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◆「ネット終活」を真剣に考える時代到来
 私自身は、ネットの情報は長くアーカイブされて欲しいと思っている。しかし個人が、ネットに記録した情報を死後にどうするかは自由である。データを削除しても、それは仕方がないことだ。

 自身についての情報をどう扱うかは個人の自由だ。自身に付随する情報の扱いを決めるのは、その人が持つ当然の権利だろう。

 死後に自分の情報をどうするか。新年ではあるが、そうしたネット終活の話をしたい。

 インターネットが一般の人に広まり始めたのは、1995年Windows 95 の頃だ。今は2020年になり25年が経過した。当時パソコンを気軽に買える経済力があった35歳の人は、現在60歳になっている。ネットを長年利用し続けた人が、ぽつぽつと鬼籍に入る時期といえる。

 ネット時代以前は、遺品の多くは自宅にあった。そのため遺族が部屋を探せば、故人の所有物のほとんどを把握できた。ネット時代になり、故人の残したものの多くが情報になった。それらの置き場所は、自宅ではなくネットに変わった。

 現代の人々が利用しているサービスのほとんどはネット上にある。そこにアクセスするためには、アカウント名とパスワードが必要だ。それらを記憶した人が消えれば、誰もアクセスできなくなる。持ち主のいないアカウントが、ネット上に残り続けることになる。

 死後に情報を削除あるいは維持したい。そうした選択は死んだあとにはできない。遺族が代行しようとしても、ログインできる人が誰もいなければおこなえない。遺族がバックアップを取ろうとした場合も、アカウント名とパスワードが分からなければ実現しない。

 ネットサービスの利用者が死んだ場合に、どうすればよいかという問題は、昔からある。大手のサービスでは、このような「故人となったアカウントにどう対処するか」という問題に対して取り組みをおこなっている。その一端を、大手サービスを中心に見ていこう。

Google アカウントの削除
 ネット最大の企業のひとつ Google では、自分の死後に GmailGoogle ドライブデータを自動削除する方法が用意されている。それは「アカウント無効化管理ツール」というものだ(参照:Googleヘルプ)。

 このツールで設定できる項目は3つある。Google アカウントが長期間使用されていないと判断するまでの期間の指定」「通知する相手と公開するデータの選択」「使用していない Google アカウントを削除するかどうかの設定」である。

 まず「Google アカウントが長期間使用されていないと判断するまでの期間の指定」を見てみよう。ここでは、どれぐらいの期間アクセスがないとツールを実行するか選べる。デフォルトでは3ヶ月後だが、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後に変更することもできる。その期間が過ぎても、いきなりツールが実行されるわけではなく、メールなどに確認の通知が届くようになっている。

 次に「通知する相手と公開するデータの選択」である。連絡する相手のメールアドレスや電話番号を登録できる。また、公開する Googleサービスを選択できる。それだけでなく、そのアカウントメールが送られてきた場合の、自動返信メールについても設定が可能だ。

 最後は「使用していない Google アカウントを削除するかどうかの設定」だ。この設定ではアカウントを削除するかどうかを選べる。自身の情報を消してしまいたい場合は、こちらをオンにする。アカウントを削除しておけば、死後にアカウントを乗っ取られて好き放題される危険がなくなる。

 このような「アカウント無効化管理ツール」を利用して、Google ではネット終活をおこなえる。Googleアカウントは、日本でネットを利用している人の多くが持っている。そのアカウントを死後にどうするかは重要だ。

 また一人暮らしなどで、死んだことを誰にも気付かれそうにない人にも有用だ。そうした人は、ツールの設定をしておき、死亡の事実を誰かに伝えるようにしておくとよい。

Facebook 追悼アカウント
 SNS の雄である Facebook にも、死後にアカウントをどうするかといった設定がある。アプリケーション的な側面が強い Google と違い、人生の記録的な意味合いが強い Facebook では、死後のアカウントに対する取り扱いも違う。

 Facebook には、追悼アカウントという機能がある。利用者が亡くなったあとで、家族や友達が思い出をシェアするための機能だ。

 Facebook では自身の死後の設定として、「管理人を指名して追悼アカウントの管理を任せるか」「アカウントを完全に削除するか」のいずれかを選べる(参照:Facebook ヘルプセンター)。そして、追悼アカウントへの移行は、家族や友人からの連絡でおこなうようになっている(参照:Facebook ヘルプセンター)。

 個人の責任で全て完結する Google とは違い、人間関係を重視した方式だと言える。また二社では、データに対するアプローチも違う。特定の個人に情報を公開する Google と違い、Facebook では家族や友達が故人を懐かしむ用途になっている。

 追悼アカウントについても触れておこう。追悼アカウントになったアカウントは、名前の横に「追悼」と表示される。そして「知り合いかも」の提案や、広告、誕生日のお知らせなどに、その人のアカウントが表示されなくなる。ひっそりと家族や友達だけが訪れるアカウントになるわけだ。

 また、追悼アカウント管理人は、故人のデータを書き換えることはできなくなっている。自分のアカウントとは違い、できることは大幅に制限されている(参照:Facebook ヘルプセンター)。人によっては、故人の情報をどんどん書き換えて貶めようとする人もいるだろう。そのため適切な処置だと思われる。

Twitter の場合
 日本で利用者が多い Twitter についても触れておく。Twitter は、GoogleFacebook ほど、死後のアカウントの扱いについて手順が整備されていない。ヘルプの「亡くなられた利用者のアカウントについてのご連絡方法」というページを見ると、「権限のある遺産管理人または故人の家族とともにアカウントを削除する」と記載されている。

 アカウントの削除には、リクエストを送信する人の身分証明書のコピーと、故人の死亡証明書のコピーが必要になる。アナログな手法で、死者の証明と、申請者との関係性の証明をしなければならない。

 また Twitter は、2019年11月に、6ヶ月ログインなしの休眠アカウントを削除すると発表している(参照:BBCニュース)。Twitter 自身の方針としては、利用されていないアカウントを削除したいと考えている。運営コストや、不正利用の危険性を考えてのことだろう。しかし、そうした方針とは別に、亡くなったユーザーアカウントを追悼する方法も開発しているそうだ(参照:TechCrunch Japan)。

 アカウントの保護は、追悼という意味だけでなく、文脈の維持の面でも重要だ。アカウントとともにツイートが削除されてしまうと、会話や議論が虫食い状態になり、何が話されていたのか分からなくなる。Twitter を議論の場にしたいという同社の方針を考えると、安易なアカウントの削除は、その方針と真逆の結果を招くと思われる。

ネット終活の必要性
 GoogleFacebookTwitter と、死後のアカウントの扱いについて見てきた。代表的な三者から、死後のアカウントの扱いについては削除と追悼の2つの方向性があることが分かる。

 個人的な要望としては、故人が特に削除を望まない限り、アカウントは保持され、データは半永久的に公開されて欲しいと思う。人間の文明は、知識の伝達によって発達してきた。過去に学ぶ機会を失うことは、人類にとって大きな損失だと考えている。

 しかし、自分の全ての情報や、特定の情報を消したいと願うのも分かる。自分の死後、自身についてのデータをどうしたいのか、生前から考えて設定しておく必要があるだろう。

<文/柳井政和>

【柳井政和】
やない まさかず。クロノスクラウン合同会社の代表社員。ゲームアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社レトロゲームファクトリー』。2019年12月Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。

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