昨年、俳優業を引退したクリント・イーストウッドを筆頭に、ベン・アフレックジョセフゴードン=レヴィット、ブラッドリー・クーパーなど、俳優から監督業にも挑戦し、さらに自分で出演も果たしてしまうスターたちがいる。エドワードノートンもそんな才能あふれる一人だ。彼が監督・主演など4役を兼ねた『マザーレス・ブルックリン』が、現在公開されている。

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1999年に発表され全米批評家協会賞に輝いたジョナサン・レセムの同名小説を原作とする本作。1957年ニューヨーク。障害の発作に苦しみながらもそれを補って余りある抜群の記憶力を持つ私立探偵のライオネルは、唯一の友人で仕事のボスであるフランク(ブルース・ウィリス)を何者かに殺されてしまう。犯人を探し始めるライオネルだが、しだいに大都市を覆う再開発にまつわる腐敗へと迫っていくことに…というアメリカン・ノワールな内容だ。

本作で、主人公のライオネルを演じるほか、監督に初の脚本、さらにプロデューサーも担当しているノートン。監督・出演・製作を兼ねた『僕たちのアナ・バナナ』(00)以来、20年ぶりの監督作となるが、実は、99年に小説が発表された直後に映画化権を自ら押さえていた企画。もともとの小説の舞台90年代から、50年代の香りを感じ取ったノートンのこだわりによって時代設定が変えられ、徹底した50年代の研究・考証などを経て、10年以上にわたって脚本の執筆を行ってきた、温めに温められた念願の1作なのだ。

20年間という期間からも彼のただならぬ想いが感じ取れるが、そのこだわりの理由の一つとして考えられるのが、ノートンにとって“都市開発”というテーマが身近なものだったことだ。ノートンの祖父は慈善家であり、経済的、人種的、社会的平等を促進 するようなコミュニティの開発に取り組んできた人物。ノートン自身も、祖父が構想し作り上げたコロンビアの街で育ち、不動産開発を手掛ける会社で働いた経験もある。言うならばこの作品は、彼にとっての私的な想いが詰まった映画だ。

監督業と俳優業について「正反対のもの。演技している時は思考から遠ざかりたいし、監督している時はすべてを掌握しなければならない」と語り、そのための綿密な準備を行なっていたというノートン。三度のアカデミー賞ノミネート歴を持つなど俳優としての実力は折り紙付きだが、本作でもその実力を遺憾なく発揮。トゥレット症候群強迫性障害に苦しみ、変人扱いされながらも、世界を見極める力を持ち、真実にグイグイと迫っていくという、これまでにはなかったような探偵像を見事に演じて見せている。

また監督としても、ブルース・ウィリスや、ウィレム・デフォー、アレック・ボールドウィン、ググ・バサ=ローといった豪華キャストを集め、見事な演技を引き出している。ジャズの調べが響く、まさに大人のための心地よく味わい深いノワールに仕上がった『マザーレス・ブルックリン』は、彼だからこそ作りあげることができた一本と言えるだろう。(Movie Walker・文/トライワークス)

エドワード・ノートンが20年間温めた企画が形となった『マザーレス・ブルックリン』