ヒゲが朝鮮総督の亡霊を連想させる
昨年末から米国から見ていて呆れ返っていることがある。文在寅大統領とその周辺、与野党、メディアの異常な言動だ。
以下は米メディアがソウル発で報じた関連記事だ。
(https://www.cnn.com/2020/01/17/asia/harry-harris-mustache-intl-hnk/index.html)
「呆れ返ったこと」の一つは一国の特命全権大使、特に同盟国の大使を朝野を挙げて口汚く罵り、国外追放まで言いだす輩まで出ていることだ。
人種差別もさることながら外交儀礼の欠如も甚だしい。
もう一つ、「呆れ返っていること」は、北朝鮮に罵詈雑言を浴びせられても韓国は朝野で申し合わせたように一切反論しないことだ。
韓国情勢に詳しい米主要シンクタンクの上級研究員はこの2つのケースを一言で片づける。
「まさにこれぞ、サウス・コリアン・メンタリティ―(韓国人の心理)というものだ」
同上級研究員は続ける。
問題の核心について「アメリカ人の論理」(これは先進民主主義国間の論理と言った方がいいかもしれない)でこう説明する。
「まず、ハリー・ハリス大使(元海軍大将、前米太平洋軍司令官)の身体的な特徴(ヒゲを生やしている)をことさら取り上げ、あざ笑い、(日韓併合当時の)朝鮮総督を彷彿させると大人げないいちゃもんをつけている」
「米メディアも指摘しているが、明らかに人種差別的行為だ」
「軍人出身のハリス大使はいわゆるキャリア外交官(職業外交官)とは異なる。単刀直入な対韓要求をするのはそのためだ」
「東アジアの米軍を総括してきた経歴から米韓同盟で今何が必要かを熟知している。しかもドナルド・トランプ大統領の意向を十二分に知っている。彼の言っていることはトランプ大統領が考えていることだ」
「問題は彼が韓国人が考えるアメリカ人のイメージ、つまり白人ではないこと。しかも韓国人が嫌いな日本人の血を受け継いでいる日系人だということだ」
「韓国人は日韓併合ということもあって日本人を完全な外国人とは見られない。かっての支配者と被支配者、愛憎相半ばする親戚のような関係から抜け出せずにいる」
「しかもアメリカに対しては、朝鮮戦争終結以降、庇護者と被庇護者の関係が続いてきた。守られながらも屈辱を味わってきた」
「親米でありながら反米という複雑な韓国人独特のサイコロジーが続いている。ハリス大使バッシングにはこうした文化人類学的な要素に加え、人種的多様性のない韓国人社会の均質性が拍車をかけている」
袋小路に入った文在寅の対米外交
ハリス大使バッシングの背景には危険水域に達している米韓同盟関係がある。
在韓米軍防衛費分担交渉は膠着状態から抜け出せない。1月14、15日交渉が再開されたが、進展はない。
米国は、石油輸入の70%を中東地域に依存している韓国に対し、ホルムズ海峡防衛のための有志連合への参加を要求している。
米中の板挟みになっているTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)追加配備問題、さらには文在寅政権が要求する戦時作戦統制権移管問題がある。
(https://crsreports.congress.gov/product/pdf/IF/IF10165)
こうした懸案を抱えながら、(あるいは抱えているからこそ目先を変えるために)文在寅政権は北朝鮮との非核化交渉とは切り離して、対北朝鮮個別観光などを促進すると言い出している(米側は対北朝鮮制裁に抵触する可能性があると批判的だ)。
トランプ政権はこれら懸案で満額回答を求めている。
だが反米機運(より正確に言うと米国の言いなりにはなりたくないというコンセンサスだ)の強い国内世論を抱え、文在寅大統領としては絶対にのめない。
4月には総選挙が控えている。ここで米側に全面的に譲歩することにでもなれば、韓国世論を敵に回してしまう。
任期半ばにして完全にレイムダック化してしまう。政権崩壊の可能性すらある。
ところがハリス大使はこれら懸案に韓国が全面譲歩するよう公式非公式の場で見境なく繰り返してきた。
3(注:陸海空に加えて海兵隊と湾岸警備隊を入れれば5)軍の最高司令官・トランプ大統領の意向を軍人らしくストレートに韓国側にぶつけている。いわゆる外交的配慮に欠けると指摘する向きもあった。
(現に米国内には外交専門家筋の間では、外交経験のない、しかも日系人を在韓大使に指名したトランプ大統領の見識のなさを批判する向きも出ている)
テレビ・インタビューに登場するハリス大使は、韓国人から見れば「日本人」だ。アメリカ人(白人)ではない。
対韓で強硬発言をする在韓大使は「日本人」なのだ。これほど一般庶民に分かりやすいものはない。
韓国朝野のハリス大使バッシングはまさに「坊主(日本人)憎けりゃ、袈裟(日系人)まで」ということになるのだろう。
2015年にはハリス大使の前任者のマーク・リッパート大使が韓国人暴漢に襲われ、重傷を負ったり、2019年には過激派学生がハリス大使館公邸に侵入した。
これら学生を韓国当局は一切逮捕してない。その意味ではここ数年在韓米大使は危険な赴任先ということになる。
北朝鮮は「放蕩息子」?
唯一の合法的な朝鮮民族国家?
