女優の芳根京子が、刊行以降の累計が50万部を超える織守きょうやの小説の映画化作品『記憶屋』に出演。1月17日(金)より上映される。本作は主人公の吉森遼一(山田涼介)が、幼なじみの真希(芳根京子)らとともに、人の記憶を消せるという都市伝説「記憶屋」の真実に迫ろうとする物語。NHK連続テレビ小説や“月9”主役の抜てきなど、若手実力派女優として知られる芳根に、本作の制作秘話や、女優としての躍進を支える想いなど語ってもらった。

【写真】真剣な眼差しをカメラに向ける芳根京子

■ つらい記憶は「忘れるよりも前向きに変換」

――芳根さん演じるヒロインの真希が、幼馴染山田涼介さん演じる遼一と失われた記憶をめぐるという物語ですね。どんな部分が見どころか教えてください

芳根京子】すごくこの作品の素敵なところは『みんなが誰かを思っている』という点です。その思い方は違うけれど一つも間違いがなくて、人それぞれ思い方にも形がある。どれも心に響きました。私が演じた真希の遼一への思いというのも、やさしくて強くて…女性としてかっこいいと思いました。真希という役に出会えてよかったと思えました。

――山田さんとの共演や、現場でのエピソード

芳根京子】山田さんは、インナーを着ないんです。冬の撮影だったので、山田さんも「寒い寒い」って言ってるから、みんなで「インナーを着ればいいのに」って言ったのに、頑なに着ないんですよね(笑)。私服で着ないのはまだわかるんですけれど、そんな薄着の衣装でも着ないんですか!?みたいな。こだわりがすごくて、みんなで心配していました(笑)。

――そんな話ができるくらい、共演者でわきあいあいとした現場だったんですね。

芳根京子】そうですね。衣装さんメイクさんもすごく明るくて、パワフルなチームでした。本当に居心地がよかったです。

――役作りで現場のコミュニケーションを遮断する方もいらっしゃいますが、芳根さんは割とコミュニケーションをとるタイプなんですね。

芳根京子はい。今作は特に、私と山田さんは幼馴染の役だったので、普段から真希、遼ちゃんって呼び合っていました。

――今回の映画にちなんで…芳根さんにも「忘れたい記憶」「忘れたくない記憶」がありますか?

芳根京子】忘れたくないものは“全部”ですね。過去があって今の自分がありますから。記憶屋に記憶を消してもらって無かったことにするんではなく、いい記憶に塗り替えたいと思います。失敗って消したいって思うこともあるけれど、その失敗があるから次に生かせるわけで。私は「つらい記憶を消して前に進む」「消さない方がいい」どっちの言い分も分かるからこそ。その中間ですね。絶対、忘れたくはない。でも、それが自分を苦しめるならば、前向きに変換したいって思いますね。今までオーディションに落ちたとかいろいろな経験をしてきましたが、マイナスだからこそ忘れたくないこともあるんだなって、今作を通じて考えさせられてたどり着きましたね。

■ “一作ごとに強くなる”芳根京子の女優哲学

――今作はみなさん感情を爆発させるシーンがありました。作品を通じてどんな学びがありましたか?

芳根京子】色々な意味で“強く”なりました。監督は妥協を一切しない方で、本当にいいものが撮れるまでOKが出ませんでした。どれだけ感情的なシーンでも、「これでいいや」とはならず「これがいい」に到達するまでは一切妥協がありませんでした。私としてはその理想に立ち向かったというか…自分の集中力を切らさないとか、今作は自分との闘いでした。この映画の撮影の後、舞台のお仕事があったのですが、この経験がすごく生かされたことを実感しました。

――というと…結構追い込まれるシーンもあったのでしょうか?

芳根京子】そうですね。追い込まれたという威圧感があったわけじゃないですが。「監督がOKっていうまでやる」「芳根で良かったって思ってもらいたい」っていう一心でした。

――視聴者側からすると、芳根さんは天才肌的な部分があるのかなと思いましたが、作品ごとに追い込まれて強くなって…を繰り返してきたのでしょうか。

芳根京子】自分で天才肌とおもったことは一度もないです。演じたその瞬間に出てくる感情って、なにも間違いじゃないんですよね。でも正解というのも無くて。だからこそ、「どういうものを求められているのか」と「自分がどういう感情になるか」が一致すればすごくシンプルな話なんです。

私の感情だけでやって「はいOK」が続くのも違いますよね。私自身が感じる感情と役に求める感情の乖離があった時に監督の希望に応えられるか。“求める”って、期待されていると私は思うんです。その期待に応えたい一心でやっています。なので、毎回すごく苦しんで、身も心も削るくらい悩んでいますね。役者さんはみんなそうだと思います。

■ 自分に期待できる自分でいたい

――本作は「つらい記憶を忘れるか否か」というテーマでした。芳根さんのこれまでは、NHK連続テレビ小説や月9主役の抜擢など、プレッシャーもあったと思いますが、つらいときどんな風に自分を励まして壁を乗り越えてきたのでしょうか。

芳根京子】主役で真ん中に立たせていただくときは、自分の責任の部分がすごく多いしものすごいプレッシャーです。だからクランクインの日には胃腸炎になったりするんです(笑)。でも、それくらい自分が自分に期待しているんだなって思っています。でも、主役じゃないからといってプレッシャーを感じないわけでもないんですよね。主役じゃないからこそ感じるプレッシャーだってあります。壁の乗り越え方…『胃腸炎になるだろうなー』って想像して過ごしていますね(笑)

――覚悟を決めるというか、肝が座っていますね!

今までも朝ドラや映画…自分の中で気合を入れれば入れるほど、体調を崩しちゃう。でも、どうなるかは始まってみないと分からないです。そういう意味では、クランクインの前のほうが不安です。撮影が始まってしまえば逆に悩む余裕もないですから、始まる前までが自分との闘いです。現場に入ったら一人じゃないし、今まで本当にいいチームに恵まれ続けてきたことに感謝ですね。

――女優としてのこれからの目標は?

芳根京子】女優のお仕事も、自分自身も“豊か”にしたいですね。今年は23歳になるので、今同じ歳の友人は、大学を卒業したり、社会人一年目の年代なんです。実は私も、2019年は新たなスタートの年でした。というのも、舞台、映画、声優…すごく幅広くお仕事をさせていただきました。2020年はそれをもっと濃くしたいですね。プライべートでは年齢が上がるにつれて、お仕事をご一緒させていただいた方々とお食事に行かせていただく機会も増えました。女優としても個人としても、“厚み”のある人になりたいです。豊かに、たくさんチャレンジする一年にしたいなって思っています。(東京ウォーカー(全国版)・加藤由盛)

『記憶屋 あなたを忘れない』にヒロイン役で出演する芳根京子