ウマやアリなどの動物や虫たちは「前方」が決まっているものです。大抵は頭が付いている方が前であり、その方向へ進むように手足が動きます。敵に対面したときにも、頭を翻してから頭の方向へ向かって走って逃げます。
しかし、ヒトデなどの頭がなく全方位に向かって腕が伸びているような生物は、どのように前方を決めているのでしょうか?
北海道大学電子科学研究所の青沼仁志准教授の研究グループは、クモヒトデが触られた腕の2つ隣の方向を前方と定める傾向を発見しました。
論文の詳細は1月8日に「Journal of the Royal Society Interface」誌に掲載されました。
A general model of locomotion of brittle stars with a variable number of arms
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2019.0374
クモヒトデの「前」ってどっち?
クモヒトデは柔軟な腕を使って海底を移動するヒトデに似た海の生物です。腕の数は4~7本と個体差があります。
クモヒトデは放射相称動物であり、星型の前後左右のない身体をしています。ヒトデやウニなどもこれに該当します。
研究グループはクモヒトデの逃避行動に関する実験により、放射相称動物が前方を定めるメカニズムを解明しました。
実験方法は簡単です。クモヒトデのひとつの腕の先端を爪楊枝で触って逃避行動を誘発し、クモヒトデが逃げる方向を調べたのです。また逃げるときに腕がどのように動くのかも観察しました。
クモヒトデは触られた腕の2つ隣に逃げる
実験結果により、クモヒトデには「触られた腕の2つ隣の腕の方向へ逃げる」傾向があると分かりました。
つまり、4腕個体は刺激した腕とは反対方向に、5腕個体は反対側から左右どちらかに少しずれた方向に、7腕個体になると刺激に対して直角方向に逃げるのです。
クモヒトデの各腕には放射神経が走っており、すべてが身体の中央にあるリング状の神経を介して繋がっています。
ある腕が刺激を受けると、その信号が中央神経に伝わります。中央神経はリング状なので、信号は左回りもしくは右回りで伝わっていきます。それぞれの腕にも順番に信号が送られるようになっています。
1番目に信号が伝わる腕(刺激があった隣の腕)には、平泳ぎのような動きをさせます。2番目に伝わる腕は「前方」となり、左右に偏らない中立的な動きをさせます。そして3番目に伝わる腕には1番目の腕と対になるような動きをさせるのです。
クモヒトデは腕の数にかかわらず、刺激によって即座に前方が定まるメカニズムをもっています。そして、定まった前方に進むように両隣の腕が動くのです。
研究者たちはこの柔軟なメカニズムを全方位移動ロボットの制御に活用できると考えています。災害現場や宇宙環境において、瞬時の判断で巧みに方向転換できるロボットを生み出せるかもしれないのです。
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