北朝鮮についてはどうか。
なぜ、21世紀でも最も独裁国家の一つである北朝鮮(正式名は朝鮮民主主義人民共和国)が昨年来、(ハノイでの米朝首脳会談決裂以降)文在寅政権を「茹でた牛頭」「おじけづいた犬」と口を極めてなじっているのに韓国は一切反論も批判もしないのか、だ。
北朝鮮の外交最高責任者の一人、金桂冠外務省顧問は1月11日には、こうまで罵倒している。
「南朝鮮は、われわれが南北対話に復帰するだろうというむなしい夢を見ずに、馬鹿な境遇に置かれないために自重しろ」
「南朝鮮が(トランプ大統領と金正恩委員長との間の)親交に割り込もうとするのは生意気千万だ」
それでも文在寅大統領をはじめ青瓦台高官も外交当局も、公式にはおろか非公式に何ら反応を示していない。韓国メディアも一切反応していない。
この疑問を在米韓国人社会の実力者Aさんにぶつけてみた。Aさんは筆者にこう答えた。
「韓国人にとって日本人は兄貴分(Big Brother)。北朝鮮は弟と考えている。だから弟が少々悪いことをしても兄に食ってかかろうとそこは大目に見てやれ、という不文律のようなものがある」
「北朝鮮が共産主義国家だろうと、独裁国家だろうと、そこは同じ朝鮮民族。他の国家との付き合い方とは異なってしかるべきだというわけだ」
「何やら聖書に出てくる放蕩息子の話*1を連想させられるが・・・(笑)。財産を使い果たし、やりたい放題のことをやってきた息子でも回心すれば父親も兄も受け入れるというたとえ話だ」
*1=新約聖書「ルカの福音書」(15:11-32)に出てくるキリストの語った神の哀れみ深さを示す聖句。
「最近、在米韓国人の間では新たな動きがある」
「一つは反文在寅政権の急先鋒、保守系の朝鮮日報の米州版が(本紙の論説は載せずに)親文在寅政権の論説を掲載し始めたことだ」
「米韓関係の亀裂で、米国内に広がる反文在寅色に朝鮮民族として反発するためか、どうか」
「文在寅大統領がやろうとする南北朝鮮和解→南北朝鮮統一を妨害する外国勢力は許せない、という基本スタンスをとるものが在米韓国人の間にも広がっている証左かもしれない」
ちょっとナイーブすぎる。少なくとも北朝鮮はそうは見ていないのではないのか。
筆者は、米朝関係に長年携わってきた元国務省高官の一人にも聞いてみた。この元高官は、北朝鮮の対韓高圧姿勢をこう分析した。
「北朝鮮は韓国を英語で表記する時に『south Korea』と書いている。『South Korea』と書かない。あくまでの小文字だ」
「これはかってホー・チ・ミン初代ベトナム民主共和国主席が南ベトナムを『south Vietnam』と書き、エーリッヒ・ホネッカー・ドイツ民主共和国国家評議会議長が西ドイツを『west Germany』と書いたのと同じ倫理だ」
「つまり朝鮮半島の唯一の国家は北朝鮮であり、韓国が外国勢力が作った傀儡政権だという認識からくる」
「金正恩委員長の南北朝鮮統一は北朝鮮主導の下でしか実現しないし、それこそが朝鮮半島における唯一の合法的な朝鮮民族国家だと考えている」
「北朝鮮が韓国を何事につけ蔑視し、馬鹿にしているのはこのためだ」
「ところが左翼民族主義者の文在寅大統領は南北朝鮮統一を究極の目標としている。どんな形で統一させるのかという具体的な考えはないのではないのか」
冒頭に掲げた年末から年頭にかけて起こっている2つの「呆れ返った出来事」を米国サイドから取材してみると、以上のような点が浮かび上がった。
筆者にしてみれば、ハリス大使は日本生まれ、母上が日本人でもあることから捨て置けない、けしからん話だ。日系人に対する差別と偏見は日本人に対してのものでもある。
もう一つの、北朝鮮にこれほど罵倒されても韓国人は反論しない件。
これはコリアン同士(朝鮮人同士)の話だから第三者としてどうこう言うべき話ではない。そうした現実があることを受け入れる以外ない。
韓国を罵倒し、日本を完全無視する北朝鮮が、口が裂けてもトランプ大統領を名指しでは批判しないという「現実」。
そのことからも北朝鮮が外交とはどうあるべきかを熟知していることが分かる。
北朝鮮にとってトランプ大統領は非核化交渉を続ける上での唯一の命綱。制裁緩和の取引相手はトランプ氏しかいないのだ。
今週12日からそのトランプ大統領の上院弾劾裁判が始まる。弾劾は回避できたとしても秋の大統領選で再選されるという保証はない。
民主党大統領が誕生する可能性の方が大かもしれない。その辺りを北朝鮮はどう見ているか。
東アジア政策研究の保守派重鎮、エドウィン・フルナー氏(ヘリテージ財団創設者)はこう明言している。同氏は今もトランプ政権中枢と太いパイプを持っている。
「トランプ氏が大統領選で敗れたとしても米国がブッシュ・オバマ時代に再び戻るということはないだろう」
(http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/01/17/2020011780130.html)
その心は、米国は北朝鮮が非核化を受け入れない限り、対北朝鮮制裁を緩和することはない、ということだ。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 韓国、「母が日本人だから」で米国大使を批判の噴飯
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