蕎麦の修業をしている友人から面白い連絡が飛び込んできた。

 さいたま市北浦和駅から北東方向へ10分ほど歩いたところに「仙龍」という中華料理店があるのだが、そこのメニューには「日本そば」があって、県立浦和高校の先生にも人気で、土曜日のお昼は学生と先生で大混雑らしいというのだ。

東大合格者数、公立高全国2位の名門

 北浦和駅周辺で有名な所といえばやはり県立浦和高校だ。男子校で文武両道の極み。キンキンこと愛川欽也さんや宇宙飛行士の若田光一さん、文筆家の佐藤優さん、アナウンサーの堀尾正明さんもOBであり、他にも財界などに著名人を多数輩出している。東大の累計合格者が公立高で全国1位とのこと。また2019年は東大合格者数で公立高、全国2位だという(1位は日比谷高)。一方で、今回の花園でベスト16になったラグビー部を始め、水泳部や陸上部なども全国大会で活躍している。

なぜ中華店で日本そばを出すのか?

 話を「仙龍」に戻そう。今回のミッションは、次の2点だ。

1)そば屋でラーメンを出す店は多いが、「仙龍」のように中華店で日本そばを出す店は少ない。なぜ出すようになったのかを知り、そばを食べてみる。

2)浦和高校の先生が「日本そば」を食べているというのは本当かを確認する。

 そこで2020年1月第2土曜日のお昼頃、訪ねてみることにした。

 北浦和駅前はこぢんまりしているが、旧浦和市から続く大きな街の一部という雰囲気である。浦高通りをしばらく歩いていくと威風堂々とした浦和高校が右手に現れ、そこから少し進んだ右手に、紺色の屋根にオレンジ色のテント屋根の「仙龍」がすぐ現れた。

 看板には「コーヒー、中華」と書かれている。ちょうど午後0時すぎの到着。暖簾をくぐると、店内は意外と空いていた。店の奥に80歳を超える大女将の伊藤みや子さんがいてお客さんとの話に華が咲いていた。

 壁一面にびっしりと書かれているメニューをみて、びっくり仰天。

「読むだけで30分かかりそうな」メニュー

 チャーハンカレーライスなどの「ご飯の部」、らーめん系の「麺類の部」、力そばや人気の肉そばなど日本そばの「きそばの部」、「定食系」、さらに焼餃子やポークソテーハンバーグなどの「一品料理」、冷やっこマグロブツなどの「おつまみの部」、ビール日本酒・酎ハイなどの「お飲み物」、さらに「サービスメニュー」とすべて読むと“30分はかかりそうな”品数である。浦和高校生限定の「浦高ラーメン」(350円)なんていうのもある。

おすすめは「日本そば」……ではなく「もやしそば」

 娘さんだろうか店を切り盛りする若女将に、「日本そばがうまいと聞いてきたのですが、お店のおすすめは何ですか?」と尋ねてみた。すると、日本そばではなく、「タンメンとかもやしそば(らーめん)」だというコケ芸的な回答に、慌てた。

「日本そばを食べに来たんですけれど……」と切り返すと、

「うちのは大衆系のそばだからね。やっぱりもやしそば(らーめん)にしなさいよ」とのこと。大衆系のそばが食べたかったのだが、ここは郷に入っては郷に従え。そこで、まず「もやしそば」(550円)を注文してみた。

 大女将さんに話を聞くと、「仙龍」は昭和34年創業だという。なんと私と同じ60歳だというと大喜びされた。「あんたはOBかい?」と聞くので、0.1秒で「違います」と答えた。

「食べたいものは何でも作ったんだよ」

 なぜそばを出すようになったのかを聞いてみると、意外とあっさりした答えが返ってきた。

「店を始めた時からあるよ。食べたいものは何でも作ったんだよ」とのこと。なるほど埼玉県には製麺屋さんも多く、そばうどんが好きな人も多いのだろう。「仙龍」はそういう意味で間口の広い中華店だったわけだ。

 そうこうしてるうちに「もやしそば」が登場した。

 シャキッと炒められたもやしと豚のばら肉とニラが少し。スープをひとくち啜ってみると、これは熱くて確かに旨い。やけどしそうになりながら麺を食べると地元の製麺所の中華麺だろう、なかなかコシもあってツルツルと食が進む。

『これを浦高生は食べているのか。うーん、ウラヤマシイ』

 と感心して食べていたが、ミッションがあったことを思い出し、途中で若女将に「たぬきそば」(600円)を無謀にも追加注文してみる作戦にでた。大女将の「よく食べるなあ~」という掛け声も入り、店内が盛り上がる。程なくして登場した「たぬきそば」はたくさんのたぬきかまぼこ2枚がのって量もかなり多い。

 つゆを啜ると出汁がじんわりと利いたやや甘いタイプで埼玉らしい味である。そばの麺は細目でコシもあり食べやすい。

 その時、いいアイデアが頭に浮かんだ。

「これは浦高生でも気が付かないだろうな……」

もやしそば(らーめん)」のスープが残っていたので、そこに日本そばを留学してつけ麺風にして食べてみると、これがまた絶品だった。

『これは浦高生でも気が付かないだろうな』と一瞬ほくそ笑んだ。しかし、よく考えると「仙龍」で自作メニューを作ろうと思えば果てしなく膨大な数ができるわけである。

麻婆豆腐」を頼んで「かけそば」にのせれば「麻婆そば」だし、「焼餃子」を頼んで「かけそば」にのせれば「焼餃子そば」である。この果てしなく緩い感じが「仙龍」のダイバーシティー的人気の秘密なのかもしれない。

 そうこうしているうちに、12時30分が過ぎて、浦高生であろう学生たちが入店してきた。そしてよく見ていると、「もりそば」(500円)を注文する生徒が2人もいたのだ。

 先生以外にも日本そばは食べられているのか。しかし、育ち盛りの高校生で昼にもりそばとは大人みたいでシャレオツだ。大衆そば的に大いに感心したわけである。

「今日は2階で浦高の柔道部のOB会があるから満員ね」

 ミッションを完了し、帰ろうとしたら大女将が大声で次のように教えてくれた。

「今日は2階で浦高の柔道部のOB会があるから満員ね。夜来ちゃだめだよ」

 浦高生、先生、OBそして父兄にも愛されている「仙龍」のような店はめったにないと思う。また訪問しよう。大女将お元気で。

写真=坂崎仁紀

INFORMATION

仙龍

住所 埼玉県さいたま市浦和区領家5-5-1

営業時間 月~火、木~日
     11:00~15:00
     17:00~22:00(L.O.21:00

 定休日 水曜日

(坂崎 仁紀)

こぢんまりしている北浦和駅前