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point
  • 液体金属を使ってスーパーバグを破壊する技術が開発された
  • 液体金属は磁力によってナノサイズの刃に変形する能力がある
  • 細菌との戦いは化学面から物理世界に拡大している

あらゆる抗生物質に耐性を持った「スーパーバグ」は、克服したはずの感染症を再び人類にもたらす恐れがあります。

このままでは遠くない未来、軽いキズですら、スーパーバグ化した破傷風細菌によって命がけになる可能性があるのです。

そこで研究者たちは、従来の抗生物質を使った化学的な方法ではなく、細菌にナノサイズの穴を開けて「物理的に」破壊する方法を開発しました。

「物理的に」と聞くと物騒ですが、果たして人間への害は無いのでしょうか。

この研究は1月10日オーストラリアロイヤルメルボルン工科大学の研究者が学術雑誌「ASC Nano」に発表しています。

Antibacterial Liquid Metals: Biofilm Treatment via Magnetic Activation
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.9b07861

常温ではナノサイズの液滴となるガリウム合金

液滴状態にあるガリウム合金/Credit:RMIT.UNIVERSITY

細菌を刺し殺す「ナイフ」として開発された素材は、ガリウムベースの液体金属です。

ガリウムの融点は29.8℃で、人間の体温では液体になり水中ではナノサイズの球体をした液滴に変化します。

このガリウムに、鉄やニッケルなど磁力に反応する金属の粉末を加えた液体合金は、外部から磁力を与えることで任意の形に変形できることが知られています。

今回の実験で使われた合金はガリウム(68.5%)とインジウム(21.5%)とスズ(10%)をベースにした合金に、さらに僅かな鉄(1%)を加えて作られました。

磁力を与えると鋭い形に変形するガリウム合金

液体金属が突き刺さり、ブドウ球菌を破壊した/Credit:RMIT.UNIVERSITY

研究者たちは液体合金の成分比率と与える磁力の強さを調節することで、液体合金を鋭いナイフ型に変形させることに成功。

実際に細菌で試してみると、ナイフ型に変形した液体金属は、90分で細菌の99%を破壊できました。

また、人体に対する毒性がないかを確かめるために、液体金属をヒト胎児腎臓細胞と混ぜて、細菌に対して行ったものと同じ方法で液体金属をナイフ型に変化させました。

結果、液体金属がヒトの胎児腎臓細胞に対して損傷を与えている様子は確認されませんでした。

ヒトの細胞に損傷が無い理由は?

それでは、なぜヒトの細胞に損傷が見られなかったのでしょうか。

その理由は、細菌細胞とヒト細胞の根本的な大きさの違いにあると考えられます。

ヒトの細胞は細菌の細胞に対して圧倒的に大きいため、細菌の細胞に対しては、液体金属のナイフはミカンに五寸釘を刺すのに似て致命的に働きます。

しかしヒトの細胞に対しては、スイカに縫い針を刺すように、損傷が与える影響が表面積に比べて少ないため大きな影響はありません。

またヒトの細胞は細菌の細胞に比べて柔らかく、柔軟性があるために、液体金属のナイフが同じ圧力で刺さっても被害が緩和されるのです。

細菌との戦争は終わるのか?

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細菌との戦争を化学面だけでなく物理面にも広げたことで、人類と細菌の戦争は最終局面を迎えたのでしょうか?

答えはまだ出ていませんが、研究では液体金属のナイフを鋭くすることにかなりの苦労があったとのこと。

十分に強い刃でないと、細菌を効果的に切り裂けなかったからです。

しかし、細菌の適応進化の能力は凄まじいものがあります。

刃に対抗して強靭なタンパク質の「アーマー」を作る変異を起こすことも考えられるでしょう。

したたかな構造で膜を補強された細菌ならば、もしかしたら液体金属のナイフを受け付けなくなるかもしれません。

そうなれば、人類はより強力な破壊方法を考案する必要に迫られるでしょう。

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reference: zmescience / written by ナゾロジー編集部
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