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今回紹介するのはネットフリックスで配信されている『Liberated:The New Sexual Revolution』である。タイトルはなんのこっちゃという感じだが、春休みでハメを外すアメリカの大学生たちの姿から、現代の性をめぐる問題を扱った作品だ。

春休みで調子に乗った男子学生から見る、現代の男女問題
スプリングブレイカーズ』という映画がある。春休み、ハメを外してフロリダに遊びに来た女子大生たちが巻き込まれる、度を超えた乱痴気騒ぎと犯罪を描いた大変面白い映画である。この映画からもわかるように、アメリカの学生にとって春休みの旅行は普通の休暇とは意味合いが違う。歴史的文脈(スプリングブレイクの起源は1930年代まで遡れるらしい)や商業的な意味づけと結びついたスプリングブレイクは、学生たちが自由を謳歌する一大イベントだ。

といっても、所詮は大学生である。若く健康な男女が大量にリゾート地に集まってやることと言ったら、さほど種類はない。『Liberated』でも、まずはそのド派手な乱痴気騒ぎをガッツリと見せてくれる。取材班が向かった先はフロリダ州のリゾートビーチであるパナマシティ・ビーチ。春先のフロリダでしか見たことがない「上戸の先についたホースを口にくわえて、上戸の方から酒をガンガン注がれて飲む装置」とかがゴロゴロ出てきて、若い男女が人種を問わずビーチでハイになっている。

そうなればナンパに精を出す男子もゴロゴロ出てくる。取材班は5~6人の男性チームについていき、彼らが手当たり次第に女性に声をかけまくっては自分たちが泊まっている部屋に連れ込む様を撮影する。男子学生たちは「俺たちはセックスしにきた」「感情とは切り離してるし、好きになったりしない。やりたいだけ」「セックスした数が全て。顔しか見てない」と堂々とカメラの前で話し、実際に自分たちの部屋に同い年くらいの女子学生を連れ込む。相手とロクに親しくなる前に連れ込むから、終わった後に取材されても「あの子、なんて名前だったっけ?」と記憶もあやふやだ。

とにかくこの時期のフロリダでは性的な行為がとてもカジュアルなのだ、と学生たちは楽しげに語る。しかし、男子学生たちの言動はどう見ても完全に調子に乗っており、このあたりからこのドキュメンタリーは不穏になってくる。「とにかくセクシーで、一緒に歩いてたら自慢できるような女を探してる」「よりエロくていい女がいるんじゃないかと思ってる」と特に屈託無く話す彼らの姿から、『Liberated』は「なぜ男子学生たちはこのような行動をとるのか」という点にフォーカスしていく。

やっぱり、人間を人間扱いしないのはよくないっすね……
フロリダのビーチに集まった男子学生たちの多くは、とにかくたくさんの女子学生とセックスすることを目標にしている。見た目がエロかったり可愛かったりすれば他はなんでもOK。一緒に来ている友達より一人でも多くの女子を口説き落とし、少しでも多くの人数とヤるために生まれたと彼らは豪語する。その裏には仲間内からのプレッシャーや、社会やメディアによって刷り込まれた「いい女をモノにできる男こそが男らしい人物」という常識があることを、『Liberated』は専門家の談話によって少しづつ明らかにしていく。

一方、取材班はメキシコのカンクンにも向かう。カンクンも有名なリゾート地で、アメリカの学生たちが多く集まるスポット。そこに遊びにきた女子学生二人組をカメラは追う。彼女らは「怖いかどうかで言ったらちょっと怖い」「遊びたいけど、飲み物のグラスに手で蓋をしながら踊りたくない(手でグラスを塞いでないと何を入れられるかわからないのだ!)」と喋りながらも、それでも派手に遊ぼうとパーティに出かけていく。

彼女たちは、出かけていった先で急遽ビキニダンスコンテストに参加することに。ステージに上がり、ビキニ姿でそれぞれ10秒ずつダンスするのだ。腰を振って踊り、男だらけの観客にアピールする女子たち。しかしエキサイトした客たちは、女子学生に向かって「Show your tits!(おっぱい見せろ!)」の大合唱を投げかける。酔っ払った数百人からおっぱい見せろと合唱され、司会者からは「見せてあげてよ!」と煽られる女子学生。ビキニをめくらずに引っ込むとブーイングの嵐……。キツい光景である。

女子学生たちがしんどくてもこういったノリについていってしまうのは、「若い女性は外(主に男)からの評価でしか自分の価値を示せず、どのような女性であれば価値があるかを自分で決めることができない」という社会状況に原因があることが、『Liberated』では懇切丁寧に説明される。ボンヤリした話ではなく、毎年春に実際に繰り広げられている光景を見せられた後に「こうなっているのにはこういう原因があります」と専門家の話を聞かされるので、説得力がある。

さらにこのドキュメンタリーはもっとつらくしんどい現実に切り込んでいく。よくもまあ、春休みの学生の乱痴気騒ぎをフックにして、ここまで暗澹たる部分に踏み込んだものだと思う。というか、『Liberated』で示されている物事は日本人にとっても対岸の火事ではない。例えばナンパ師の養成講座から派生した性犯罪やちっとも減らない痴漢、東大生による強制わいせつや各種ハラスメント事案……。日本でもおなじみの男女差にたんを発する犯罪やトラブルも、アメリカのスプリングブレイクにまつわる問題も全部根は一緒であることが、『Liberated』を見るとわかってくる。要は全部、人間を人間扱いしていないから発生しているのだ。

いわゆる「男らしさ」「女らしさ」と根深くつながっている春休み中の学生たちを見ていると、自由を謳歌しているように見える彼らがちっとも自由じゃないことが透けて見えてくる。出てくる男子学生たちはマジで調子に乗っているし、見ていて不愉快なシーンもある(人によってはマジで無理な場面もあると思うので、無理だと思ったら見るのを中断した方がいいだろう)。それでも、「本当に人間が自由になるためには」「人間を人間として扱うには」ということについて考えるきっかけになる、有意義なドキュメンタリーだと思う。
しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)
どうもみなさまこんにちは。細々とライターなどやっております、しげるでございます。配信中毒26回。ここではネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、各種配信サービスにて見られるドキュメンタリーを中心に、ちょっと変わった見どころなんかを紹介できればと思っております。みなさま何卒よろしくどうぞ。