天海祐希主演の医療ドラマ「トップナイフ─天才脳外科医の条件─」日本テレビ系・土曜22時〜)がスタートした。

多くのドラマが視聴率に苦戦する中、テレビ朝日の「ドクターX」「相棒」「科捜研の女」などが安定して高視聴率をキープしていることから、近年、他局も含めてやたらと医療・刑事ドラマが増えている。

その結果、今期は医療ドラマ6本、刑事ドラマが6本の計12本と、新ドラマの半分以上が医療・刑事物という、どうかしている状況に。

そんな中、スタートした本作。

天海祐希主演の医療ドラマということで、視聴率ひとり勝ち状態の人気ドラマ・米倉涼子主演の「ドクターX」に対抗して、キレキレの天才脳外科医・天海祐希が、男たちが支配する医局に挑んでいく……みたいな展開を勝手に予想していたが、もっと深い人間模様が見られそうな本格医療ドラマだった。

原作・脚本は「医龍−Team Medical Dragon−」「コード・ブルードクターヘリ緊急救命−」、さらに天海祐希主演の「BOSS」などを手がけた林宏司。演出は、天海祐希主演の問題作女王の教室」「演歌の花道」の大塚恭司。

日テレが、本気で医療ドラマ戦国時代を征しにきたぞ!」と感じる布陣だ。

脳腫瘍ができると性格が一変する?
東都大学病院の“女帝”と呼ばれる脳神経外科医・深山瑤子(天海祐希)は、外科部長から新しくやって来た3人の医師のまとめ役を押しつけられる。

もっとも模範的な外科医に贈られる「トップナイフ賞」を日本ではじめて受賞し「オペは超一流だけど、人間的にはクズ中のクズ」と噂される“世界の”黒岩健吾(椎名桔平)。

外科とカテーテルの“二刀流”を操る西郡琢磨(永山絢斗)。

そして、医学部を首席で卒業したものの、現場ではテンパッてまったく使い物にならないポンコツ新人脳外科医・小机幸子(広瀬アリス)。

天海祐希が脳外科医を演じるとなれば、凄腕の医師であるのは既定路線。確かに深山も凄腕ではあるようだが、第1話では、そのさらに上を行く天才脳外科医・黒岩との対比が描かれた。

今回の患者は宅間浩(二階堂智)。

ベトナムからの帰国後、頭部に外傷を受けて入院したところ、かなり大きな脳腫瘍が見つかり、手術をしなければ命の危険がある状態。

トップナイフ”黒岩が手術をしてくれるということで、本人は安心しているようだったが、妻のみどり(堀内敬子)や子どもたちは心配そうにしており、直前になって「もっとしっかり患者を診てくれる先生に手術をやってもらいたい」と黒岩の手術を拒否する

深山は、手術しかやらず患者と向き合わない黒岩の姿勢が不安を与えていると考え、自ら執刀を申し出るが、みどりたちの不安には別の原因があった。

浩は8年前に脱サラし、投資会社を立ち上げたところ大成功。大金を持って人が変わったようになり、家族にDVを繰り返すように。ベトナム旅行も女と行っており、それを知った長男が浩を殴った結果、頭部にケガを負って入院することに。

脳腫瘍ができると性格が一変することがあるって……」

みどりは入院後、温厚になっていた浩の腫瘍を取り除くことで、DVが再発するのではないかと恐れていたのだ。

深山は、そもそも乱暴な性格になったこと自体が腫瘍のせいだったのではないかと説明。腫瘍を取ることで昔の温厚だった性格に戻る可能性があると説得し、手術を行うことに。

結果、浩の手術は成功するが、脳の中にあったのは腫瘍ではなく、サナダムシの卵だった。おそらく、ベトナムで食べた食品に寄生していたサナダムシが中枢神経に入り込んだものと考えられる。

つまり、脳腫瘍のせいで乱暴な性格に変わったという深山の説明は間違っていたことになる。

「腫瘍を取れば昔の温厚な性格に戻る」という希望が崩れたみどりは不安全開。深山は「命懸けの手術をされすっかり人生観が変わる人もいる」という苦しい言い訳をしていたが……。

結果的に、目を覚ました浩はかつての温厚そうな顔をしており、ひとまずはよかったのだが、手術直後に元気いっぱい妻を殴り飛ばす人もいないだろう。完治した後が若干心配だ。

一方、浩の手術を断られてヒマそうにしていた黒岩は、どこも異常がないように見えるものの、手足のしびれを訴えている患者の危険性を「直感で」見抜き、緊急手術を行った。

「患者のことを考えるのは医者として当然」と語っていた深山が、結果的に患者に嘘の情報を伝えてしまい、「お前は患者のことを考え過ぎる」と言っていた黒岩は、細かい説明もないままの強引にも見える緊急手術で患者の命を救う。

黒岩は浩の症状も、CT写真を見た段階で「ただの脳腫瘍とは思っていなかったけどね」と語っており、格の違いを見せつけた。

重厚なドラマから謎ダンスまで全部盛り!
今回、西郡の見せ場はほとんどなかったが、この3人の天才的脳外科医たちが「トップナイフ賞」を狙って競い合うのか、チームを組んで難病に立ち向かっていくことになるのか?

気になるのは、第1話冒頭で3人とも手術のプレッシャーから来ると思われる悪夢を見ていたこと。トップクラスの脳外科医ですら、悪夢を見てしまうほど難しい脳外科手術。その奥深さを物語る言葉がたびたび語られていた。

「(脳は)宇宙で最も複雑な創造物だ。まだ何にも解明されてない」

「普通のオペはチームプレーだけど、脳外は執刀医の腕がすべて」

「脳は傷ついたら二度と取り返しがつかない」

「床に置かれた幅10cmの板を歩くのが普通の外科医高層ビルに渡された同じ板の上を歩くのが脳外科医

ミスしてはいけないのはどんな手術でも一緒だろうが、脳外科手術でミスをした時の取り返しのつかなさは、他の比ではなさそうだ。

演技派の出演陣に重厚なドラマ。広瀬アリスのかわいいポンコツ演技&エンディングの謎ダンスと全部盛りで贈る「トップナイフ」。

今回の「脳腫瘍ができると性格が一変することがある」という情報も、「ほーっ、知らんかった!」と驚かされたが、今後も知られざる脳の奥深さを見せてくれそうで期待が持てる。

……しかし、この重いドラマの最後がなんでダンスなのか!? 確かに、マルモリダンスや恋ダンスで盛り上がったエンディング・ダンスの走りは、天海祐希と大塚恭司が組んだ「女王の教室」だけど!

あのドラマでも、冷徹な教師がいきなり笑顔で踊り出してズッコケたが、今回もなかなかの違和感だ。
(イラストと文/北村ヂン

【配信サイト】
TVer
Hulu

「トップナイフ─天才脳外科医の条件─」(日本テレビ)
原作:林宏司『トップナイフ』(河出文庫刊)
脚本:林宏司
音楽:横山克、鈴木真人
主題歌:JUJUSTAYIN' ALIVE」(ソニーミュージックレーベルズ)
医療監修:新村核、岩出康男、谷川緑野、本田俊哉、松本尚、中村光
看護指導:石田喜代美
医療CG:奥山正次(デキサ)、横山敦子(GAIN)
医療担当助監督:竹中修
医療協力:セコメディック病院、第一会若葉クリニック
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:鈴木亜希乃、茂山佳則
演出:大塚恭司、佐久間紀佳、茂山佳則
制作協力:AX─ON
製作著作:日本テレビ

イラストと文/北村ヂン