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鈑金屋さんの軒先にて

text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Koichi Shinohara(篠原晃一)

東京、武蔵小山にある鈑金屋さんの軒先に、白い2代目ホンダ・シティはチョコンと佇んでいた。このクルマが鈑金待ちでないのは、年式の割にはキレイなボディからもすぐにわかった。

【画像】懐かしのディテール 取材した2代目ホンダ・シティ【実車】 全41枚

「昔、ホンダさんの仕事をやっていたから、お付き合いで買ったんだよ。もうかれこれ25年以上乗っているんじゃないかな。近所をちょこっと走るだけ」とは矢野沢自動車鈑金の矢野沢さん。

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2代目シティは、ベーシックな道具感が漂っている。2ドアであることも、すっきりした見た目に貢献している。

走行距離は約5万6000kmだから、中古車的に表現すると「ワンオーナー、低走行、フルノーマル」というすばらしい個体である。

最近街でもすっかり見かけなくなってしまった2代目シティだが、いま改めて見ると低く抑えられ、体脂肪率1ケタ台を思わせる簡潔な造形に美しさを覚える。

まるでフィアットパンダのような、ベーシックな道具感が漂っているのだ。2ドアであることも、すっきりした見た目に貢献している。

1992年式でグレードはベーシックなCEで、ホイールも鉄チンなのだが、ボディサイドやリアウインドーの上部には誇らしげに16VALVEの文字が躍っている。

珍しいのは、シングルカムなのに気筒毎4バルブであるという点なのだが、SOHCではエバれないと思ったのか、敢えて16バルブとだけ書いてある点が面白い。

今でも「これで十分」のワケ

2ドアというと、わが国ではドアを開けた時に幅を取るので敬遠されることもある。だがシティはボディ自体がコンパクトなので、問題なし。

室内は思いのほか広く、そして明るい。ベーシックグレードらしく、シートはグレーのビニールと布のコンビで地味にまとまっている。

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ベーシックグレードらしく、シートはグレーのビニールと布のコンビ。

ギアボックスは5速マニュアルと4速ATが用意されていたが、この個体は前者のほうだ。

矢野沢さんに「このクルマ、ギア付きだけど、運転できる?」と言われたので「はい、大丈夫です」と答え、お借りする。

そうそう、昔はマニュアルのことを「ギア付き」と言い、逆にオートマのことを「ノークラ」(クラッチがないという意味)なんて言っていたっけ。

都内を走る2代目シティは「驚くほどすばしっこくて速い!」なんてことはまるでなくて、まあ平凡な乗り物である。5速マニュアルもハンドリングも全く癖がない。これで助手席に伝票の山があったら営業車そのもの。

でも後席もたっぷりしているし、ボディの見切りもいい。そして何よりクルマが軽い。速いわけではないのだけれど、クルマがスッスッと前に出る、そんな感じ。

駐車スペースが限られる都内であれば、今なお2代目シティで十分という人がいても不思議ではない。

実はベーシックこそ絶滅危惧種?

実用上これで十分と思えるシティだが、もちろん現代の安全基準に当てはめれば、これで十分なはずがない。

とはいえモデルチェンジを間近に控えた現行フィットのハイブリッドの車重は、今回の2代目シティより430kgも重い1170kgになる。

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身近にある絶滅危惧種(?)。そんな大仰な言い方が似合わないくらい、白いシティは今日も普通に活躍している。

安全装備や快適装備をひとつずつ足していくとこうならざるを得ないのだろう。けれど車重が増してしまったことが原因で、強くて重いボディ構造等が必要になるというイタチゴッコもそこには含まれるはずだ。

安全で速いかもしれないけれど軽快でスッキリ、とは言えない現代車のジレンマがそこにある。

ネオヒスとして2代目シティを考えると、これから先はスポーツカーよりもはるかに珍しい存在となっていくだろう。

実用車は徹底的に使い倒されることが多いし、少しぶつけただけで廃車になってしまったりする。CR-iのような上級グレードはモータースポーツ用に改造された個体も少なくないし、ベーシック・モデルの場合、パーツを再生産もあまり期待できない。

身近にある絶滅危惧種(?)。そんな大仰な言い方が似合わないくらい、白いシティは今日も普通に活躍しているのである。


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