あいさつは「ごきげんよう」、職場での通称は「姫(カトリーヌ・ママ子)」というぶっとんだお母さんリアルな日常を綴った漫画『プリンセスお母さん』(KADOKAWA)。



並庭 マチコプリンセスお母さん 』(KADOKAWA2019年11月29日



 作者の並庭マチコさんがツイッターでこの漫画を公開すると話題となり、フォロワー数は13万人超えに。昨年度にはKADOKAWAから単行本として出版され増刷も決まる人気作品となりました。


お母さんのブレない「プリンセス設定」で爆笑の渦へ



並庭 マチコプリンセスお母さん 』、「母は貴族がお好き」より



 自称、「姫」であるアラカンのお母さんは一国のプリンセスという設定で、世知辛いこの世の中を華麗に生き抜いています。


 出かけようとすると「領地の視察ですか姫?」と突然貴族の親子ごっこを始めてくる愉快なお母さんなのですが、これが並庭さん家族のリアルな日常であることに驚きを隠せません。しかし、読み進めていくうちにこの家族の不思議な世界観にどっぷりはまっていきます。


 お母さんは徹底したプリンセス設定を作り込んでおり、職場でも同僚とのあいさつエアードレスドレスの裾をちょっとあげてお辞儀する仕草)でおこなうなど、気高きプリンセスとして生活しています。



並庭 マチコプリンセスお母さん 』、「母は貴族がお好き」より



 お母さんの作り込んだ世界に巻き込まれていく家族・職場の人々の言動に笑いながらも、そこにはお母さんをとりまく優しい世界が広がっており、爆笑とともに温かい気持ちになります。


ポール・マッカートニーソウルトーク



並庭 マチコプリンセスお母さん 』、「うちの母」より



 家族でヨーロッパ旅行に行った並庭さん一家ですが、現地でお母さんは堪能な英語とフランス語を使い家族をアテンドする様子がつづられています。専業主婦であるお母さんですが、心の底から愛してやまないビートルズポール・マッカトーニーにいつ嫁いでも大丈夫なように、語学力を自己流で身につけたとか。


 念願のポール・マッカートニーの来日ライブに行った際は、ポールを前に双眼鏡を握りしめ直立するお母さんに「踊ったりしないの?」と聞いた並庭さんに対して、お母さんは「ポールソウルトークしているから」と返します。お母さん曰く、ソウルトークとはポールに「こんなに愛しているのに、私たちの距離はこれ以上縮まらないのですか」等、心の中で話しかけることのようです。


 家族旅行では、歩きすぎて太ももに傷を負った並庭さんに対して、家族がとった行動に爆笑。必見です。


◆犬と行きずりの関係を続ける
 大の犬好きのお母さんは、街中で犬を見かけると赤ちゃん語になり「いいこでちゅね~!」と可愛がります。それを見た並庭さんは、そんなに犬が好きなら家でも飼えばいいのにと言うのですが、お母さんは幼いときに自宅で飼っていたトヨという名前の犬が忘れられず、その子のような犬をみつけるまでは飼えないと断言。


見つからないから行きずりの関係でガマンしているの」というお母さんの言葉のチョイスに吹き出します。とにかく何に対しても愛情深く真剣なお母さんです。



ギャグ漫画のはずなのに、最後に泣ける
 お母さんのぶっとびな日常にクスクスと笑ってしまう漫画である一方で、「こんなお母さんうらやましすぎる」「家族が仲良しすぎる」と思えるほど、この漫画が家族の愛情に満ち溢れていることに気付かされます。



並庭 マチコプリンセスお母さん 』、「私と料理」より




並庭 マチコプリンセスお母さん 』、「私の姉」より



 なぜ、一国の姫設定でお母さんは生活をしているのか、という問いにお母さん自身が「憧れの世界でもなんでも、楽しく自分の心のままに生きたいから」とこたえています。


 お母さんは幼いころに、実の父親の暴力や厳しい家族のもとで制限された暮らしをしており、自由に楽しく生きる自分なりの方法を「姫」を演じることで見つけ出したようです。そして、幸せそうに歌うビートルズの姿に感銘を受け、境遇に嘆くことも自分を卑下することもなく楽しく生きようと誓います。


「自由に楽しく生きること」を意識することで、お母さんは自分だけでなく愛すべき家族も守り通してきたのではないでしょうか。作品の中で、このことが詳しく語られているのですが、読むとお母さんの深い信念を感じて泣けます。


 一国の姫であるお母さんの言動に爆笑する一方で、最後には号泣。人はもっともっと自由であっていいんだと、作品を読んで深く考えさせられます。


 作者の並庭さんは作品や家族についてこのように語っています。


お母さんの元気でお茶目な言動で自分も元気に
――お母さんを漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。


 以前、息抜きで描いた姉の実録マンガツイッターに投稿したところ反響があったので、創作マンガネームがなかなか進まなかった時期に、母のこともマンガに描いてみようと思って公開しました。そのときは継続して描くつもりはありませんでした。


――家に帰れば、プリンセスお母さんがいる生活は、並庭さんにとってどんなものですか?


 プリンセスというか、母の元気でお茶目な言動をみていると、自分も元気をもらえてありがたいです。自分が疲れていると、ちょっとうまく反応できないこともありますが(笑)、これだけ長く家族をやっていても予想外の言動がくるので、飽きないですし楽しいです。


◆母・姉・自分、3人ともヤバめのドジ
――お母さんだけでなく、天然過ぎるお姉さん、(『プリンセスお母さん』の発売にあたり、並庭さんの下着を売ろうとした)パンツ売りの弟さんなど、とても楽しそうなご家族ですが、「この家族にして、私あり」と思われたご経験などありますか?




パンツ売りの弟」って童話みたいですね(笑)。自分が家族と共通してると感じる場面は、好奇心が旺盛だったり、主義主張がはっきりしていたり、音楽が好きだったり、日常的にたくさんありますが、とくに母については、私も10代のころベルばらの影響で貴族ごっこしていましたし、妄想が激しく、推しへの愛も重いので、似てると思うことがしょっちゅうです。
 あとは母・姉・自分、3人ともヤバめのドジです。


◆ドタバタ楽しい並庭さん一家
――収録されているお話で、家族内でお気に入りのエピソードもしくは並庭さんご自身が特にお好きなエピソードありましたら、教えてください。


 家族がどの話を気に入ってるかはとくに聞いてませんが、母からは、母が過去に飼ってた愛犬のトヨについてのマンガを描いたらとても喜んでくれて、お礼を言われました。私自身は、巻末描き下ろしの家族旅行の話が気に入っております。当時のドタバタを楽しく思い出しながら、私の家族らしい話を紹介することができたので、是非読んでもらえたら嬉しいです。


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 爆笑も愛も全てつまった『プリンセスお母さん』。レトロかわいいイラストや「シャラランセ」など、お母さんが動くときに発生するかわいらしいプリンセス効果音に心も癒されます。


【並庭マチコプロフィール
ギャグマンガ家イラストレーター多摩美術大学を卒業し、2017年に商業誌デビュー2019年11月29日に初のコミックプリンセスお母さん』を上梓。Twitter@manga_m


●『プリンセスお母さん』(KADOKAWA



並庭 マチコプリンセスお母さん 』(KADOKAWA2019年11月29日



<文/瀧戸詠未>


【瀧戸詠未】ライター/編集者。趣味は食べ歩き・飲み歩き。



並庭 マチコ 『プリンセスお母さん 』、「母は貴族がお好き」より