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年も明けて、海外の掲示板「reddit」の科学系スレッドでは、2020年に期待できる技術の話題が盛り上がりを見せています。

今回の記事では、2018年に研究が発表され話題になった、おならを監視するカプセル型の飲み込める検査機を紹介します。

この装置は腸内ガスをリアルタイムに検出することができます。腸内ガスとはつまりはおならです。

そんなものを調べて何になるのか? と思うかもしれませんが、腸内ガスは食物の消化や腸内細菌が未消化物を発酵させることで生じています。そのためおならを調べれば、食べ物の消化状況や腸内細菌叢の様子など実に様々なことがわかるのです。

この技術が進歩すれば、もう腸の検査のために大腸内視鏡検査のような侵襲的検査をする必要もほとんどなくなると期待されているのです。発表当時、この研究は民間企業との提携で実用化を目指すと言われていました。

バリウムを飲んでぐるぐる回されたり、胃カメラを飲み込んだり、お尻からカメラを差し込まれたり、そんな辛い検査は近い将来なくなるのでしょうか?

この研究論文は、オーストラリアロイヤルメルボルン工科大学(RMIT大学)のKourosh Kalantar-Zadeh氏を筆頭とした複数の大学研究者が参加する研究チームにより発表され、2018年1月8日に学術雑誌『Nature Electronics』に掲載されました。

A human pilot trial of ingestible electronic capsules capable of sensing different gases in the gut
https://www.nature.com/articles/s41928-017-0004-x

カプセル型の飲む検査機

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この装置はビタミン剤と同じサイズのカプセルで、長さ26mm、外径は9.8mmと非常に小さいものです。しかしその内部には、各種ガスセンサーとボタンサイズの酸化銀電池、そして携帯電話で情報が受信可能となる送電システムを持っています。

カプセルの端にはガス透過性の膜があり、そこから腸内ガス(水素、二酸化炭素、酸素)の濃度を測定します。

この測定は腸内の各部の状態、腸内細菌が何をしようとしているか、どの食品が消化器系で問題を起こしているか、といった見えない体内の様子を明らかにすることができるのです。

この装置の何より重要な点は、リアルタイムに状態が検出できるということです。

これまでの腸内細菌叢の分析には、糞便のサンプルが必要で、これはリアルタイムの腸内細菌叢が反映された測定ではありませんでした。

しかし、このカプセルは食べ物と一緒に飲み込むことで、食べたものの影響で起きる腸内細菌叢の変化を監視することができるのです。

食物繊維の働きをダイレクトに監視

Credit:大腸癌研究会

この研究では、最初は豚を使って実験を行っていましたが、論文では実際人にカプセルを飲み込んでもらう実験までこぎつけています。

研究者たちはまず、カプセルの腸管内での動きを監視しました。これによると、カプセルは飲み込んでから体外へ排出されるまでに20時間かかり、内訳は胃に4.5時間、小腸に2.5時間、大腸に13時間という結果になりました。

消化器系のガスレベルは、大腸に達したところで水素や二酸化炭素が高い値を示しますが、酸素は一貫して低い状態が維持されていました。これは腸内細菌の多くが嫌気性(酸素に弱い性質)であるためと考えられます

被験者には最初、非常に食物繊維の多い食事とともに飲み込んでもらいました。食物繊維を多く含む食品とは、一般的に穀類・野菜・きのこ・豆類・根菜類などです。

この場合、カプセルが体外へ出るまでに23時間かかりました。食物繊維は未消化のまま大腸へ到達し、そこでビフィズス菌などを始めとした善玉菌の働きで発酵して、短鎖脂肪酸を作ります。これは酸の一種で悪玉菌を殺菌する作用があります

食物繊維を摂ることや、ヨーグルトがお腹にいいと言われるのは、この短鎖脂肪酸を作るためなのです。

しかしこの実験では、被験者は食物繊維の取り過ぎで腹痛を起こしてしまいました。これは食物繊維の摂りすぎが原因で、大腸内の酸素濃度が上昇し、嫌気性の善玉菌がダメージを受けてしまったためだと考えられます

実際この時の便を採取して調査したところ、腸内細菌叢は悪玉菌へシフトしていることが確認されました。過ぎたるは及ばざるが如し、ということでしょうか。

2回目の実験では、今度は食物繊維をほとんど摂らない食事をしてもらいましたが、こちらも問題がありました。このときカプセルは体外へ出るまで3日強かかったのです。

このとき大腸内では水素ガス濃度が急低下しており、発酵が減退していることが示唆されました。追加で食物繊維を摂ることで、この状態は12時間ほどで回復したと言います。

この食物繊維の比較実験は他に4人の被験者を使って行いましたが、いずれも腸内ガスは同様の傾向を示しました。

高繊維質の食事が腸内の酸素濃度を上げるというのは新しい発見です。それまで腸内は基本的に無酸素状態が保たれると考えられていたのです。

実験は、適切な量の食物繊維を摂ることが、消化器系の健康を保つためにいかに重要かということを示しています。

カプセル検査機が定期健康診断になる?

人体を使った試験を成功させたことで、このカプセルが完全に安全なもので、体内に残留することもないということが示された。

この技術は民間企業と提携して研究を進めることで、実用化を目指しています。

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お尻から物を入れるのは得意だ! という人も世の中にはいるかもしれませんが、大半の人達はそんな異物を体内へ入れる検査は苦手だと思うので、こうした簡単な検査技術はぜひ早期に実用化して定期検診に利用してもらいたいですね。

医者から渡されたカプセルを薬のように飲み込んで、スマホのアプリで記録するだけで健康診断が終了となるなら、健康を維持することもずっと楽になるでしょう。

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reference: RMIT大学,arstechnica / written by KAIN
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