(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 韓国におけるハリー・ハリス駐韓米国大使叩きがさらにエスカレートしている。トランプ政権は公式に「ハリス氏は全世界でも最も偉大な米国大使の1人だ」と言明し、韓国側の自制を求めた。

 一方、韓国内では「ハリス大使の口ひげが日本の朝鮮総督を想起させる。けしからん」という幼稚な糾弾まで広まった。ハリス大使叩きが結局は愚かな人種差別に他ならないことを示す格好の例証だといえよう。

米国メディアが異様な大使叩きを報道

 米軍のアジア太平洋軍司令官だった海軍大将のハリー・ハリス氏が韓国駐在大使に就任すると、同氏の母親が日本人だったことも含めて韓国側から敵意あふれる非難が浴びせられた(参考:本コラム「駐韓米国大使を激しく嫌う韓国、『日系』もやり玉に」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58630)。

 韓国でのハリス大使への攻撃は日を追うごとにエスカレートし、現在は同大使の「日本人の血」のみならず「口ひげ」までもが激しく叩かれている。

 この動きを米国の大手メディアもこぞって報道している。ニューヨークタイムズ1月16日付)は「アメリカ人の口ひげが韓国で騒ぎを起こす」という見出しの記事を掲載した。ワシントン・ポスト(1月18日付)は、「韓国民が怒りの対象を見いだす 米国大使の口ひげ」という見出しで報じた。またワシントン・タイムズも、1月20日付の「米国大使は自分の口ひげだけが問題だと述べるが、韓国民は違う主張を」という見出しの記事で、韓国内で同大使が攻撃されている状況を詳しく報道した。

 それらの報道によると、韓国の各種活動団体や国会議員がハリス大使の最近の言動に反発し、「ハリス氏は母親が日本人なので韓国に対して特殊な反感を持っている」「ハリス氏の口ひげは韓国を弾圧した日本の歴代の朝鮮総督を思い起こさせる」といった類の非難を広げているという。

 ハリス大使はこのところ韓国に対して、「在韓米軍駐留経費の負担増」「北朝鮮との交流拡大に関する米国政府との協議」「日本との間の軍事情報保護包括協定(GSOMIA)の堅持」などを求めてきた。いずれもトランプ政権の文在寅政権に対する要請であり、同大使は本国政府の求めを韓国側にそのまま伝えてきただけである。だが、同大使の軍人らしい率直な物言いなどが、韓国側から「横暴である」という批判を受けてきた。

トランプ政権が懸念を表明

 韓国では、とくにハリス大使の母親が日本人だという出自と口ひげを問題にして、同大使の肖像画を口ひげ部分から切り裂いたり、「日本人総督」という呼称をぶつけたりする攻撃が多くなった。

 この動きに対してハリス大使は1月中旬、ソウル駐在の外国記者団らに以下のような反論を述べた。

「私は日系米人ではあるが、あくまで米国の大使だ。私の出自を取り上げて非難することは誤っている。歴史の政治利用だともいえる」「私は海軍からの退役を記念して口ひげをはやすことにした」「韓国でも、民族独立のために戦った志士の多くが口ひげをはやしていた」

 トランプ政権も韓国でのこうした状況に懸念を表明している。国務省のモーガンオータガス報道官は1月20日、韓国の中央日報のインタビュ―に応じて、「ハリス大使はポンペオ国務長官の完全な信頼を受けており、全世界に駐在する多数の米国大使のなかで最も偉大な大使の1人だ」と語った。

 また同報道官は、在韓米軍駐留経費問題についても次のように語った。「米国民は韓国防衛のために戦い、多くの生命を失ってきた。多額の経費も払ってきた。米国民はいまも韓国民を守るために死をも覚悟している。韓国側は米韓同盟のこうした歴史を理解してほしい」。つまり、米国が韓国に、在韓米軍のための経費負担増を求めるのは当然だというわけだ。

安重根もはやしていた口ひげ

 韓国側はハリス大使の口ひげが日本の朝鮮総督や軍人を想起させると非難する。だが、ハリス大使自身が指摘したように、韓国の歴史上の著名な人物の多くが人目を引く口ひげをはやしてきた。

 韓国事情に詳しい日本の龍谷大学の李相哲教授は、日本テレビの討論番組(1月20日放送)で、「韓国でも独立運動の活動家らが口ひげをはやしていた。伊藤博文暗殺で知られる安重根もそうだった」と語った。

 安重根は1909年10月に当時の北満州のハルピン駅で、日本の元首相で朝鮮総督を務めた伊藤博文を暗殺した。日本当局はテロリスト、暗殺犯として安重根を処刑したが、韓国では長年“救国・独立の闘士”として敬意を表されてきた。

 その安重根も目立つ口ひげを最後まではやしていたことで知られる。

 だから、ハリス大使の口ひげを日本の朝鮮総督やかつての朝鮮半島統治と結びつける韓国側の非難はまったく説得力を欠くといってよい。このような韓国側の官民の理不尽な感情的反発のホコ先がハリス氏に不当にぶつけられているのである。この種の人格攻撃は明らかに人種差別、偏見であるといわざるをえないだろう。

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ハリー・ハリス駐韓米国大使(2020年1月16日、写真:AP/アフロ)