約35億年前、地球上に生命の芽が誕生したと言われています。
この生命の誕生に重要な役割を果たした元素の1つがリン(原子番号15番「P」)です。リンはDNAの重要な成分である他、細胞膜の形成にも使われています。
現在天文学者はこうした現在の地球環境を生み出すために重要な役割を果たした化学元素の起源を探る研究を進めています。
そして、新しい研究は、地球生命の誕生の鍵となるリンの起源が明らかになったことを報告しています。
リンはどこで生まれ、どのようにして地球にもたらされたのでしょうか?
この研究は、イタリア国立天体物理学研究所(INAF)の研究者Rivilla氏を筆頭著者として発表され、1月15日付けで天文学の学術雑誌『王立天文学会月報』に掲載されています。
https://doi.org/10.1093/mnras/stz3336
リンの起源を探る
今回の研究は、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA望遠鏡)は、星形成領域AFGL 5142の観測から、星形成の際にリン含有分子がどこで形成されるかを明らかにしています。
星形成領域とは、星の材料となる星間雲(ガス)が高密度の領域のことで、銀河の星たちはこの領域から誕生しています。この領域を観測することで、太陽系のような星系がどのように誕生するかを調べることができるのです。
AFGL 5142は太陽から約6400光年離れた星形成領域で、天の川銀河の中に存在しています。
この領域には星を生み出す材料となる、ガスや塵の雲が高濃度で存在しています。
こうした星間雲の中に若い巨大な星が形成されると、ガスの流れが影響を受けて、ガス密度の薄い泡のような空洞が生まれます。ALMA望遠鏡の観測では、この泡と星間雲の境界に沿ってリン含有分子が豊富に存在していることがわかりました。
もっとも豊富に確認できたのは、酸素原子1つと結合した一酸化リンで、これは若い星が放つ衝撃や放射線が泡の壁にぶつかることで、リン含有分子を生成したと考えられます。
リンを地球へ運び込んだのは?
現在彗星に関する調査がかなり進んでいて、地球に海をもたらしたのも彗星である可能性が示唆されています。
JAXAのハヤブサもこうした調査に貢献していますが、欧州宇宙機関 (ESA) の彗星探査機ロゼッタも彗星に関する貴重な情報をもたらしています。
探査機ロゼッタは、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)という、太陽系を周回する彗星を調査しています。彗星は、太陽系形成当時の成分を保持したまま、宇宙を巡っています。
67Pは2つの彗星が結合した不思議な形状をしている特徴的な彗星ですが、ロゼッタに搭載された分析計ROSINAは、この彗星にリンの存在を示唆するデータをもたらしました。
しかし、ROSINAの主任研究者であるKathrin氏は、この時点ではどのようにして彗星がリンを獲得したかはわかりませんでした。
そんな中、Kathrin氏は先のALMA望遠鏡によって発見された星間雲の泡の壁で一酸化リンが生成されるという研究を会議で聞きます。そして自分たちの研究していた彗星の含むリンが、この一酸化リンからもたらされたというシナリオを考えたのです。
星間雲の泡は、太陽のような星の誕生とともに崩壊します。そのとき泡の壁に生成されていた豊富な一酸化リンは凍結し、星の周りにある氷や塵の中に閉じ込めえられます。これらの塵や氷は、惑星が誕生する前に、集まり合ってリンを含んだ彗星を形成していきます。
これが原初の太陽系に有機体であるリンを運びこんだのです。
2つの研究が合わさった生命の起源
遠い星形成領域を観測するALMAと、太陽系内の彗星67Pを調査していたロゼッタ。離れた2つの研究を行う天文学者の協力によって、星形成領域で発生したリンが、地球へ運び込まれるプロセスが明らかになりました。
星間で生まれた分子が、いかに地球にもたらされるか、そうした研究は巨大なパズルを完成させるような作業だと言います。今そのピースの1つが見つかったのです。
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