受付開始と昨年11月観光庁は発表している。これまでの林市長のカジノ推進に向けた強硬な姿勢を踏まえれば、申請開始初日の2021年1月4日に申請する可能性も十分に考えられる。この1月4日月曜日であり、年末年始休み後の仕事始めの初日にあたる。ここから逆算するとカジノ推進派である林市長は前年(2020年)の第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬)でIR申請を市議会に通して可決を狙うと予想される。

 これを防ぐには、第4回定例会が始まるまでに解職請求まで進んでいることが望ましい。スライド6枚目にてスケジュールを予想したところ、署名の収集(7月〜8月末)、署名の審査(9月〜10月末ごろ)、署名の縦覧(11月1日〜7日ごろ)を経て、11月中旬〜下旬ごろに解職請求に至るのではないかと見立てている。これは問題の第4回定例会より1週間ほど早い時期にあたるため、第4回定例会でIR申請の議決は不可能になる見込みが高い(改善点⑤)。さすがにカジノ推進を理由に市長の解職請求がされている状態で、カジノを含むIRの申請を市議会が進めることは政治的に困難と想定されるため。そして、年明け後の2021年1月、市長は念願のIR申請をするどころか、逆に市長リコールの解職投票が実施されている可能性がある。

 以上が「住民投票の署名収集開始を2020年2月に前倒す」という提言の具体的な内容になる。この予想スケジュールは綱渡りであり、ここに挙げた5点の改善点が実現するかは不透明ではある。だが、筆者が調べた限り、住民投票の署名収集開始時期を現在の予定通り2020年5月まで待つべき理由は何一つ見つけられなかった。

 もしそれでも「カジノの是非を決める横浜市民の会」は5月から署名収集を開始する考えを変えないのであれば、2021年1月というIR申請の開始時期が明らかになった今、一体どのようにして住民投票でカジノを止めるのか具体的なスケジュールを説明すべきではないか。住民投票の受任者集めを行なっている日本共産党・横浜市議団立憲民主党・神奈川県連合についても同様のことが言える。

カジノの是非を住民投票で決める」(カジノの是非を決める横浜市民の会 Webサイトより引用)

リコールも視野に、横浜でのカジノ誘致の撤回へ」(立憲民主党・神奈川県連合 Webサイトより引用)

 こうした耳障りのいいキャッチフレーズはよく聞くが、本記事で示したような2021年1月までの1ヶ月単位の各アクション明らかにされたスケジュールをこれらの団体は示していないと思われる。(2020年1月11日時点)。

 さらに言えば、立憲民主党神奈川県連合については、受任者申し込みフォーム()にて、住民投票と市長リコールに「議会リコール」まで加えた3種類の受任者を同時に募集するという複雑な活動を展開している。問題点②で挙げたように住民投票と市長リコールだけでも矛盾が生じているのに、さらに議会リコールまで加えて、どのように活動全体の整合性を保つのか。2021年1月のIR申請開始日までに、この3つの活動(住民投票、市長リコール、議会リコール)をいつ、どのような順番で行い、カジノを止めるのか。すでに受任者集めを始めている以上、説明責任があるのではないか。

 また、立憲民主党神奈川県連合は2020年1月5日時点の受任者申し込みフォームで3種類(住民投票、市長リコール、議会リコール)の受任者の総称として「カジノ受任者」というあたかもカジノを推進する立場と誤解される名称をあえて用いていたことも指摘しておく。(2020年1月11日時点では「カジノ誘致反対受任者」という名称に変更)

〈*直接請求の仕組みについては『横浜市 市会ジャーナル 平成26年度Vol.11』を参考に本記事を執筆した。以下、本記事と関連の高い箇所を抜粋する。
・無効となる署名(P5)
・首長による反対意見の付議(P13〜14)
政令指定都市でのリコール成功(P12〜25)

<文・図版制作/犬飼淳>

【犬飼淳】
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いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。最近は「赤黄青で国会ウォッチ」と題して、Youtube動画で国会答弁の視覚化に取り組む。
 犬飼淳氏の(note)では数多くの答弁を「信号無視話法」などを駆使して視覚化している。また、同様にYouTubeチャンネル日本語版英語版)でも国会答弁の視覚化を行い、全世界に向けて発信している

Ryuji / PIXTA(ピクスタ)